幼年期〜才能ある少女

 俺の修行という名の英才教育は続いていた。





 魔法の修行はマナを感じることが出来るようになることから始まる。


「わかりますか?レオリス様」


 そんな事を言いながら手を握るミリターナ。

 彼女は俺の手を握ってそこからマナを送り込むという修行の相手をしてくれている。


 はじめは握られてあったかいなぁって感覚だったが、何度か試すうちに感覚が研ぎ澄まされてか、ジワリと熱を感じ取れるようになってきた。


 次はマナの流れを感じる事。

 その次はマナの放出。

 一応これが目標らしい。




 俺としては魔法がわかりやすく成長している実感がある。




 読み書きに関してはこの数年でほとんどマスターしたと言っていいだろう。



 歴史も一応知識として覚えている。

 今のところこの世界に本というものが非常に希少価値が高いものらしくなかなかお目にかかれないので言伝となる。

 だからか歴史というより英雄の昔話などの前世の童話に近いものが多い。

 前世と違って魔法なんてものがあるから、童話の信憑性の高さが桁違いだが…。

 黒竜伝説なんていう恐ろしい話もあるのだ。

 現れたら世界が滅ぶだのなんだの…と。






 さて剣の話だ。

 基本はやはり素振りに走り込み、母の指示に合わせての打ち込みと、格闘技と変わらない。



 そこで変化があったのは興味津々に俺たちを眺めていたエイルーナである。

 金髪ツインテールの可愛らしい彼女はまだメイドとして働くというよりはお手伝いをしているに過ぎないので、ミリターナやアルミーナより暇な時間が多い。

 その時に俺の修行を眺めていたのだ。




「ルーナもやってみる?」


 俺の修行を見ながら軽い気持ちでクリスはエイルーナを誘った。


「うん!やってみます!」



 パアッと明るい笑顔でクリス見て、クリスから木剣を受け取ると、俺の素振りをじっくりと観察するように見る。



 その後俺の横に並び同じように剣を振り始めた。











 エイルーナは俺より2歳年上…つまり今7歳だ。

 俺も5歳といえ英才教育を受けてそれなりに鍛えてきた。

 筋力にそれほど差があるとは思えない。


 だが違った…エイルーナの剣は…。


 具体的にいうと速さだろうか…

 俺の素振りは少年野球のスイングのような感じとして、エイルーナは高校球児…下手したらプロとかそれぐらい差があるのがわかった。

 音も違う。

 空気を切る音。シュッと鳴る音の鋭さ…



 クリスは固まっていた。

 俺も英才教育受けていたし、今から始めるエイルーナに先輩風でもと…現実はそんなに甘くない。



 エイルーナは天才かも…






 ――――――――――――――――――――――――







 エイルーナと共に修行の日々が続く。





 エイルーナはとの修行は俺に精神的ダメージを与える。

 まず体力だ。

 今まで走り込みをしてきた俺はそれなりに体力がある。

 体力は基礎だと母クリスは修行の前後必ず走らせた。

 ちょっと5歳の子供に過酷な…と思うところもあったりしたが、この世界ではそれが普通なのかもしれない。


 さらに言えば俺は剣聖の家系の一人息子。

 それくらいは仕方ないという子供らしくない考えがある…まぁ中身子供じゃないから仕方ないけどね。


 ちなみに前世の時も体力には自信があった方だ。




 しかしエイルーナは違った。

 今まで走り込みなんて事は勿論しない。

 姉達の後ろをついて回って仕事を覚えたり

 ミトレアに遊んでもらったりと、そんなトレーニング的な事はしていない。

 ミトレアが何か特別な…アリエナイナ





 そんな彼女は修行前のランニングは、そもそも足が速い。

 マラソンというよりダッシュだ。

 2人でトレーニングをして片方が速いと自然とこっちも速く走らなければならない気がしてくる。

 それで俺が肩で息をしても彼女は涼しい顔をしている。




 修行後のランニングもだ。

 たまに修行内容が厳しい時があってヘトヘトな時も彼女はいつも通りのペースで走る。



 素振りも違う。

 そもそも速さや音が違うのは勿論なのだが…。


 はじめはわからなかったが、あれは思っていてのと違い非常に疲れる。

 特に剣先が走るという感覚を理解してからは特にだ。


 なあなあでやると鬼コーチことクリス様はお怒りなるので真剣にやる…当たり前だけど。



 エイルーナの素振りは本当に全力なのだ。

 剣先が走らない事なんてないのだ。

 そんな彼女を意識する俺は当然悔しい。



 別に男のが強くて偉いなんて男尊女卑な考えがある訳ではない。

 寧ろ魔力なんてものがあるこの世界では、力の基準が違うだろうからな、王国一の剣士も女だし…。

 彼女の方が年上とか、才能があるとか関係ないのだ。


 俺の方が長く訓練している。


 悔しいのは仕方ない。

 もっと努力してもっと技を磨いて体を鍛えるしかない。

 悔しさはバネにしなければならないのだ。

 でも悔しい…。



 俺は日々エイルーナを意識しての修行が続いたある日、クリスは俺とエイルーナを見て何かを決めたと立ち上がる。




「模擬戦しようか!」




 ――――――――――――――――――――――――







 屋敷の無駄に広い庭、赤いペンキを被ったような髪の少年…つまり俺。


 向かい合うは金髪ツインテールの幼女エイルーナ。


 2人のはお互い木剣を持って向かい合う。

 間には赤い髪を一つにくくる…つまりはポニーテールの美しい女性…クリスが立つ。



 少し離れて金髪の長い綺麗な髪を持つ女性、ミリターナと言う名の救護班。

 彼女はクリスに呼ばれてやってきた。

 クリスも魔法は使えるがヒーリングは使えないので呼ばれたのだろう。





「合図をしたら始めていいよ、怪我はないに越した事無いけどターナもいるから安心して、危ない時は私が止めるしね!」



「わかりました!」

「わか…、わかりました!」





 2人が返事をするとクリスは頷いた。




 緊張していた。

 真剣ではないにしろ、この世界で初の実戦だ。

 受け止める訓練や打ち込む訓練ではなく模擬戦。


 それもあのエイルーナだ。

 間違いなく俺より才能がある。


 しかし自分の力を試すいい機会でもある。


 剣は魔法より成長の実感しにくい。


 前世で空手をやっていた時もそうだったが、戦い対する恐怖心もあるが、言い知れぬ高揚感もある。


 故にやる気はある。

 多分エイルーナの方が強いだろうが結果はやってみなきゃわからない。



 俺は木剣を両手で握り、正眼に構えた。




「では…はじめっ!」

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