2缶目 エルフの通販番組


 神が性欲のはけ口としてつくりたもうた種族。


 エルフの女がテレビ画面の向こうにいた。


 薄手のライムグリーンで、胸元が大きく開いたドレスを着ている。


 その特徴的な長い耳はとても作り物には思えない。


「……こんなガチのコスプレイヤーが出るような番組、この時間帯にやってたっけ ? 」。


 れいが疑問の声をあげた。


「たまに放送されてるぞ。緊急警報放送みたいに電源を入れてないのに勝手につくけどな」。


 相変わらず落ち着いている酉井とりい


 零の戸惑いをよそに、明るくハキハキとしたエルフの声が室内に響いた。


「異世界の皆さん ! いつもありがとうございます ! アナ・ビランダです ! 改めまして今日ご紹介いたしますアイテムはこちらの『聖水』です ! 」。


 エルフの脇の赤いテーブルクロスのかけられた背の高い台の上に、透明の液体が入った瓶が何本か置かれている。


 そのすぐ下にはテロップで「ゾンビに効果抜群 ! 」とある。


「それではアイテムの説明をホリィ教会所属の修道女、クリスティ・サーマンにしていただきましょう ! 」。


 拍手とともに黒い修道服を着た女性が画面に映る。


「は、初めまして ! クリスティです。こ、このアイテム『聖水』はゾンビに振りかけると……その……ゾンビが……消滅します…… ! 」。


 真っ赤な顔でたどたどしく想像通りの使用方法を説明するまだ若い修道女。


「な、なんかこっちまで恥ずかしくなってくるね……。これも演出なのかな ? 」。


 共感性羞恥心しゅうちしんを発動して赤面する零。


 それをごまかすように、ストロング系酎ハイの缶を急いで傾けた。


「初々しくていいじゃねえか。わざとらしいエルフよりよっぽど好感がもてる」。


 酉井はニヤリと笑って、ゆっくりと缶に口をつけた。


「…………」。


 画面は無言で赤面する修道女を映したまま。


「……ひょっとしてこれ生放送 ? そんでこの子……次のセリフが飛んじゃった…… ? 」。


 画面の修道女は脂汗をかき始める。


「も、もうダメ ! 恥ずかしくて見てられない ! 酉井さん、テレビ消して ! 」。


「これ勝手について勝手に消えるから、操作できねえんだよ」。


「そ、そんな……」。


「もう一本飲めばそんな些末さまつなことはどうでも良くなるぞ」。


 そう言って、酉井は瑞々みずみずしいオレンジの描かれたストロング系缶酎ハイを零に手渡す。


 プシュ、と缶の中と外がつながる音がして、オレンジの香りがそれを演出する。


 ごくごく、と女性にしては大きめに喉を鳴らして、9 %のアルコールが彼女の羞恥心を爽やかに取り去っていく。


「お、エルフを見てみろ」。


 その声につられて、零が再び画面を見ると、微笑んだままのエルフの口が微かに動いている。


「……次のセリフを教えてあげてんのかな ? 」。


「いや、多分小声で罵倒してんだよ。修道女の顔がどんどん青くなってくだろ ? 何回か見てるからわかるけど、こいつ結構性格悪いんだよ」。


 そしてとうとう痺れを切らしたのか、エルフが口を大きく開いた。


「クリスティ ! この『聖水』は通常品と何か違うの !? 」。


「は、はい ! そうです ! い、いつもなら私達『助祭』が祈りを込めて作っている『聖水』ですけど、こ、今回だけは特別に『司祭』様が祈りを込めてくださいました ! だから効果は通常の『聖水』の十倍です ! 」。


「皆さん ! 今だけの特別品です ! それでは実際にこのアイテムを使用した方のインタビューをご覧ください !! 」。


 そして切り替わった画面。


 そこにはいかにも冒険者風の男女と少年の三人が映っていた。


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