4 白い羽根をください。

 白い羽根をください。


「巴ちゃん。私に白い羽根をくれませんか?」

「白い羽根?」

 巴は言う。

「そうです。『あなたの背中に生えているその真っ白な羽根』のことです」夢は言う。

 巴は自分の背中を見る。

 でも、当たり前だけど、そこに白い羽根なんてどこにも生えていなかった。(私は天使ではないのだ)


「私に翼はありませんよ」

「いいえ。あります。それはまだあなたの目には見えないだけで、私の目にはちゃんと、あなたの背中に生えている真っ白な、美しい二枚の白い羽根が見えるんです」にっこりと笑って夢は言った。


 がたんごとん。

 と言う音を立てて、ずっと一定の速度で(それは走っている電車にしては、すごくゆっくりとした速度だった)走っていた電車が、だんだんとその速度を落とし始めた。


「駅? 停車するんですか、この電車」巴は言う。

 なんとなくだけど、この電車はこのままどこの駅にも停車しないで、ずっとずっと、こうして線路の上を走り続けているような気がしていた。


「もちろん。停車しますよ。無人駅ですけど」

 白鳥夢はそう言って、またにっこりと鷹羽巴に向かって笑った。(それは、同じ女性である巴から見ても、どきっとしてしまうほど、美しい笑顔だった)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る