ロケットパンチの作り方

長月 有樹

第1話

 ジリリリと目覚まし時計が六畳半の部屋に鳴り響く。

 部屋の主である真田新助は、うぅぅとベッドから這い上がるようにして目覚まし時計を止める。うつらうつらとしていたが、時計の指し示てる針で青ざめる。

「ヤバい、寝坊した」

 と言葉と同時にベッドから飛び起き下着を脱ぎ新しいものへと着替える。トイレへ行き小便をして台所の冷蔵庫に入っていた1リットルの牛乳をパックのままゴキュリと飲む。朝飯を食べてる余裕は無かった。

 下着姿のまま洗面台へと向かい歯を磨き、髭を剃る。そしてワックスで短髪の髪を立ち上げる。

 靴下、ワイシャツ、紺色のパンツの順に着替え。また洗面台の鏡の前で青色のネクタイを締める、整える。背広を羽織り、革靴を履き家をアパートから飛び出る。

 二階立てアパートの階段をカンカン降りて直ぐ下にある駐車場にある自分の愛車に飛び乗る。黒の国産セダン車。

 気持ちいつもより強めにアクセルを踏み込み運転をする。信号は黄色の際は、イケイケまだ行けるよの精神でさらにアクセルを踏み抜き加速させる。

 30分程運転し、地方都市の市街地から離れて工場地帯へと景色が変わる。

 『SANADA』と青い文字で建物の右上に書いてある工場へとさっきのスピード違反上等とはうってかわって、時速20キロ以下の徐行運転で駐車する。

「ヤバ……後5分。玲香さんにまた半日、説教されちゃう」

 新助は、手前の3階建てのビルへと走る。扉の前で首にぶら下げていた社員証をピッと機械に通し、中へと入ろうすると……

「おーーい!!三代目!!!早くしないと城之内部長の雷飛ぶぞぉお!!!」

 と声が聞こえた外の喫煙所の方へと目を向ける。青い作業着に帽子のツバを後ろにして、顎に整えられてない不精な髭、髪の毛もぐちゃぐちゃと清潔感から真逆に行く中年の男。

 寺田茂治。製造課長。通称シゲさん。

「シゲさんこそ!!何まだタバコ吸ってるんすか!!もう始まりますよ!!」

「なーに遅刻ギリギリの重役出勤の奴が、よく言うぜ……ぁあまぁ間違いねえか、重役ってのは」

「なーに、意地悪な事言ってるんすか!!アァ!?ヤバ後三分じゃん、玲香さんに殺される」

 左手に巻いた時計の針を見て青ざめ、じゃあ自分急ぐんでとシゲさんを後にする。シゲさんは、しっかり怒られろよーとひらひらと手を振り、別の建物の方へと駆けていった。

 二段飛ばしで階段を駈け上り二階のフロアへ向かう。そして『営業本部』のプレートがある部屋へと駆け込む。

 入ると同時に鐘が鳴る。八時半、始業の鐘だ。

「セーーーーフッ!!!」

両手を水平に野球の審判のセーフのサインをする新助。と間髪入れずに。

「なわけないだろぉ、真田ぁ」

 新助の頬から冷たい汗がツうっと滴る。声が聞こえる方へ振り向けない振り向くことを拒絶している。何故ならこの後の展開が容易に想像でき。その想像が恐怖だからだ。コワイ。タスケテ。

 怯えながら首だけ動く。ギギッとブリキみたいに。

 振り向いた先には、20代半ばの金髪ロングヘアーを灰色のスーツを身に纏った分かりやすいくらいの美女。青い瞳の美女。___営業本部長、城之内玲香だった。

 その誰がみても絶世の美女である彼女は、怒っている姿も絵になるとは……いかず。青筋を立ててブチ切れしている顔は人よりも鬼に近いものがあった。その姿をみて、こりゃ玲香さん、マジのマジでヤバいわと内心、新助は焦っていた。三十人くらいいる営業フロアにいる他の社員は二人の行方を静観していた。

「真田ぁ」

「ハイ」

「ウチの始業は何時だ」

「八時半です」

「そうだ、正解だ」

「…………」

「じゃあウチの営業本部の鉄の掟は言えるか?」

「言えます」

「言ってみろや」

「営業は、始業の一時間前に出社して、事前にメールチェック等の準備をする事。出社時間に出社する営業は営業に非ず……デス」

「わぁぁかってんじゃないかぁぁあ!!!じゃあ何でおめぇはやらない!!!!」

玲香さんは新助の襟元を掴みオタケビを上げる。ヒィイイと内心叫ぶ新助。

「ぶっ、部長!そこら辺でパワハラに……」

と助け船を静観していた社員が出すも。

「なぁあにがパワハラじゃあい。コッチは躾!!教育じゃあい。訴えてみるもんなら訴えてみろ!!!揉み消したるわ!!!!そもそも社長にコイツを鍛え上げてくれ、何でも許すとコッチは許可もらっとんじゃい!!!!」

「許してください、以後再発防止を徹底するよう是正して参ります、玲香さ……」

「城之内部長じゃあああい」

ヒィイイ!!火に油!!!とヒートアップする玲香を見て、こりゃ死を覚悟すべきじゃと新助は怯えに怯えきる。

 収集がつかないフロアの空気をソレを切り裂いたのは_______


 ゴオォオッと言う打ち上げ音。


 新助は窓から見える空へ目線を移す。胸ぐらを掴んでいる玲香も。その他の社員も。

 青い空。白い雲。ソレを切り裂くかのように天へと上る黒い物体。ブースターから火を巻き上げぐんぐん加速して上に上に上っていく。

 ロケット。けどソレは人の腕の形をしている。ジャンケンのグーのように拳を握っている。巨大な腕。


 ロケットパンチ。


 誰もが静かにその巨大な腕を眺める。 

 製品のテスト飛行。

 『SANADA』サナダ株式会社。今じゃ我が国で自動車産業と並ぶ重要な位置にあるロボット業界。SANADAはロボットのロケットパンチの専門大手メーカー。


 真田新助(18)。SANADAの三代目社長(予定)の新人営業マン。彼の。彼等彼女等のメーカー奮闘記なのである。この物語は。


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ロケットパンチの作り方 長月 有樹 @fukulama

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