異世界初日が終わったがこれからどうする 3

『このシークレットモードでの魔物はAランクモンスター、ダークスカルリーパーです。挑戦者は相手のHPをゼロまで削りきることができれば勝利です』


 上空に大きく俺とスカルリーパーのHPが緑色のバーとなって現れる。どうやらダメージを受けるごとにバーが減っていくらしい。


 みた感じ、武器は大鎌一つ。全体的にそんな強そうじゃないが…………気になるのはあのよくわからんオーラだな。


『どうしたんですかねアルギドさん。両者共に動きませんよ?』


『恐らく、攻撃のタイミングを見計らっているんでしょう。下手に仕掛けたら一瞬でやり返される、そんな緊張感が……………漂っています』


『成る程、つまり互いに相手の隙を探っているわけですね………』


『はい、今回はなかなかハイレベルな戦いが予想されますよ』


 解説うるせぇ……………


 ちらっと解説席をみる。気が散るなんてもんじゃない。

 瞬間、スカルリーパーは大鎌の重さを無視して超スピードで斬りかかった。


『スカルリーパーが先に行ったー!』


 風圧によって舞い上げられた土煙の中に俺目掛けて大鎌が振り下ろされる。


 左斜め上段から……………これは……受け流す!


 しかし刃は当たることなく、右手によって流れるように地面へと突き刺さった。

 そして間いれず、スカルリーパーの肉なき腹部に左からの回し蹴りを撃ち込む。スカルリーパーはそのまま壁へと打ち付けられた。直後、観客席から歓声が沸き上がる。


『入ったーーーーー! ルーカスさん、入りましたよ』


『見事な受け流しでした。まるで流れる水のように! しかもそこで終わらず回し蹴りですよ、これは相当なダメージ入ったんじゃないですか?』


 スカルリーパーのHPバーを見る。見て分かる量減っているが、ゼロまではまだまだ。


 しかし、俺は別の事に驚いた。


 攻撃を受けていないはずの俺ののHPバーが減っているのだ。


『あれ、ルーカスさん、なぜか挑戦者のHPも減ってますよ? ダメージ受けましたかね』


『フッフッフッ、気づきましたかアルギドさん。実はあれ、あの黒いオーラのせいなんですよー』


『あ、あのオーラが原因なんですか?』


 な、なんだってー!


『ええ、実はあのオーラ、接触した対象のHPを強制的にへらしてしまうんですよー』


『そ、そんな、チートじゃないですか!?』


『Sランク試練ですから~』


 Sランクっていっときゃどうとでもなると思ってるだろ!


 がらがら、っと瓦礫の中からスカルリーパーが這い出してくる。心なしか、カクカクと揺れる頭と顎が俺をバカにしているようにさえ見えた。


「ムカつくな、こいつ」


 オートリボルバーを取り出し、二三発揺れる頭部にぶちこんだ。が、オーラによって失速しているのか、一発辺り蹴りの半分程度のダメージにしかなっていなかった。


『予想以上に強敵ですねー』


『Sランク試練ですからー』


『もうあなたそれが言いたいだけでしょう』


 俺の思考中にも、二人の意味不明な解説は続く。


 まあでも


 スカルリーパーはひゅんっと風切り音をだし、安定の超スピードで迫ってきた。


「倒せんことは無いな」


 再度、大鎌が振り下ろされる。


「『創造』」


 しかし、刃が当たる瞬間、否、それよりも早く、俺の手にはが握られていた。



 ダァアン!



「カハァ」




『こ、これはーーーー!』


 7.62mm口径弾はスカルリーパーの頭部を貫き、そのまま後ろへと貫通する。衝撃で絞り出されたような悲痛な声をあげ、スカルリーパーは後ろへと倒れた。


 ドラグノフ狙撃銃

1960年代ソ連開発のセミオートスナイパーライフル。

本来絶対的に近接戦では役に立たない全長1220mmの銃身も、人並み外れた遠距離と格闘向けの適正値を持つ泉にとっては一二メートルの距離があれば運用には十分であった。


 観客は驚愕でざわめく。


『突如挑戦者の手元に武器が現れた! いったいどう言うことだ~!』


『急激にHPが減っているところを見ると、恐らくHPと引き換えに出したのでしょう。バカにならない量減ってますよ』


 どうやってるかしってるくせに、演技こもる解説だな。


『ですがその分スカルリーパーに与えたダメージ量も半端じゃないですよ!』


『ええ、一撃で半分以下、いや瀕死にまで持ち込みました!』


 確かに、HPバーは急激に減っていた。しかし、それが支障もないと思えるほどにスカルリーパーのHPは減っていた。

 急に異常なほどに減った自分のHPにスカルリーパーは困惑する。

 しかし、そんなことはお構いなしにドラグノフを構えた。


「チェックメイト……だ」


 銃口が火を吹き、二発目が発射されスカルリーパーの頭部を完全に破壊する。


 頭部の無い骸骨は膝から崩れ落ち、大鎌と共に四散した。


「………………ふう」


 試練の終わりに俺は一息つき、その場に胡座をかいて座り込んだ。


『き、き、き、決まったあああああああああ!!!』



「「「うおおおおおおおおおおお!」」」


「スゲーなんだアイツ!」


「ホントに非冒険者か!?」


「あれなんの武器だ!?」


 観客席から次々に声援が飛び込む。中には立ち上がって頭上で拍手するものすらいた。


『タイムは………!?』


 ルーカスが実況席を立ち上がり、下に向かって叫ぶ。

 何時からいたのか、目線の先から男が体を出し、プレートをつきだした。


『さ、三分四十二秒~~~!!』


 タイムが発表されると共に、再度観客席から歓喜と称賛の声が響いた。


 ………………そんな大したことなかったけどな


 と、密かに苦笑いした。そして討伐と同時に開いた背後の扉から、ドラグノフを抱えたままギルド受け付けカウンターへと戻っていった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「見事だった!」


 カウンターへと戻った泉はギルドマスターに迎えられ、またさらに別の客間のような部屋へエリナと共に連れていかれていた。部屋のそとでは未だ熱が覚めてないのか、各テーブルにて大勢の人達がやいのやいのと泉の善戦を称えている。


「ええと、名前は………」


「泉、泉竜斗だ」


「泉か………俺はここでギルドマスターをしている。ハイル=ロードだ宜しく」


 自己紹介と共に差し出された右手を、グッと握りかえした。


「あのステータス異常は強さゆえのものだった、と言うわけか」


「私はちょっち無理かなーとは思ってたけどまさか勝つとは思わなかったわ」


 ロードはエリナの言葉にウンウンと頷くと一枚の紙を取り出した表面には謎の模様が書かれている。


 あ、これ、どっかでみたことあるなー


 そう、それはデザインこそ違えどもこの世界に来てすぐにアルギドにもらったシールに似ていた。


 ハイハイはるんですねー


 ペッとはがしてさっさと手の甲にはる。しかしアルギドの時のようなヒリヒリチクチクとした感覚はない。


 しかし貼り終わった瞬間、一瞬視界がブラックアウトした。


「うわ!」


 すぐに回復するも、視界に何かしらの違和感を感じた。


 なんだ…………これ


「………何が浮いてるんだ?」


 俺視点で、目の前にいる二人の横に先程試練で見たようなHPバーの縮小バージョンのようなものが浮いていたのだ。


 加えて、俺の視界の端にも、似たようなものが浮かんでいる。


「驚いたか、これは心理の目と言うアイテムでな。このギルドの会員証明になると共に視覚内にいる相手のHP量がバーとなって見れるんだ。さっき上空に浮いていたやつはこれの応用品だな。意識して『解除』て言えば消えるぞ。戻したいときは『起動』だ」


 確かに、自分を部屋にあった鏡で見ると、そこには半分まで削れたHPバーが浮いていた。ためしに、解除と起動を繰り返した。そのたんびにHPバーは出たり消えたりする。


「これ結構便利だな」


 本格的にこりゃゲーム………………いや、これまさかVRMMOドッキリじゃないよな。なんかだんだんそんな気が……………


 そう考えた瞬間、どことなく『ちげーよ』と声が聞こえた気がしたが、スルー。

 後、個人情報記入や本人の証明その他多数の手続きをし、一時間程してから


「さて、無事ギルドに入れたし、帰るか」


「え、もう?」


 エリナが意外と言った顔で立ち上がった俺を見上げた。


「ああ、目的も果たしたしな。折角だし、少し、と言うよりは大分早いけどこの後一緒に昼飯食いにいかないか?」


「い、一緒に?」


「ああ。え、何か予定ある?」


「いや……………無いけど………………………」


「じゃあ決まりだ。行こうぜ、折角だし試練突破祝いも兼ねて美味しいところたのむ」


「ええ、え、あちょっと待って、待ってってばー」


 さっさと立ち上がり「よしめしだー」と進み出す俺を見てエリナも立ち上がり、大急ぎで後を追った。

 

 そして、後にはあえてなにも言わず途中から若干顔が赤くなっていたエリナとそれに全く気づかない俺の二人をニヨニヨしながら眺めていたギルドマスターことハイル=ロードが残された。


「どんなカップルになるのかが楽しみだ。あの様子だと二人がくっつく日もそう遠くはないな」ニヤニヤ


 と、ゲスな顔を浮かべ、同じように部屋を後にしたのだった。

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