異界大戦ーあの人が最後に示した、死と死にゆく者への道標とはー

@arizou

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その男の話は全く要領を得ず、精神的にも完全に崩壊しているように見受けられた。こんな人間から調書を取るなんて全く馬鹿げている。雨宮は舌打ちしながら、うつむいたまま意味不明の言葉を繰り返す男の顔を睨みつけた。

この地下深くにある自衛隊の取り調べ室には異星人が頻繁に投下している神経を麻痺させる有毒ガスの脅威はないが、東北の青森では異星人の地上部隊が投入されてすでに壊滅的な打撃を受けたという。この基地も同じようにエイリアンの標的にされるのは時間の問題に違いなかったからこんな事をやっている暇はないのだ。トップの人間は何を考えているんだろう。トップの判断ミスの尻拭いをさせられのは、いつも現場の人間だ。もし人類の終焉が避けられないなら、個人的にやっておきたいことだってたくさんある。こんなところで無意味な時間を過ごして死を迎えるなんて我慢がならない。


「あんたがどういう人間かは大体わかってるんだよ。警察から情報をもらってるからね。だけどあんたの口から直接言ってもらってそれを確認しなくちゃならないんだ。わかる? なあ、聞こえてるんだろう。こっちは時間がないんだよ。どういうつもりなんだ」

「ああ」

「言ってる意味は、わかるよね」

「それは、ああ」

「とにかくあんたが会ったその男の事を早く話してもらえないかな」

「それは、それは、何も言うなって言われてるから」

「あのね、あなたね、我々はただ話を聞きたいだけなんだよ。我々は警察ではないんですし、あなたを責めているわけでもない」

「少しでも何か喋ったら、大変な結末を招くからと言われてるし」

「だからその話をもっと詳しく聞かせてくれないかな。いったい誰にそう脅されたの? それをここで話したからって、その男が地下五十メートル以上あるこの場所であなたに危害を加えることができるはずはないでしょう。それに、我々は必ず秘密を守りますよ」

「あの人に隠しごとはできないよ。絶対に無理だから」


若い短髪の男はそう言って沈黙した。さっきからこの繰り返しだった。雨宮はだんだん腹が立ってきて、持っていた厚手のノートを机の上に叩き付けた。


「おい、雨宮、落ち着けよ。お前がそこで冷静さを失ったら、ますます話がわからなくなるだろう」


部屋の隅で取り調べの様子を見守っていた上司の佐治が雨宮を落ち着かせる。


「すいません。大事な時間を使って話を聞いているのに、ずっとこんなだから、つい」

「わかるよ。お前は子供も生まれたばっかりだったよなぁ。一度家に電話してこい。家のことも心配だろう」

「いいんですか?」

「いいよ。俺がその間、この人を見てるから」

「すいません。すぐに戻りますから」


佐治は柔和な笑みを浮かべ、雨宮の後ろ姿を見送った。


「まったくひどい話だよな。人生これからっていう時に、こんなことになってしまって。あんたも誰をかばっているのか知らないけど、そんなのは無駄だと思うよ。いや、自衛官の俺がこんな事を言っちゃまずいんだけど、いや、まあもうどうでもいいか。人類の最後が迫っている時に、その人間にどうかされるとかされなれないとか、本当に無意味なだと思うよ。そうだろう」


男はうつむいて何か独り言を言いながら首を横に振り続けている。やはりすでにこの男の人格は破壊されてしまっているのかもしれない。佐治はこの異常事態でそういう人間を何人も目にしてきた。この男もまたこの究極の状況に耐えきれずに押し潰されてしまった犠牲者の一人なのかもしれない。






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