第22話 ショットガンの男
「誰だ! 姿をみせろ!!」
私の声に反応して叫んだのはショットガンを持った男だ。
彼はまだこちらの位置を特定できていないのだろう、銃を構えたまま銃口を右へ左へとふっている。
フン、素人まるだしだな。
しかしそれでも、すぐに発砲できるような体勢を崩さないのは、あるていど銃の扱いに慣れているからか。
さらに彼はそのまま、じわりじわりと後退し、扉へとにじり寄っていく。
危険を感じれば、いち早く建物内へと避難できるよう勤めているのだろう。
冷静だな。おろおろするばかりの他の二人とは対照的だ。
コイツには注意を払った方がよさそうだ。
「撃たれちゃかなわない。銃を下ろせば姿をみせる」
まずは会話だ。別に皆殺しにしてもかまわないが、奴らの呟きに気になる言葉があった。殺すのは聞き出してからでも遅くはない。
「分かった。だが、両手は見えるようにしろ」
ショットガンの男は一瞬考えるそぶりをしたものの、すぐに銃口を下に向けた。ハハッ! これで会話成立。この場はもう私の支配下にある。
両手を上げたまま、柱から歩み出る。
持っていた拳銃は、トリガーガードを親指に引っかけ吊るす。重みで上下反転したその姿が、交戦の意思はないのだと強調するだろう。
「これでいいか? なんなら服も脱ごうか?」
「いや、待て、それ以上動くな! お前……一人だけか? それにその服、とても助けにきたように見えない!!」
男は下げていたショットガンの銃口を、こちらへ向けた。
引き金に指をかけ、いまにも発砲しそうな勢いだ。
明らかに信用していない。
まあ、いま私が身につけているのはボロキレのようなマントだ。
むしろ施しを受ける側、そんな格好で助けにきたなんぞ言われても、私だって信じない。
「俺は一般人だ。なんとか生き残るべく無事な者たちで自警団を結成したんだ。だが、まだ数が足りない。協力してくれるとありがたい」
男はほんの少しだけ、引き金にかける指を緩めた。
迷っているな。
フン、早く決めろ。
なんなら撃ってもいいぞ。その瞬間、貴様に乗り移るだけだ。
「何があった? 死体を吊るしたのは君たちか?」
タイミングを見計らって、さらに問いかける。
さきの返答はまだだが、じっくりと待つつもりはない。
まくしたてず、与えすぎずだ。最低限判断する時間は必要だが、余分な時は疑念を生む。ならば余分も疑念も、新しい情報で押し流してやればいい。
すると男は、ハッと何かを思い出したかのような表情を浮かべた。
「ノラスコ、ダン。ドアにいる死体は動いてないか?」
こちらから目をそらさず、仲間へと問いかけるショットガンの男。
ボサッと突っ立っていた二人の身が、ビクリと跳ねた。
これでよく生きてこられたものだ。
二人してジュリアーノ(仮)の死体を確認し始める姿を見て、ショットガンの男がしてきたであろう
「ジョシュア。大丈夫、動いてないよ」
返答したのは、坊主あたまで浅黒い肌、口からあごへとつながった
おそらく彼がノラスコだろう、コイツの方が声をかけられ身を跳ねるのが一瞬早かった。
彼らの脳の処理速度など知るよしもないが、己の名が呼ばれたと認知するていどなら、さほど時間に差はないはずだ。
やがて、ショットガンの男はゆっくりと頷くと、銃をおろす。
「ひとまず話を聞こうか。だが、その前に教えてくれ。向こうのドアにも死体を放りこんだのはアンタか?」
ふ~ん。反対側のウィルソン(仮)にも気がついていたか。
私は両手を見せたまま肩をすくめ、そうだけどマズかったか? とのジェスチャーを送ると、ショットガンの男は明らかにイラついた顔をみせた。
「チッ、まあいい。とりあえず、死体を吊るすのを手伝ってくれ」
いいよ。飾りつけは得意だ。私は了承の意を示すと、彼らと共に、ウィルソン、ジュリアーノだけでなく、調査のために下ろしてしまった他の死体も、柱に吊るしていった。
――――――
「ジョシュアだ」
「B.J・シュタイナーだ」
案内されたのは病院内の事務室と思わしき部屋の一角。
そこでお互い握手をかわすと、ショットガンの男ジョシュアは少しホッとした表情を浮かべた。
なるほど。これまでの会話であるていど察せられたが、私の体温を感じて安心したのだろう。
たぶん、ここでは死者が動く。私も動く死者ではないかと
生きていれば狂って人を襲い、死んだとしてもやはり人を襲う。
ゾンビに狂人と眠れぬ夜を過ごしてきたに違いない。
「こっちがノラスコで、こっちがダン。たいしたものはないが歓迎するよ」
紹介された二人のうち、まずはノラスコと呼ばれた方に目を向ける。
推定、身長181センチ、体重72キロ、年齢30……4。浅黒い肌に無精髭。やはりこのヒスパニック系の男がノラスコだったようだ。三人の中では一番背が高いが、威圧感はない。どこか気弱そうな雰囲気がただよう
私は「よろしく」と手を差し出した。
「よろしく。俺はノラスコ、こうなるまでは教師をしていたんだ」
教師か、普通だな。普通すぎて逆に違和感を覚えるぐらいだ。
こうなる前とやらの街の姿を知らない私にとっては、盗賊や追いはぎといった類のものしかピンとこない。
「よろしく」
「ダンです」
次に握手をかわしたのは、約、身長178センチ体重63キロ。出っ歯に天然パーマで、まだ若い。幼さの抜け切らない引きこもり気質の19歳といったところか。
「三人だけか?」
「えっと……」
「――そうだ」
ダンに尋ねたつもりだったが、その答えを遮り、ジョシュアが割り込んできた。
ふ~ん。他にもいるな。
まあ、そのへんを詮索するのは後だ。まずは、外に飾ってある素敵な
「三人か。こちらはウィルソンにジュリアーノ、ケイツにジョアンにイザベラに……俺を入れて十七人だ。で、死体を吊るすのはなんでだ? 儀式か?」
「十七人か……」
「ああ、そうだ。それで、なぜ死体を吊るす必要があるんだ?」
「ん、そうだな……なにから説明すればよいやら……」
ジョシュアは内容を整理しながらも、ゆっくりと話しだした。
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