目を覚ますと土の中だった

「…どこだ? ここ… 俺はいったい…」

目を覚ますと周囲はとても薄暗くなっていた。真っ暗なようで、深い森の中の木漏れ日のように薄っすら光がさしている。

「俺は… 確か そう。農場実習で土壌調査の最中にぶっ倒れて…」

俺の所属している大学は私立であり、独自のカリキュラムが組まれていた。

その為 国民の休日に干渉されず、世間が10連休10連休騒ぐ中で 連休は三日間(金土日)しかないという学畜生産日程をしていた。これで課題もしっかりあるのだから、倒れる人間がいたって不思議ではない。

「単位、出るんだろうな…?これ…」

 それにしても周りが暗い。誰かが運んでくれたのかもしれないが、農場内にこんな場所があっただろうか。

「なんだこれ… 落ち葉の下みたいだな… もしかして、死んだと思って、隠ぺいとして埋められたのか!?」

信じられない話ではない。うちの大学は、人集めに困っていた。受験者が減るようなことはしたくないだろう。  だが、それにしては、何かがおかしい。

「落ち葉…が、大きい… いや大きすぎる!」

そう。とにかく周りのものが大きい。遠目には 普通の木漏れ日のようだったが、近くを見てみるとその一枚一枚がやたら大きい。どう見ても自分の数十倍はあるのだ。

「まさか… これは流行りの転生もの! しかも異種族じゃないか!」

生前、ネット小説は俺を癒してくれていた。もちろん普通の小説もラノベも好きだったし、何なら古文や漢文、専門書の類も読んでいた。しかし、量や速さが足りないのだ。友人も少なく、定期的に何かを読まないと落ち着かない。図書館の本は興味の湧くものは粗方読み新刊待ち。そんな時ネット小説はいい。何しろ無数にある。何百、何千という人が、それぞれの世界をもって俺の渇きを癒してくれる。似たものでも微妙な世界観や価値観の違いがあり、並行世界のようでいくらでも楽しむことが出来た。その中でも大好きだったのが異種族転生ものである。面倒な人間の枠を捨て、新たな視点や価値観を持って一から世界を見つめなおす。その感覚が得も言われず快感だったのだ。

「さあて ステイタスや天の声的なものがあるといいんだけど…

そもそも 俺の種族は何なのやら?小さいのは間違いない。落ち葉が上にあるから土壌生物… うーーん。食べ物… 食欲が湧くもの… 落ち葉、なんだよな…」

困った。落ち葉を食べる土壌生物なんて、結構な数がいる。かといって特定ができなければライフスタイルの考えようがない。

「まあ とりあえず落ち葉を食べに行ってみるか」

そう思い、落ち葉に向かう。向かおうとすれば、当然体は意識せずともその為に動く。

歩もうとした瞬間、足のあたりが痙攣したように地を叩き、次の瞬間体は宙に跳ね飛ばされた。

「これは… まさかステイタスが高すぎて制御できていない!?  いや、違う。今のは足を束ねて蹴るしか無かった… そういう体なんだ。落ち葉を食べて、土に住んでいて、跳ね回る… トビムシ…か?」

<おめでとうございます。 貴方は自己の認識と概念的くくりを行われました。

知能ある特殊生物と認識して、人間からの認識を基に

レベル ステータスの概念を付与します。更に、種族別特典として、【時空系特殊能力:進化】を付与します>

突如意識に無機質な声が割り込む。

「これは… やはりあったか!謎のシステム!」

お決まりのがあるなら流れもお決まりでいいだろう。

「ステイタスッ!」

そう唱えると、お決まり通り自分の能力が頭に浮かんでくる。

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イニシエトビムシ: 太古から姿を大きく変えていないトビムシの一種。小さく弱弱しいが危険感知能力が高く、今の時代までも生き残っている種でもあり、今の世界中に生息する、魔物に分類されるものも含めた全てのトビムシは、この種から進化したとされており、いわゆる生きた化石の一種。最近の研究により、僅かであるが時空を歪める能力を所持していることが分かった。


脚力:E

咬力:E

知力:C

危険感知力:A


パッシブスキル


虫の知らせ:自分に害意のあるものが半径で自己体長の8倍以内に入った場合それを感知し、また自己体重の0.5倍重量の主食の分だけのエネルギーを使用し、0.3秒周囲の時を止められる。



食い溜め:胃袋内の時空を歪め、元と合わせ体重の2倍の食料を食べて貯蓄することが出来る。


蹴り増強:蹴る力が強くなる


同定:相対した生き物を自己の知識から特徴づけ、それを基に人の知識から同定、

詳細を知ることが出来る。


特殊能力


進化:何らかの要因で第三者的かつ他生物との対比的視点で『自分はトビムシである』と認識したイニシエトビムシのみが会得する能力。

無力なイニシエトビムシであることを深層心理が拒んだ結果、眠れる時空能力が開花し祖先の分岐などを歪め、記憶や種々の能力を維持したままに、自分を『他種のトビムシであった』ことにして別種として未来を歩むことが出来る。

※但し 使用の際は2時間の間完全に無防備になる上、現実に存在する、又は存在した種にしかなれない上、その種に分岐するに至った環境を追体験する必要がある。

又、進化の際には、その種分の寿命が追加。


クラウドブレイン;時空を歪め、転生前の脳を構築、本来トビムシには不可能な思考能力を得たり、進化前の記憶や情報を進化後にも変わらず利用できる。


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「なんか、地味に強げというか夢があるというか… 捨てたもんじゃねえなトビムシ。」

能力が地味に強い。流石生きた化石である。

「レベリング方法は生きてれば見つかるし、兎にも角にも今は落ち葉を食べるのが生きる道ってわけだ… 目指すは最強のトビムシ!」

こうして、俺のトビムシ生は幕を開けたのである。

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