少年少女の旅立ち

旅立ち編〜5年後の異世界

 あれから5年経った。




 黒竜の襲来。

 魔物の異常発生。


 結果としてバルメリア王国の事実上の滅亡。



 栄華を誇った美しい王都ゼレーネは、現在魔物の巣窟として、魔都ゼレーネと呼ばれている。




 ゼレーネを中心に凶暴な魔物が多いので危険地帯扱いされている。



 当たり前だが、ペルロは壊滅しているが、魔物は住み着いたりはしていないらしい。







 俺たちの住む中央大陸は今や北の山を越えた先にあるドワーフの国が主権を握っている。


 しかしゼレーネの事もあり、ドワーフの国グリンダムは南下して領地を拡げようとはしてきていない。

 ゼレーネに黒竜が住み着いているとかって噂を信じているのだろう。

 東のアルガルム帝国も同様だ。





 バルメリア王国はもはや存在しない。


 バルメリア領内の民は、この5年でグリンダムや、元々バルメリア王国の属国だったが、滅亡の後に独立した海を越えた先にある東のミュール王国。

 西の砂漠を超えた先にある、世界三大国の1つで、バルメリア王国と同じく人間の国、アルガルム帝国に移住する者が後を絶たなかった。



 城も無く、王族も消息不明、そして民も移民していくとなれば滅亡と言ってもいいだろう。



 最も王族が1人近くに生きているが、これは後に語るとする。




 これが大まかな世界の流れだ。



 たかが5年だが、されど5年…、大きく世界が動くわけではないが、世界に変化が見える年月だ。




 クリスはあれから帰ってきていない。

 だが死んだとは思っていない。

 赤髪の女性の目撃情報も確認された。

 クリスと約束した。

 俺はまだ剣聖を継いでいないのだから…。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










 俺の朝は早い。

 と言ってもこの屋敷には朝が早い人間が多いので普通だと言っておこう。




 起きるとすぐに着替えを済ませる。

 比較的動きやすい服装で外に出る。



 やる事の基本は昔と変わらない。

 変わった事と言えば剣を持って走る事だ。


 屋敷の庭を走るコースから、屋敷を出て村まで降りて、早朝から作業をしている村人に挨拶。

 さらに村を抜けてアストラル領を守る結界を確認しに行く。


 同時に村の若者で希望者を募って立ち上げた自警団に異変がないか確認を済ませると、、また走って屋敷に戻る。




 ランニングはパトロールも兼任している。

 だがアストラル領は人口は少なく、村こそ小さいが、森に囲まれた豊かな領地である。

 野菜や麦の栽培が盛んに行われている。


 野菜を狙う小物の魔物はちょこちょこと現れるので、それを自警団を含めて俺たちで対処する。



 話を戻すが、案外領地は広いのだ。

 俺は朝食までには帰るので、その為にはランニングというよりは常にダッシュである。


 レイスやミシェイルが同行した事もあったが2人とも全然ついてこれなかった。

 特にレイスは早々に諦めて切り上げる始末だった。


 エイルーナは余裕だったけど…。






 毎朝そうやって走る俺に、村の人達はみんな挨拶してくれる。

 一応現在領主はクリスで、俺は領主代理ということになっている。

 代理と言っても名ばかりでメイリーンやリドルフに全て任せている。

 代理って形ならメイリーンやリドルフでもという主張は遠回しに拒否された。


 メイリーンは特にそういう事に詳しいらしく、ドレイクの頃から半分以上はメイリーンが担当していたらしい。


 俺としては非常に申し訳ない気待ちなのだが、メイリーンは俺がほとんど何も出来ないので任せるという趣旨を伝えると、文句1つなく快諾してくれた。






 村の人達ももし転居に悩んでいるなら止めない。

 寧ろ補助させてもらうと、俺の提案で全員にそうやって話す機会を作った。


 もちろん残ってもらった方が俺たちの食が安定するのでそれに越した事はない。

 だが状況が状況だけに無理強いはしたくなかった。





 だがほとんどの人達は残ってくれた。

 昔から住むこの村を離れる訳にはいかない。

 ドレイク様には世話になったからその孫に少しでも恩を返せるならそれでいい。



 そんな暖かい言葉を貰った。

 村の比率として高齢者が多いのもあるかもしれないが、そんな言葉をかけられて泣きそうになった。


 俺が何かしているわけではないのに、変な話だけど…。





 だからクリスが帰ってくるまで頑張って俺なりの領主っていうものをやってみるつもりだ。










 屋敷に帰るとミシェイルとエイルーナに修業をつけるアルフリードがいた。




「お帰りなさいませレオリス様」


「「おかえり」」



 エイルーナはこの5年で成長した。

 金髪ツインテールなのは変わらずだが、身長も伸びてすらっとした手足。

 目もパッチリとした人形のような非常に整った顔立ち。

 何より遺伝だろうか…12歳とは思えない程に大きな実りを見せた胸。


 体だけでなく、メイドとしての仕事もほぼ完璧。

 俺と同じく毎日剣の修行は怠っていない。

 日々隙をみては俺と立ち会い、そして俺をボコボコにする恐ろしくも逞しいメイドに成長していた。



 その横には剣と盾を持つ黒髪の少女は、エイルーナに比べると小柄で華奢だ。


 まぁエイルーナもムキムキな訳じゃない、寧ろ見た目は筋肉があるように見えない。

 つまりはミシェイルは線が細いのだ。

 筋肉だけでなく骨などの骨格から…クリスタイプだな。





 そんな彼女は今は11歳。

 黒髪の活発そうなショートカットの彼女はますます前世の妹に似てきた。

 というよりは俺の最後の記憶に近付いてきた。

 実は歳上なのだが、癖のように妹のように扱ってしまい、それで度々機嫌を損ねてしまう。

 こっちにきてから10年、記憶を失いたいわけじゃないが、この感覚だけはどうにか治したいと思う。




 ミシェイルは今名を偽っている。

 ミシェイル・イオルエス…と。

 グレイズ王子が娘に持たせていた…遺言だ。



 もし、自分が生き残れなかった時の為の…。

 俺も全てを見たわけではないが、母の姓を名乗って生きる事。

 バルメリアを名乗るのは面倒に巻き込まれる可能性がある為だ。


 王族である事を忘れて、自分のやりたいように自由に生きる事。


 娘への約束を守れなかった時の謝罪。

 愛しているという事。



 簡単に言うならこんな感じだ。



 ミシェイルは一月程引きこもったが、自分で悲しみを切り抜けた。


 彼女もまた、王都で生存している可能性を信じる。

 いつか力を付けて王都を解放するんだそうだ。


 本当に強い子だと思う。






 そして強くなる為に、アルフリードに弟子入りした。


 剣と盾を持って、魔法を扱う女騎士だ。

 俺はそんな彼女を支えていく方向性だ。




「レオリス様…義兄さんやミシェイル様がいるんですからより実戦的に模擬戦をしませんか?」





 エイルーナが真面目な顔をして誘ってくる。

 恐ろしいお誘いだが、エイルーナとの修行が1番為になるからな。

 実力が近く、体格も差が大きくない。

 お互い剣士だ…俺は魔法剣士っぽいけど…。



 あ、そうそう!



 アルフリードがミリターナと結婚したんだ!







 メイリーンやリドルフに呼び出されたと思えば、ミリターナとアルフリードがいて…話を聞くと結婚したいと!



 ここ数年一緒に住むことになり徐々に惹かれ合うようになったとかなんとか…。



 アルフリードは家柄も何も無いので、ナスタート家に婿入りする形で結婚することになったのだ。




 アルフリードが「レオリス様、この度は…」などと言い出した時は必死でやめてもらった。



 アルフリードとしては、ナスタートに婿入りするんだから、ナスタート家が仕えるアストラル家の俺に対する態度は改めないと…とか真面目な事を言い出したのだ。



「今まで通り接してください!」


 そうやって頼み込んだ結果なんとか受け入れてもらった。


 俺としては世話になっているアルフリードに、急に扱いを変えるような事はしたく無いしな。





 そんな訳でアルフリードはアストラル家臣団に入り、村の自警団のまとめ役と、暇な時に俺達の修行を見てもらう事になった。




 アルフリードも実力者だし、信頼出来るので俺としても助かるのだ。







「わかった、アルフリードさん…立会いお願いします」



 そんな俺は剣を抜いてエイルーナと向き合う。



 エイルーナにはドレイクの剣を託した。

 大切に使うのを条件に。





 その剣を構えて向かい合う。



 俺が帰ってきたから、俺がクリスの事で無気力になる期間があり、それを乗り越えた後からエイルーナとは度々模擬戦を行っている。


 序盤は実戦経験を積んできた俺が圧倒していた。




 しかし天才様にそんなものは微々たる差なのだと感じさせられた。


 気が付けば勝てなくなった。

 俺が頭を抱えて悩んで考え出した方法で、また勝つ 。

 その次には完璧に対応されて通用しなくなるのだ。




 そんな事を繰り返しているうちに俺は成長出来ている気がする。






 もちろんミシェイルや、たまにレイスも交えて行うが、あの2人にはまだ負けた事はない。


 現状4人で最強はエイルーナだな。













 エイルーナと向き合う。


 相変わらず攻撃的に上段に構えるエイルーナ。

 手足が長く身長も伸びた事もあり、前よりさらに雰囲気が出た。

 端的に言えば構えている姿が美しい。




 俺は正眼に構える。



 間合いを確認する作業はない。

 2人で手合わせをし過ぎて、間合いの取り合う作業は省略され始めている。

 お互いがお互いの間合いを把握している。




 いつも通り先に動くのはエイルーナだった。

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