どうたぬきの巫女

海豹ノファン

予兆

「世の中物騒になってきたわねえ…」


テレビには様々な事件が起こり始めている。

ある地域ではパンデミックが起こり人々は病に倒れ。

ある地域ではデスゲームが流行りアプリの中に消えていきプレイヤーが男女関係なく殺し合いをし。

ある地域では悪の組織が現れ市民を犠牲にして殺し合いをしている。

何故だろう…ここ最近は物騒な事件が多く出始めているのだ。


「空はこんなに青いのにね…」

「ふふ、そうね♪」


こたつに入りのんびりとみかんを頬張りながらテレビを眺める姉妹。


「あ、鬼が帰ってきたわ、でも私がいるから大丈夫よ」

「うん♪マヤお姉ちゃん大好き☆」


そんな姉妹にもこの後不幸な出来事に見舞われる事になるなど、彼女らにはまだ知る由も無かった。

舞台はほぼ現代日本に近いクラスター世界(幻想世界)。


近頃、そのクラスター世界は謎の霊現象により徐々に汚染されるようになり、霊現象に立ち向かえる陰陽師や外部の敵と戦える軍隊が活動せざるを得ない状況に陥りつつあった。



ーーー

悲劇はごく些細な出来事にはじまった。

ある日、結婚を間近に控えた長女マヤ。

しかし呪いの効果でアザミがマヤとなり、マヤの魂は何処かに消えていく。

アザミの体はその時に消え、マヤの言動には変化は見られるもののそれはちょっとした事件の1ページ。

キリナの運命を大きく揺るがすキッカケはキリナの毎晩見る悪夢である。

キリナの夢にマヤが現れ、助けを求めてくる。

しかし幼すぎるキリナにはどうする事も出来ない。

しかしマヤはキリナの夢に何度も現れ、救いを求めて来るのだ。



『キリナ……ワタシハココヨ…タスケテ……』


ーーー悪夢、その前ーー

新海凛一家、そこには美人で優しい長女、気性の激しい次女、少しおっとりした三女がいた。

長女、マヤはスタイル、ルックス、性格と共に完璧で、何より三女キリナをたいそう可愛がっていた。


「キリナ、あんた生意気なのよ!」


優しいマヤと対照的にずんぐりした体型で友達のいないアザミはキリナをコンプレックスの鬱憤に苛めていた。


「アザミ!やめなさい!」


マヤはアザミからキリナを庇っていた。


「うえ~ん!マヤお姉ちゃん!」

「よしよし、怖かったね」


マヤは泣きつくキリナを抱いて優しく頭を撫でていた。

キリナは優しく、何でも力になってくれて、そして面白いマヤがとても好きだった。

一方、弱い者には強いが強い者には強く出れないアザミはマヤに対しこの上ないルサンチマンを覚えていた。


(くそっ許せない、私に無いものをマヤ姉さんは何でも持っている…こうなったら…)


ーーー

ある日の深夜、アザミはマヤとキリナが寝ているのを見計らって我が家の祖父が残したという古い書斎である本を読み漁っていた。

それは黒魔術の本であり、対象者に災いを起こすと言う本だが捨てても何故か戻ってきて焼いてもその火が瞬く間に消えてしまうという事で仕方なく奥底にしまい込まれた謎の本であった。

不気味な程真っ暗な部屋で、アザミは懐中電灯を照らしながら埃(ほこり)まみれの本棚をあさる。



(グフフ…ここは本当は入ってはいけないと決まりはあるけど我慢の限界よ…妖術で調子に乗っているマヤ姉さんを懲らしめてやるんだから…)


その本を見てアザミはあるページに目を止めた。

それは身体と魂が対象者と入れ替わると言う術だった。


「グフフ…これは良いわ、マヤ姉さんも私の身体でいる事の辛さを思い知るが良い!」


そしてアザミはその術を実行した。

それが後に如何なる悲劇が起こるとも知らずに…。


ーーー翌日ーーー



「マヤお姉ちゃん!大変だよ!」


キリナは翌日マヤを起こしにいく。


「何よ!うるさいわね!」


マヤは思わず声を荒げる。



「マヤお姉ちゃん??」


珍しく不機嫌な声で愛想の無い表情のマヤにキリナは少し戸惑う。


「…何でもないわ、何よ?」

「アザミお姉ちゃんが…」


キリナとマヤはアザミの部屋へ向かう。

アザミの部屋には目を開けたままぐったりとしたアザミと本、魔法陣を描かれた傷ついた床がアザミの体を取り囲んでいた。



(そんな…まさか…)


マヤは顔を青ざめた。

マヤは実は昨日の深夜にアザミの呪いでアザミの魂が取り憑いたものであり、マヤの魂は何処かに消えて目の前のアザミの身体は抜け殻となっていたのだ。

そう、マヤとアザミの身体と魂は入れ替わるはずだったのだが、失敗によってアザミの魂はマヤの身体に入り、マヤの魂は何処かに消えてしまったのだ。


ーーー

その時マヤのズボンのポケットから携帯が鳴り出した。



「はい」


「あ、俺だけど、あのさ、渡したいものがあるんだ」



あ、そう言えばマヤお姉さんにはツトムと言う彼氏がいたんだっけ…。

アザミは思った。

この身体でずっといるのも悪くないわ、マヤお姉さんには悪いけど、マヤお姉さんの彼氏も物凄いイケメンだし。

マヤお姉さんは何処かで幸せに過ごしているんでしょう、この身体でプロポーズを受けて結婚…。

グフフ…。



『マヤ?具合でも悪いの?』



ツトムはいつもと話し方が違うマヤを怪訝に思ったのか、気遣って声をかけた。



「何でもないわ、今行く!」


マヤはツトムの言う待ち合わせ場所に向かい、家から飛び出した。


(どうしたんだろマヤお姉さん、いつもより怖くなってると言うか…)


キリナは後ろからマヤを見てそう思った。


ーーー

数日後、マヤとツトムはめでたく結婚した。

マヤ(アザミ)のいつもと違う様子に戸惑ったものの愛している熱意はマヤと変わらないどころかもっと強くなってるだろうと言う気持ちがツトムには伝わり、そのまま結ばれたのだ。

ところがキリナは嫌な予感が消えなかった。

アザミの身体はマヤの身体と魂の入れ替わり後、すぐに無くなり、アザミがその時以来帰って来なくなった事、そして夢の中にマヤが現れ、泣きながら訴える夢がずっと続いていた事。



(キリナ…私はここよ…キリナ…)

(マヤお姉ちゃん!?なぜ泣いているの??)



そうは言っても私はここよと言うばかりで返事には答えないマヤ。

その数日後の事だった。

史上最悪の天災。

[ワイヤーズブレイク]が幸せ絶頂期にあるマヤとツトム、キリナ達のいる街を襲ったのだ。


ーーー

マヤ達のいるマシュラ・タウンに大災禍が発生し、炎が街中を襲った。

逃げ惑う人々。

その時マヤ、ツトム、キリナは襲う瓦礫や炎から逃れていたがその時マヤはキリナの危険をその場で感じとる。

キリナのすぐ頭上に大きな瓦礫が落ちて来ているのだ。


「キリナ!!」


マヤはキリナの身体を突き飛ばした。

突き飛ばされ、倒れるキリナだがその時は自分の身に何が起こったのかすらわからなかった。


「マヤ!!」


その直後、マヤが大きな瓦礫の下敷になっているのをその場で見てしまうのだ。


「マヤお姉ちゃん!」

「ごめんね…キリナ…ツトムさん…私、ずっとあなた達を騙していた」


マヤは涙をボロボロと流しキリナ達に心の内の罪悪感を伝えようとする。


「何の事だ…?」


マヤの言ってる事を理解できないキリナとツトム。


ーーー


「私は身体はマヤだけれど意思、魂はアザミのもの、私はマヤ姉さんが憎くて呪いの術をかけて身体と魂を入れ替えるつもりだったの!」


「???」



キリナとツトムにはマヤの言葉は理解出来ない、しかしあの時のあの光景を思い出しおぼろげながらも思い出してきた。



マヤとアザミは魂が入れ替わり、アザミはしばらくその場で死んだように固まっていたが救急車を呼び、目を離したその後すぐにいなくなり、何事も無く日々を過ごす事になった。

その時はマヤの身体となったアザミにはマヤは何処かで幸せに過ごしているに違いないと思い、自分が美青年と付き合っていると言う夢のような日々に酔いしれて事実を話さなかった。

しかし結婚後、このような幸せな日々で良いのだろうかと言う罪悪感が徐々に芽生えてきて、苦しむようになったが、それをキリナやツトムには言えなかった。


ーーー

その直後、ワイヤーズブレイクによる大災害でこれがマヤの起こしたものと思うようになったアザミは今度こそキリナ達に事実を伝えようとしたのだった。


「私、酷いことしたよね?キリナ、私のようになっちゃ駄目よ、一生懸命生きなさい!」



アザミの涙ながらの叫びにキリナは言葉を返す。



「お別れなんで嫌だよ!確かにアザミお姉ちゃんは嫌いだった、でも、本当はすごく優しいお姉ちゃん、私のお姉ちゃんだよ!だから一緒に逃げよう!」



「キリナ…いつの間にか大人になったね…、これなら、私のように歪まなくて…!」


「お姉ちゃん!」



火がマヤの身体に燃え移る。



「キリナ!逃げるんだ!!」


ツトムはキリナをマヤから離し逃げ出した。



「お姉ちゃん!!」



こうして、マシュラ・タウンは全焼し瓦礫しかその場に残らなくなった。



ーーーー


それから新しい生活を始める事になるキリナ達だが、キリナのマヤが泣き叫ぶ夢はとめど無く続いた。



心配になってキリナを病院に連れて行き、診察して貰った結果、ワイヤーズブレイクに巻き込まれた事によるショックと医師からは診断されたが事実、何の解決も為されず、そのまま退院させられた。



キリナはその何故か治らない不安とマヤの無念を感じ取り、それを助けられない自分と戦いながら日々を過ごしていた。

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