旅立ち編〜イメージを明確に

 

「うごっ!」


 今にも泣き出しそうに顔を歪めて悔しがるエイルーナは、隙を見て俺にボディーブローをお見舞いしてそのまま走り去ってしまった。




「怪我はないな?」



 ミシェイルが近付いて来て、確認する。

 俺も腹を抑えながらコクコクと頷いて答える。




「ミシェイル様、先に戻っておきます」



 そう言って一礼して立ち去るアルフリード、戻るというが彼はエイルーナに確認に行くのだ。

 もしかしたらどこか怪我でもした可能性だってあるのだから。



 エイルーナは負けたら走って逃げて拗ねるのは今に始まった事ではない。

 ミシェイルやアルフリードからしても珍しい光景というわけではないのだ。






「狙っていたのか?」




 少し遅れて屋敷に帰ろうとした俺にミシェイルから質問が投げられる。



「…そうですね、上手く行き過ぎましたけど」



 狙い通りであったが、あそこから体勢をひっくり返して徐々に詰めていく予定だった。


 もちろんあわよくば決めれればという考えはあったけど…。




 恐らくエイルーナは守勢に回らない為に、強引にでも巻き返しを狙っていたんじゃないかと思う。



 まぁ真相はわからないが…。





「そうか…レオはやっぱり凄いな…」


「……まぁ余裕で負け越してるんですけどね」





 急に褒められて面食らった。

 なんか恥ずかしいな…ウン。






 エイルーナやアルフリードの後を追って屋敷に帰ろう。

 朝食に間に合わなくなるしな…。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 屋敷に戻ると朝食が用意されていた。

 レイスが我が家のように出迎えてくれる。




「やぁ、おはよう!」


「っ!お、おはよう…」


「…おはよう」



 美しい金髪の髪。

 透き通るような真っ白の肌にとんがった耳。

 どの角度から見てもエルフの美少年である。

 いや、ミシェイルと身長が変わらないから女の子に見えなくもない。


 しかし違和感がある。

 まずは顔。

 真っ赤に腫れている。

 叩かれた…つまりビンタではなく、あれは殴られたのだ。

 まぁ予想はつくけど…。




 走って帰ってきたエイルーナを煽ったのだろう。

 煽ったわけではないのかも知れないが、「今日は負けたんだ」と漏らしてしまうだけで鉄拳は飛んでくるし…。



 そして俺が問題視したいのは服装だ。



 レイスは腕は袖で隠れているが、肩は露出している。

 綺麗なお腹と腰も露出させ、パンツは膝より上。



 露出が多いのだ。

 女性っぽい服装が好きなのは仕方ない。

 だって趣味だしな。



 俺の偏見を押し付けらようなのであまり突っ込んだらはしないが、とにかく個性的です。




 レイスは熱い眼差しをミシェイルに送っている。


 ミシェイルはため息を吐きながらレイスの顔に指を当ててマナを送り込む。



「先に行ってる」




 俺はその様子を見て横を通り抜ける。



 少し屋敷を進んで洗面台の前に立つ。

 顔を洗って鏡の前の自分を見つめる。



 レイス程ではないが肌は白く目が青い。

 髪の毛の色も含めて完全にクリスの遺伝だな。

 俺もどっちかっていうと中性的な気もする…髪の毛のせいかもしれないが…。


 真っ赤な髪の毛は今は背中まである。

 いつも前髪を残して1つに束ねている。

 クリスがよくやっていた髪型…ポニーテールだ。



 自分でもどうかと思う所はあるが、これが落ち着くからこれでいいと思った。







 クリスの帰りを待って5年。

 何故無理に縋ってでもクリスを引っ張ってこなかったのか……。

 ずっと後悔している。

 今でもだ。




 勿論クリスが死んだなんて思っていない。

 もしかしたらどこかで怪我でも…。

 記憶なんか失ってるのかもしれない。


 他にも帰れない理由があるのかもしれない。



 けどクリスは俺に剣聖を継がせるまで死なないと約束した。

 その約束を守ってもらわないと…。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 食事を済ませて俺は再度トレーニングに戻る。


 エイルーナは業務に入る。

 アルフリードは自警団詰所に出掛けて行った。

 レイスは行方不明なので、ミシェイルとトレーニングをする。




 同じ場所で、別々の事をしているので一緒にトレーニングしているわけではないのだが…。




 俺は剣を握って頭の中のイメージを明確にしていく。

 まるで目の前で敵と相対しているように…。


 剣を振る。

 踏み込む足の先から、振り抜いた剣の先までしっかり意識を向ける。

 手を抜いて素振りはしない。

 全力だ。



 次の動作に入る為の動作を流れるように行えるように。

 入念に頭にイメージを浮かべながら剣を振るう。



 そんなのが意味があるのかと言われる事もあるだろう。

 だけどこれはクリスがやっていた訓練だ。

 クリスはドレイクに教わったと…。



 ならば俺はきっと意味があるのだと疑わない。

 イメージはしっかりと明確に…だ。











「レオ、いいか?」





 ミシェイルの声で動作を止める。

 たった数分だったが、汗はびっしょりで息は上がっている。

 動きを止めると、疲労を感じるのは何故だろうか…?






「なんですか?」



「レオは剣を速く強く振り抜くにはどうすればいい?ルーナに聞いたらさっぱりわからなくて…」




 ミシェイルなりに強くなる為の質問か、こういうのは真面目に答えるべきだろう。

 もっとも俺なんかが何か語るのは正直思う所があるけど…。




「ちなみにエイルーナがなんて答えたか聞いてもいいです?」



「シュッと力を抜くように力を入れて振る…って…」




 言いたいことがなんとなくわかるんだが、言葉だけで聞くと全然わからない。

 これは感覚で振るって事なのかな?



「……エイルーナのことは置いときましょう…、今ミシェイル様が思っている事は多分この先もずっと感じると思います、俺がそうでしたから!」






 はじめからそうだった。

 エイルーナが初めから剣先が走ってたりと、俺のコンプレックス製造機だったからな。

 すご〜く分かるぞ!


 今はあの頃より速く強く振り抜けているかもしれないが、それでもエイルーナの方が上だし、もっと速く、もっと強くってのは永遠に続く…。





「だからこうすればなんてのは俺にもわかりませんけど…、俺は剣が自分の腕の延長だと思って振ってます、ミシェイル様もそんな意識でやってみてもいいかもしれません」





 俺には正しい答えなんてわからないから、俺の意識している事を伝えるだけだ。





「…腕か…んー…わかった!意識して見る」




 あまり腑に落ちていない気もする。

 だが、何がきっかけなのかはわからない。




 てかエイルーナが感覚的だとか言いながら、俺も感覚的な答えだな…。


 なんかうまく言葉にするのは難しい……。










「レオリス様!」



 ミシェイルが少し離れて修行再開したところで、アルミーナがやってきた。



「レイス様がお呼びです」



「…レイスが?わかりました」




 わざわざアルミーナを使って…何かあるのか?


 アルミーナの後を追ってレイスの元に向かった。

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