第12話
「ねえ、モンスター使いにはならないの?」
近くの森を抜けてすぐに、ヒカルはそんな質問をしてきた。
「え? 何、突然」
「いやだってモンスター使いの説明聞いたって言っていたから。それで人間選んだんじゃないの? まあ、普通は鬼人だろうけど」
そう思われていたのか。でも今は召喚あるしな。モンスターは倒されると消滅しちゃうんだよな……。って、召喚の場合はどうなんだ?
『なあ、ピピ。召喚したやつが死んだ場合はどうなるんだ?』
『はい。元の世界に戻り、一時間は召喚出来ません』
『なるほど。ありがとう』
やっぱりモンスター使いはやめよう。和むけどモンスターを強くするのが大変だ。しかも、死んでしまうとそれもパーだ。
「えっと。色々考えたんだけど、手に入れた後が大変みたいなんだよな。だから違うのにする事にした」
「違うのって? 錬金術師?」
そう言えば、料理スキル覚えるって言ったんだっけ。
「そうそう。それ」
「まあ、キソナならドワーフ並みにチートだから大丈夫か……」
「え? ドワーフじゃないと難しい職業か?」
俺が質問をすると、ヒカルは難しい顔つきになった。
「いや、わかんないけど、種族選ぶ時に職業適正にあったよね?」
「え?」
「何も見ないで選んだの?」
ヒカルに凄く驚かれた。
どうせランダムだから見ても仕方がないと思っていたから確認してなかったな。
「いやぁ。だって、選ばないの見たってしょうがないだろう?」
「でも人間を選ぶメリットってないよね? ランダム以外……」
「え? そうなのか?」
「………」
なんか凄い目で見てるんだけど……。まるで何かを疑っているような……。
「なんだよ」
「勇者……」
「え!」
「キソナって勇者なんじゃない?」
「はぁ?」
なんでそうなるんだ! 強かったからか? でも今の流れから言うと人間だからだよな? どういう事だ?
「誤魔化さなくてもいいよ! 誰にも言わないから!」
「いや違うって!」
違うと言っているのに、ヒカルはまだ疑いの目でみているようだ。参ったなぁ。
『キソナ様。もしかして本当にご存知ないのですか?』
『ピピまで言うか! 一体どういう事だよ!』
『では、ご説明します。人間には適正職業がございません。ただ唯一勇者になれる種族なのです。ランダムで種族を選んだ時に、エルフ、ドワーフ、鬼人はそれぞれ三〇%、九%が人間、残りの一%が隠し種族の確率で抽選されます。そして、人間が選ばれた場合、九八%がただの人間、一%が勇者の職業を取得、残りの一%で他の特殊能力を取得できるのです』
そうだったのかよ! 意図せずにそんな事を俺はしていたのか! しかも一%の隠し種族をひいたのか!
でもまあ、これだと人間で強かったら勇者だと思っても仕方ないな。
『どうしたらいい? ピピ?』
『と、申されますと?』
『だから、勇者だと疑われているからさ!』
『そうですね。ハッキリ言わず誤魔化されてはいかかがでしょうか? 勇者と違うとわかるまでは』
うん? わかるまで? 本物の勇者が現れるまでって事か?
『わかった。そうするよ』
『はい。彼女が賢者になれば疑いは晴れますから』
あぁ、賢者ね……。ってそっちか! そう言えば賢者には裏ステータスを見るスキルがあるんだったか! いやそれ、勇者が現れるよりずっと後だよなきっと。まあいっか。
ヒカルには、勘違いさせておく事にする。
「まあ、どちらにしても証明出来ないし、そう思いたかったらそれでいいけどさ。俺の場合、ただの面倒臭がり屋なだけだぞ」
そう言うと、ヒカルはうんと頷く。
これ青魔法を取得していると知ったら、もう勇者だと信じて疑わないだろうな。しかし、本当に魔王という存在は思いつかないんだな。
いや俺も、自分が魔王にならなければ、魔王はNPCだと思っていたか……。
考え事をしているうちに、双子の丘に到着した。ここは近くの森から真っ直ぐに来ると道を挟んで、同じような丘がありそこをそう呼んでいる。
木はあまりなく、草原のような感じだ。
俺達はパーティを組んだ。
「あれ? 青魔法覚えたの?」
やっぱり気が付いたか。回復魔法が消えて青魔法になっているからな。
「実はあれからちょっと行ってみた。ヒカルの足止めの有難味がよくわかったよ」
一人でとは言わないでおく。足止めの事は本当だ。取得出来るのならほしいぐらいだ。きっと、チートスキルだから取得方法はなさそうだが……。
「へぇ……」
そう言って俺を見る瞳は、確信を色濃くしたのを伺える。
まあ下手に否定して、じゃなんでそんなに強いんだって勘ぐられても困るから、ピピの言う通りここは一先ず知らんぷりしておこう。
「何か来る!」
突然ヒカルが声を上げた。勢いよくこちらに向かって来る動物がいる! オオカミだ。草原の中を颯爽と走る姿は美しい。けど、あれはモンスターなんだよな? 確かオオカミン。なんとカワイイネーミングか。
その動きがピタっと止まった。
見るとヒカルが左手を突き出していた。スキルを使ったようだ。
「あのオオカミのモンスターは、集団で行動するはずだから、すぐに仲間がくるよ。通常三体ぐらいが一緒に現れるけど、あのモンスターはその倍くる事もあるから!」
「あ、うん。俺が魔法で攻撃してみてもいいか?」
ヒカルは頷く。
「じゃ、いくぜ! 火の玉!」
俺はそう叫んで、右手を振るった! 野球ボールを投げる様に手を振ると、手のひらから火の玉が飛んでいく。……思いっきりモンスターを超えて行った。
ボッ、っと、火の玉が落ちた所に火が付いた。燃え広がるかと思ったが、そこだけ燃えている。
まあ、こんな所で燃え広がったら、あっという間にすごい事になるか。
「凄いノーコン……」
「うるさい! 初めてなんだから仕方ないだろう!」
「じゃ、次は私の番ね。火の玉……」
それから五秒後、ヒカルは右手を振って火の玉を放つ。それは、モンスターにヒットした!
だが勿論、一発じゃ倒れない。
「ワオーン」
オオカミンは吠えた!
「やば! 仲間を呼ばれた。私は動きを止めるのに専念するね!」
「わかった」
『キソナ様。武器と一緒に戦闘でお使いになるおつもりでしたら、魔法は左手で練習した方が宜しいかと。それと、今回は魔法だけでは倒しきれません。MPが枯渇します』
『あ、そっか。そうだな。サンキュウ! じゃ、最初から両方で戦うよ!』
たぶん俺のノーコンを見て、そう判断したんだろうが……。
俺はピピのアドバイスを聞き、武器を装備する。そして俺はオオカミンに近寄り刀を振るって攻撃を与える。
「来た! 四体も! って、やば! 相手との差があり過ぎるみたいで一体が限度みたい! あの四体は足止めできないよ!」
何だって! やばいだろそれ! 今攻撃しているやつは倒しておくか! で、ワープだな!
俺は、連続で攻撃を入れ合計三撃で倒した!
足元がほのかに光る。
レベルUPしたか!
他のゲームと違い、レベルUPしても表示もされないし音もならない。ほのかに足元が光るだけなので、夢中になっていると気づかない事もある。これがわかるのは本人のみだ。
「ありがとう! レベルUPしたみたいで三体は何とか!」
ヒカルの言う通り、三体は動きを止めていた。一体は元気に向かって来ている。
一体なら何とかなるか?
俺はまず魔法攻撃をしてみる事にした。左手を振るう!
「火の玉!」
見事に……大外れだ! 明後日の方向に飛んで行った!
左手は更に難しいな。
「ええい! 火の玉! 火の玉!」
二回唱えて、一つがやっと当たった!
「よっしゃ!」
後は倒しに行くか! ヒカルに攻撃されたらやばいしな!
走りくるオオカミンに、走り寄り刀を振った。それはヒットするも、オオカミンはそのまま襲い掛かって来た! 俺も攻撃を受けてしまう!
「キソナ! 大丈夫?」
ヒカルが声を掛ける。
チラッとHPを見ると、三%しか減っていない。たぶん二〇~三〇しか食らってないな。我ながらチードだよな……。
「大丈夫だ!」
そう返しながら、刀を振るって攻撃を仕掛ける。
オオカミンは、合計三撃で倒れた。
よし! 後は動かない奴だけだ!
俺はオオカミンに近づき、刀で攻撃をする。そして、左手で魔法攻撃だ!
「火の玉!」
勿論、外れるワケがない!
そして、刀で攻撃を入れると、オオカミンは倒れた。
「ねえ、それって魔法攻撃の練習になってないよね?」
ヒカルがそう問いかけて来た。
そう言われればそうだ。
俺はその場から、動けないオオカミンに向かって攻撃する事にした。
「火の玉!」
左手を振るうと火の玉が飛び出す。だが当たらない。……かすりもしていない!
「火の玉! 火の玉!」
連続で放つも当たらない! さっきは動いている敵に当たったのに!
「動いてない敵なのに当たらないね」
「うっさい!」
ヒカルは、楽しそうに言う。
バカにしやがって!
俺は、ヤケになって火の玉を打つも当たらない。
『キソナ様。力み過ぎです。少し力を抜いて……』
「左手は難しいんだよ!」
「え?」
「あ……。いや、何でもない」
つい、イラッとして普通に話してしまった。
『急に話しかけるな!』
『申し訳ありません!』
そして更に、ピピに八つ当たりもしてしまった……。
うん? 冷たい?
ふと見ると体が濡れている。
ある程度の熱さや冷たさも感じる。ここにもリアリティーありだ。
「ごめん。間違っちゃった」
いや、ワザとだろう?
まあお蔭で頭が冷えた。
よく周りを見ると、ヒカルは、俺が付けた火を消していた。
俺は深呼吸した。
よし。よく狙って!
「火の玉!」
左手を振るった! 火の玉はオオカミンに真っ直ぐに飛んで行きやっとこさ当たった!
よっしゃ!
俺は小さくガッツポーズを決めた。
「おめでとう!」
「やっと当たった……」
うんじゃ、もう一撃……。
「火の玉!」
左手を振るう。だが、火の玉が出ない! 不思議に思ってMPを見ると一%になっている。MP切れになったらしい……。
マジか……。仕方がない、練習は終わりだ。
「MPが切れた。普通に攻撃して倒すわ」
「了解。宜しく」
ヒカルが恵みの雨で火を消す中、俺はオオカミンを倒していった。恵みの雨は思ったより広範囲らしく、一度に火を消化していた。
あれは便利だな。早く俺も覚えたい。
武器攻撃だけで倒したので、すぐに残りを倒し終わる。そしてその頃には、火の消火も終わっていた。
「ふふふ。流石だね」
突然ニヤニヤしながらヒカルがそう言った。
「何が?」
「無詠唱だなんて、羨ましい!」
「あ……」
そうだった。出来るからつい忘れてそのまま……。やばいと思っても既に遅しだよな……。
今度から他の人の前では、小さく唱えて聞こえない様にして誤魔化さないとな。
あと、ピピにも謝るか。
『ピピ。さっきは八つ当たりしてごめんな』
『いえ、私こそ申し訳ありませんでした。あの時、話しかけるべきではありませんでした』
俺はピピとニッコリ微笑み合う。
「何? 思い出し笑い?」
ヒカルがジッと俺を見て言った。ヒカルには、俺が一人でほほ笑んでいるように見えているのだからそう思って当然だ。声に出さなくても行動も気を付けなくてはいけないな。
そして俺達は、ワープでタード街に戻った。
さて、何レベルになったかな。
タード街に戻った俺達は、ステータスを確認する事にした。
「うわぁ。凄いレベル上がってる!」
ヒカルは、嬉しそうな声を上げる。
二人共レベル九まで一気にあがっていた。
すげぇな。オオカミンを五体倒しただけなのに。でも、普通はあのレベルでは倒せないからな。これで当然なのか。
「キソナ! 連れて行ってくれてありがとう! すっごく助かったよ!」
まあ、喜んでるしいいか。
オオカミンは、一人でも何とかなりそうだな。ただ数が集まると危ないかもしれないが。でも回復魔法が三〇〇回復するなら問題ないな。
しかし、ヒカルのあのツル縛りだったか、このスキルは凄いチートだな。確か、この世界では動き自体を止める魔法は、痺れさせるぐらいしかないはず。
後は、PvPでの部分攻撃だよな。
ヒカルは、おいしいチートを手に入れたもんだ。まあレベル差があると、一体しかできないとか弱点はあるけど。
俺達はその後、パーティーを解散し別れた。
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