第6話
◯タクシーの車内(夜)・後部座席
うおのめ「コタロウ 愛しのお姫様はあそこのビルにいる」
うおのめの示す先に巨大な電池のような形の建造物。
コタロウ「電池…?」
うおのめ「『モータル・エレクトロニクス』世界シェア80パーセントを超える超
巨大家電メーカーだ。昔洗濯機一台10円とかでばら撒いてたんだけど、知らねえ
か。それでいて高性能ってんだから人々はこぞって飛びついた。だが美味しい
話には裏がある。十五年前のある日、一晩で億単位の人間がモータル・エレク
トロニクスの家電に喰われたんだ。さっきみたいにな」
◯歓楽街(夜)
タクシーが停まり二人が降りたのは歓楽街。
コタロウ、辺りをキョロキョロと見回す。
うおのめは行く先々で、黒服や黒人や派手な女たちから声をかけられる。
やがてうおのめに連れて行かれたのは、風俗店で埋め尽くされた雑居ビ
ル。年代物のエレベーターに乗り込む。うおのめがボタンを押すと、一瞬
青白い電流が流れる。直後エレベーターが真横に移動を始める。右に左に
と揺すられながらやがてチンと動きを止める。扉が開くとそこは白っぽい
研究施設のような部屋。だがヤクザの代紋のようなものが部屋の一番高い
所にある。
パンツスーツ姿の女性、メバチ子が二人を出迎える。
うおのめ「おう連れてきたぜ『メバチ子』」
メバチ子「…おう連れてきたぜ じゃねええこのバカ上司! 社会人サークルじ
ゃねえぞ! こんなオープンな秘密結社あってたまるかあああ! うわあああ
あん」
メバチ子は泣き崩れる。
コタロウ「…ひみつけっしゃ?」
うおのめ「おれたちは『シロモノ』 憑キモノ家電どもに対抗できる人類最後の
砦だ」
コタロウ「しろ、もの?」
メバチ子は髪を整えながら手を差し出す。
メバチ子「失礼取り乱しました よろしくコタロウくん わたしはメバチ子 あなたの お母さんにはお世話になったわ」
コタロウ「…え?」
メバチ子「え!?」
メバチ子、うおのめを見る。
うおのめ「あーあ 重要機密喋っちゃったー しーらね」
メバチ子「だ、だだだ、だって! もう洗いざらい喋ってると思うじゃないです
か! はっ! 違う! この人わたしを共犯に仕立て上げたんだわ! 卑劣
漢!」
コタロウ「お母さんはここの関係者なの?」
メバチ子、大汗をかいて口をモゴモゴ動かすだけ。
やまい「少年ボーイ! きいたよ 優しくて勇敢な男の子だ」
白衣を着た小太りの中年男性、やまい(43)が現れる。
うおのめ「やまいさん アーマグラフの調整頼んます」
やまい「ノープロブレム」
うおのめが左足を台の上に乗せる。一見生身の足が武器に変わる。
コタロウ「足が武器になった…」
やまい「『生体筋電義肢アーマグラフ』インベーダーを討つ唯一のマシンだ!」
うおのめが義足を外すとバチバチと電流が迸り「ケケケ」と笑い声が響き
渡る。
コタロウ「うわっ! 電気が笑ったよ!? うおのめさん!」
うおのめ「生意気なやつだが害はない …この状態ならな」
やまい「素晴らしいだろ!? 『生命電気』だ! この意思を持ったエネルギー
は人間の発する『純度の高い電気』を喰う そうやってシロモノは自分の体を
餌にして彼らを利用するわけだ だがもっと能動的に餌を捕食する生命電気も
いる それが憑キモノ家電だ! 生命電気がひとたび電化製品に流れると姿
を変えて人類を襲うようになる そうモータル・エレクトロニクスは信じがた
いことに人間じゃない ーー宇宙人だ」
コタロウ「う、宇宙人…?」
やまい「人間は生きている限り『純度の高い電気』を発生し続ける だから効率
良くエネルギーを得るために少年ボーイのガールフレンドは 必ず生かされて
いるんだ。 オッケー?」
コタロウ「アッコちゃんが生きてるってことは…」
やまい「十分イナフだ! うおのめくん もういいぞ」
うおのめ「だいぶ軽くなったっす」
うおのめ、アーマグラフを装着して足踏み。
うおのめ「よし じゃあ行くぞ」
メバチ子「…行く?」
うおのめ「モータル・エレクトロニクスの支社ビル」
バン! と机を叩く音。
メバチ子「…いい加減にしてください 人の出払っている状況でしかもノリで 死にに行くつもりですか!?」
コタロウ「ぼくも行く! やまいさんぼくにも武器を貸して!」
やまい「少年ボーイが行ったところでご馳走になるのが関の山だ それにアーマグラフは生命電気で動く ただの人間にはーー」
コタロウはやまいの持つ汎用型アーマグラフ(銃的なもの)を奪う。撃
つ。大きな音を立てて壁に穴が開き代紋が崩れ落ちる。
やまい「使えた…」
うおのめ「…メバチ子 お前電話で生体電荷反応が二つっつったよな?」
メバチ子「? いいましたけど… まさか」
うおのめ(M)「昨日の骨折ももう治ってやがる」
やまい「ジーザス神様… 一体少年ボーイは何者だ?」
コタロウ「あ初めまして 月蝕コタロウです」
やまい高笑い。
やまい 「うおのめくん ぼくも混ぜろよ」
うおのめ「あんた戦闘タイプじゃないでしょ」
やまい 「戦闘タイプかどうかを決めるのはアーマグラフじゃない ソウルハー
トだ」
うおのめ「一理ある」
メバチ子「でもですね! 連中の基地は継ぎ目一つない鉄の塊ですよ!? どう
やって 入るつもりですか? そもそもあの中に入って 出てきたものはいな
いですよ!?」
うおのめ「いるだろ一人」
メバチ子「…策があるんですか?」
うおのめ「無策ではない」
メバチ子、頭を抱える。
メバチ子「無策ですよそれは! …まったく あなたのそういうところーー好
き」
コタロウ「わあ! 二人は愛し合ってるんだね!」
うおのめ「ねえよ」
メバチ子「う うおのめさん なに勘違いしてるですか!?」
うおのめ「ねえっつってんだろ」
やまい「相変わらずチョロいージーだ メバチ子くんは」
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