第26話

 今年の中3に限っては、ほとんど退塾する者がおらず、最終的に20名が「高校準備講座」を申し込んだ。

 彩子もその例外ではなく、合格発表の翌日に、真っ先に、手続きを済ませに来た。


「こんにちは♪ 沢崎先生! いるー?」

 午後1時半。

 俺たちは講師陣は、高校準備講座のテキスト作りをにやっけになっていた。

 それだけに職員室は、シーンとしていたため、彩子の声が一層際立って聞こえた。

 塾長はじめ、講師陣は、一斉に俺を見た。

 俺は、(ハイハイ、私が対応しますよ)といった体で、

「おう、玉城さん、おめでとう、良かったな!」と、言った。

 努めて冷静に俺が話しかけてきたものだから、彩子は勢いを削がれてしまったようだ。

「先生、受かったよ!」

「心配したよ、倒れちゃったんだって?」

「うん、思った以上に緊張したみたい」

 数学の先生が、

「今日は元気そうだな、沢崎先生の顔がな見れて」

 と、皮肉っぽく言った。

 思わず俺は咳払いをし、

「今日は授業ないぞ、どした?」

「これ、持ってきた」と言って、準備講座の申込書を出してきた。

「英語は誰が教えてくれるの?」

 彩子は(お願い!先生だと言って?)という顔で聞いてきた。

 受付は今日始まったばかりで、クラス分けどころか、誰が誰を教えるのか、生徒に言える時期ではない。

 だから、

「そんなの、まだわからないよ。今日受付が始まったんだから」

「ワタシは、先生がいいの!」

 シーンとした。職員全員が凍りついた。

「バ、バカだなー。。。聞き分けのないことを、、、」

「せ・ん・せ・いー!」

 拗ねる彩子。かわいい。

 塾長が受付窓口に顔を出した。

「玉城さん、顔色良くなったね」

「うん、昨日は、ご心配かけました」

「今に沢崎先生が言ったように、受付は始まったばかりだけど、恐らく、沢崎先生に教わることになるよ」

 流石、塾長権限。

「ホント? ヤッター!」

「玉城さんは何を受講するの?」

「沢崎先生の授業全部!」

 シーンとした。職員全員が凍りついた。

「ハハハ、こりゃいいや!」と、

 至って塾長は余裕綽々。

「沢崎先生はアイドルだからなー!」

 茶々を入れる講師陣。

 顔が真っ赤になっていくのがわかるくらい、みんなにバカにされたような感じがした。

「授業は遊びじゃないんだ。わかってるな」

 と、心にもない台詞を吐いてしまった。

「まあまあ、沢崎先生、照れないで、玉城さんのこと、よろしくお願いしますね」

 と、塾長。

「申込書を見せてみなさい」

「はあい」

「なんだ、科目に○印がされてないじゃないか」

「だってえ、先生の授業がわからないからあ」

 かわいい。

「どんなこと、やるの?」

「どんなことって、、、詳しく説明しよか?」

「うん」

「じゃ、あっちの教室で」

 彩子を教室へ促し、振り返ると、講師陣がみんな俺のことを見ていた。

「変なことすんなよ!」

「バ、バカなこと言わないでくださいよ」

 嘘です。

 俺は、彩子とひっついていたい。

 彩子の匂いを嗅ぎたい。

 彩子のウルウル眼を独り占めにしたい。

 彩子の唇を見つめていたい。

 彩子の柔らかい指に触れたい。

 体のどこでもいいから、接触したい。

 あと、3年、少なくとも、先生と生徒の関係が続くが、そのあとは、正式に男と女の関係を築きたい。

 頭では御法度だとわかっちゃいるが、

 本能は全く制御不能だ。

 いかん、いかんと思いながら、

 彩子の待つ教室へ向かった。

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