えぴそーど4  ちひろ  いん  わんだーらんど ぱーと2

そして、ついにやってきた土曜日当日、天気は快晴!

気温も暑すぎず寒すぎず、まさに絶好のデート日和!

そして本デートの主人公の一人、霞 千尋もまた万全の体調で起床する。

「んん~、よく寝た。天気は・・・晴れてるね!天気予報当たってよかった!」

窓の外を見て満足げにうなずく千尋。心の底から嬉しそうである。

「ええっと、時間は・・・7時・・・だね。鈴瀬さんとの待ち合わせが10時だから、家から2時間ぐらいかかることを考えると・・・丁度いいね!やっぱ20分前ぐらいには待ち合わせの駅についておきたいし。」

などと自分に言い聞かせるように独り言をつぶやきながら身支度を始める千尋。

まずは浴室でシャワーを浴びる。こうすることで眠気を完全に吹き飛ばすのが千尋の起床直後の習慣である。

そして、シャワーを浴び終わったらあらかじめ選んでおいた服を着て食事をとるためにリビングへと向かう。

そこにはいつもの見慣れた妹の後ろ姿はなく、代わりに机の上に書置きとともにラップがかけられた食事が用意されていた。

千尋は書置きを手に取り内容を見る。

「お兄ちゃんへ、昨日話していた通りゆずは用事があるので先に家を出ます。食事を用意しておいたのでぜひとも食べていってください。ユア シスター ゆずより。」

(そうだ、ゆずは今日用事があるとかで朝早く出かけるって言ってたんだった。それにしてもこんな朝早くから用事あるのにわざわざ食事用意してくれるなんて本当にやさしいなあ~ゆずは。後でちゃんとお礼を言っておかなきゃ。それにしても用事って何だろう?昨日聞いても「きっ、企業秘密です!」とか言って教えてくれなかったし・・・・・・わかった!さてはデートだな!そうだ、そうにちがいない!)

あたかも名推理をしたかのように「うんうん」と満足げに・・・というよりも勝ち誇ったような表情を浮かべうなずく千尋。

だが残念、不正解である。まあ、間違いとも言い切れないのであえて点数をつけるなら60点ぐらいといったところだろう。

(そうか・・・ゆずももうデートをするような年か・・・まあ、あのルックスあの性格ならそりゃモテるだろうからな~。性格面でいえばちょっと残念なところもあるけれど「美少女」だからそれもむしろプラスに働きそうだし・・・たとえ女子校であっても学外とかで誘われたんだろうな~。・・・いつかはそんな日が来ると思っていたけれど実際に来てみるとやっぱ少し寂しいな・・・)

などと妹、ゆずの架空のデートを思いうかべ憂鬱な表情を浮かべる兄、千尋。

そう、もうお気づきであろうがゆずが重度のブラコンであるとすれば、千尋も千尋でなかなかのシスコンである。

まあでもまだ常識的な範囲内・・・つまり、ゆずのそれよりはだいぶ軽いのだが・・・

(って、そんなこと考えている場合じゃない!早くしないと遅れちゃう。)

思考の深淵に行こうとする自分の意識を咎めあわてて「いただきます。」といい食事を始める千尋。

そして、「ごちそうさまでした。」とあいさつを済ませると洗面台に行き髪の毛を整え歯磨きを済ませ、荷物の最終チェックを始める。

(ええっと・・・チケットは現地で鈴瀬さんから受け取るからいいとして、ほかに僕が持っていくものは、リュックと財布とスマホと・・・あとは折り畳み傘に万が一何かあった時のお金・・・2万円ぐらいあれば大丈夫だよね。まあ何もないだろうけど。)

まるで呼吸をするかのごとく自然に「何もないだろう」とフラグを立てる千尋。流石一級フラグ建築士、フラグ建築に余念がない。回収されないといいのだが・・・

「準備完了!それじゃ、行ってきます!」

支度を終えて元気よく挨拶をして家を出る千尋、その声には今日のデートに対する多くの期待と、少しばかりの緊張を振り払うかのような思いがこめられていたのだった・・・



時を同じくして夢の国の最寄り駅、そこにはゆず、未来、紗雪の姿があった。

「おはようございます!ちひろだいすきクラブ「見守り隊」全員集合しましたね!」

「おはようございます♪新しいグループ出来ちゃいましたね♪」

「霞さん、永野さん、おはよう。なるほど「見守り隊」ね・・・悪くないネーミングじゃないかしら。安直すぎるとは思うけれども。」

朝から元気よく、何なら少しうるさいぐらいのハイテンションで未来と紗雪に笑顔で挨拶をするゆず。そんなゆずを見ていろいろな意味で楽しそうに返事をする未来と落ち着いて感想を述べる紗雪。

「それはそうと霞さん、なぜ集合時刻が8時なのかしら。確か、鈴瀬さんはデートの集合時間は10時だと言っていた気がするのだけれど・・・」

「あっ、それは未来も思いました。少し早すぎる気がしますよね。」

挨拶もそこそこにかねてより抱いていた疑問をゆずに投げかける紗雪と未来。

それを聞いたゆずは「待ってました!」というようにはつらつとした表情を浮かべ口を開くゆず。

「お二人ともよくぞ聞いてくれました!それはですね・・・」

意味深な表情をして顔の前で人差し指をたて左右に指を振り露骨に間を取りもったいぶるゆず。はっきり言って少しうざい。

「ゆずがお兄ちゃんと鉢合わせたくなかったから!です!」

さも重要な理由であるかのように「えっへん」とどや顔で自己中心的な理由を言い放つゆず。

「・・・」

「・・・」

一方それ聞いた未来と紗雪はあまりの予想外な返答に「怒り」だとか「呆れ」を通り越してどう反応していいのかわからずただただ「呆然」としている。

つかの間の沈黙があたりを支配する。

(あっ、あれ?もしかしてゆずまたなんかやっちゃいました?)

ばっちりやっちゃっていますとも、ゆずさん。

・・・ようやく、本当にようやく場の空気がおかしいことに気が付きあたふたとしながら冷や汗をにじませて慌てて打開策を考え出すゆず。

そして10秒後・・・

「そっ、そうだ!そうですよ!皆さん聞いてください!確かに一番大きな理由は鉢合わせを回避するためですがほかにもいくつかの理由があるんです!」

悩んだ末名案・・・もといそれっぽい言い訳が浮かんだのか「ぽん」と手をたたいた後

「がんばるぞい!」のポーズで必死に弁明を始めるゆず。

「あっ、あれですよ!お兄ちゃんも千紘さんも初デートなので待ち合わせよりかなり早く来るんじゃないかと思いまして!それで、早めに集合をかけたんです!」

会話の流れ的には非常に苦しいが一応筋は通っている理由を持ち出すゆず。ものすごく必死である。

「・・・とっ、とにかくすみませんでしたっ!」

二人からの返答を待たず頭を45度さげてきれいなお辞儀をするゆず。その体は「プルプル」と震えている。

「顔を上げてください霞さん♪」

「・・・未来ちゃん・・・」

「別に怒ってなんかいないわ。ただその・・・ストレートすぎて反応に困っただけよ。」

「・・・紗雪さん・・・」

二人の声を聞き恐る恐る顔を上げるゆず。そして顔をあげた先にはにっこりと笑みを浮かべる未来と一見クールに、だがやはりどこか楽しそうに笑う紗雪の姿があった。


「というか本当に早く集まるのがいやだったら事前に集合時間を聞いたときに行ってますし。」

「それを言わなかったのはつまり私たちは早く集まるのはそんなに嫌じゃないということよ。」

「はい♪現にこうやって早く集まったから霞さんと北条さんと親睦を深めることができているわけですし♪」

「ううっ・・・二人とも・・・ありがとうございます・・・そう言ってもらえると救われます・・・」

未来と紗雪の優しい言葉にうれし涙を浮かべてこたえるゆず。

「時間もありますし、駅内のカフェでお話しながらゆっくりと待ちましょう♪」

そういって未来はすぐ近くのカフェを指す。

「ええ、そうね。今が八時十分だから集合時刻まではあ一時間五十分ね。時間をつぶす方法としてはそれが最善だと思うわ。」

「はい!お二人ともよろしくお願いします!」

そう言って三人は意気揚々とカフェに足を踏み入れる。

コーヒーを注文し駅のホームがよく見える席に座る3人。

「さて、お二人とも、先に来るのは鈴瀬さんか千尋先輩どちらだと思いますか?」

席につきコーヒーを一口飲んだ後は大を切り出す未来。

「そうね・・・どうかしら・・・」

未来の質問に真剣に考えだす紗雪。

「ゆずは、千紘さんだと思います。」

一方、即答!とまではいかないがわりとすんなり結論を出すゆず。

「それはどうしてかしら霞さん?」

悩むのをやめ視線をゆずのほうに移す紗雪。その表情からは強い好奇心がうかがえる。

「未来も気になります。先輩の妹の霞さんに先輩と鈴瀬さんがどう映っているのか。」

紗雪に続きこちらも好奇心旺盛な表情でゆずに尋ねる未来。

「はい、まずあえて千紘さんのほうからお話しします。」

「なるほど・・・あえてですね・・・」

「この間5人であった時の表情やしぐさを見るに・・・ずばりですね・・・千紘さんは・・・お兄ちゃんに「ベタ惚れ」しています!」

きっぱりと言い切るゆずの言葉に雷で撃たれたかのような衝撃が体に走る未来と紗雪。

「いやもう「ベタ惚れ」ってレベルを通り越した何かですよあれは!だってお兄ちゃんの隣でこっそりと嬉しそうに手を重ねてみたり、さりげなく寄りかかってうっとりとしていたり、付き合いたてのカップルがすることじゃないですよ!いうなれば新婚さん!そう新婚さんのようです!」

興奮して息継ぎもせずに一気に言い切り「ぜーはー」と息を切らすゆず。

「確かに言われてみれば・・・というか霞さんよく見ているのね・・・」

あまりのゆずの力説に若干引き気味になりながらも感心して答える紗雪。

「未来もそこまでは気づきませんでした・・・」

珍しく本気で感心したという表情を浮かべる未来。

「まあ、妹ですからね!お兄ちゃんのことは見逃しません!」

「えっへん」とCカップの胸を張るゆず。一瞬真正面にいた未来の表情が「ピキッ」と固まったのは気のせいであろう。

「とするとやっぱり鈴瀬さんもちらっと言っていた二人の間にある「思い出」が関係してくるのかしらね?」

一方、フリーズした未来の横目に冷静に意見を述べる紗雪。

「はい!ゆずも紗雪さんが言う通り二人の過去のきずながあそこまで千紘さんがお兄ちゃんに惚れている原因だと思います!」

紗雪の意見に「うんうん」とうなずき肯定するゆず。

「なるほど・・・確かに未来たちと同じぐらい千尋先輩のことが好きだったらかなり早くに来てもおかしくはありませんね・・・」

フリーズ状態から戻り話しに加わる未来。

「それで千紘君のほうはどうなのかしら霞さん。」

「あっ、はい、お兄ちゃんはですね・・・まあ、どの程度千紘さんに惚れているかは未知数ですけれど・・・お兄ちゃんの性格的に・・・たとえ、それが、大事な、大事な、「初デート」であったとしても!・・・たぶん15分前ぐらいに来るんじゃないですか・・・」

「「あー・・・」」

ゆずの身もふたもない最もな意見に声をそろえて答える未来と紗雪。

「まあ・・・先輩ですもんね・・・」

「ええ、千尋君だものね・・・」

先ほどとは違いすぐに満場一致で結論を出す3人。3人とも若干呆れたような表情をしているのは気のせいではないだろう。

つかの間の沈黙ががあたりを支配する・・・かと思いきやゆずの一言でその沈黙は破られる。

「あっ、あれ!」

「どうしたんですか霞さん?」

「あれ、千紘さんじゃないですか!?」

「えっ、あ、ほんとうね。あの一目で美少女だとわかる雰囲気・・・あれは間違いなく鈴瀬さんだわ。」

驚いた表情で窓の外に目をやる3人。そこには確かに鈴瀬 千紘の姿があった。

「ま、まだ待ち合わせ時刻一時間半前ですよ!どれだけお兄ちゃんのこと好きなんですか!」

先ほど待ち合わせの時刻よりかなり早く来る可能性があるとか言っときながら思わずツッコミを入れるゆず。

「こちらには・・・気が付いていないみたいですね・・・」

「ええ、周りを確認してまだ千尋君が来ていないことを確かめているみたいだわ。」

「ん?スマホを取り出して横持にしてイヤホンを付けましたね?」

「なにかしら?動画でも見るつもりかしら・・・?」

千紘の行動に首をかしげる未来と紗雪。そんな二人に双眼鏡で千紘のほうを見ていたゆずが声をかける!

「ち、違います!違いますよみなさん!あれはゲームです!そう、あれは「ごーや行動」です!」

「ごーや行動?というかなんで双眼鏡なんて持ってるんですか霞さん!」

「細かいことはいいんです未来ちゃん!あれは「ごーや行動」!銃で戦って最後の一人まで生き残る対戦型のゲームです!」

そう、鈴瀬千紘は高校生であり美少女。そして千尋の彼女でありで戦士なのだった・・・



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