第28話 彼だけ
「歩きスマホがいけないことだってのは、重々理解しているんだけどよ……」
彼はよく歩きスマホをしている。そのたびに私が注意するのだが、一向に治そうとしない。
道すがら、彼から聞いた言い訳はこんなんだった。
「いやな、一回下を向くと前を向くのが怖いんだわ」
靴紐を結ぼうと下を向くと、もう駄目らしい。
「俺だけにしか見えていないんだと思う。顔を上げたとき、自分の進行方向から毎回同じ女性が近づいてくるんだよ」
それがどうしたんだ?
「目線を上げるたびに、そいつが少しづつ近づいてくるんだ。俺が見ているときは足を止めているんだけど、一瞬目を逸らすとその間に距離を詰めるんだよ」
何もしなくても、女性は進行方向にいるもんだから必ずすれ違うんだと。
「で、なにも起こらない」
ほっと胸を撫で下ろしていると、彼は続けてこう言った。
「この女なんだけどよ……」
そう言って彼は、目の前の誰もいない空間を指差した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます