ガーリィなレコード針

エリー.ファー

ガーリィなレコード針

 参っちゃいますよね。

 あの組織、僕が壊滅させてきたんですよ。

 そのせいで、追われているっていうのに、また依頼をしてきて。

 それで何ですか、どうにでもなるんだからこのままここに居ればいいなんて、そんな虫のいい話ないでしょう。これは、最早交渉ではありませんよ。

 こんな、たかいたかいビルの上で一つばかりのあまざらしの中、まるでフェニックスが飛び去るような潔さを持てと言うようなもの。

 飛び降りろと。

 ここから飛び降りろと。

 そして。

 組織を壊滅させた犯人である、僕の死によってこの物語は完結すると。

 やめてくださいよ。

 僕を。

 僕のことを。

 なんだと思ってそう言っているのですか。

 貴方も殺しますよ。

 ここに居られてはどちらにせよ退屈というものじゃないですか。そうでしょう。僕はね、この程度の高さから飛び降りたところで、何の怪我も負いませんよ。

 えぇ。

 そういう病気ですから。

 死にません。

 要は、貴方は一度でも死体になった状態を写真に収めることで上手く状況をまとめてしまおうという腹なんでしょう。

 お見通しですよ。

 分かっていますとも。

 ただ、痛いことには痛いので、その見返りが頂きたいのです。

 殺し屋崩れの与太郎ではありますが、こんなに雨の降る真夜中なのです。

 雨の宮をくぐり、向こう側で奉られるほどのことをなしたと僕は思っているのです。

 分かりますか。

 僕を知っているのは、貴方くらいなのに、その貴方が僕すら忘れてしまったら、僕は世界に何も残らないではありませんか。

 僕を教えてください。

 僕を大事にしてください。

 何度。何度。何度。

 殺され、死んでも、生き永らえる僕であっても。

 僕の命を大事にしてください。

 濡れ切った命と命が連綿と、まるでしりとりのように続いて人類が生まれても、そこに入り込むこともできない。

 そんな僕の呪いのような不安を抱きしめるだけの度量が貴方にはあるでしょう。

 えぇ。

 はい。

 あぁ。そうですね。

 そうです。その通りですね。

 分かっています。

 はい。

 はぁ。

 なんでだよ。

 どうしてだよ。

 え。

 何も。

 何も言っていません。

 僕は何も言っていません。

 憎め、憎め、憎めと言われて、気配を斬り刻み。

 それでも残った愛情が忘れられずに、金をもらう。

 その程度の僕です

 もうすぐ雨が止むそうです。

 残った体の破片を集めてもうすぐ人間になれたら、直ぐに飛び降りて見せますよ。

 それが、貴方の望みでしょう。

 あぁ。

 いいなぁ。

 人々の親切心が詰まった箱の中にも手を付けられなくなった僕のことなんて、貴方は忘れるんでしょうね。

 ミットを打つような雨音が静かになってきましたね。

 もうすぐですね。

 殺し屋として、最後の仕事は死ぬことなんて嫌だなぁ。まるで自分から仕事を放棄しているみたいじゃないですか。そう思いませんか。

 まぁ、ベルの音さえ聞こえなくなれば、三番目の死体が上がるでしょう。

 この町じゃあ、教会のベルの鳴る回数で、一日の行動まで変わってしまう。水門が開いて、底に放置された腐乱死体は直ぐに見つかるように工夫しましたから。

 では、それでは失礼します。

 ごきげんよう。

 あぁ。あと、それと。

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