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サトウタロウ

Prologue

第1話

「お兄ちゃん、子作りしよ!」


「断る!」


俺の義妹いもうとは、俗にいうブラコンである。

いや、もはやブラコンという域を突破して、ただのレ●プ魔だ。

朝目を開ければ必ずそこにいるし、夜風呂に入っても必ずそこにいる。

我が義妹も今年で十三歳。

流石に一緒に寝るとか、一緒に風呂とか、そういうのはそろそろ無理がある歳になっている。

しかし、我が義妹はそんなことお構いなしに俺に激しいスキンシップを求めて来る。

それでも俺は耐えた。

義妹とはいってもやはり血の繋がらない女の子、しかも美少女だ。

うっかり手を出してしまわないように理性を総動員して耐え抜いてきた。

そうして耐え抜いてきた結果、上の通り完全にぶっ壊れた。

いや、分かってる。

義妹がこうなってしまったことに対する責任の半分は俺に責任がある。

俺がちゃんと突っぱねていればこうはならなかったはずだが、それでこうまでこじらせるなんて誰が思えただろう。

しかも、最近の小学生は進んでいるという噂は本当らしく、義妹は明日中学校に入学するとは到底思えない発言をしている。


「ぶー、お兄ちゃん彼女いないんでしょ?だったら璃子りこで手を打っておけばいいのに……」


「ぶーじゃない、お前俺にばっかり迫ってくるけど、学校に好きな人の一人もいなかったのか?」


「いないよそんなの。璃子が好きなのはお兄ちゃんだけだもん」


「その『好き』はたぶん家族愛の『好き』だと思うぞ?」


「ううん、恋愛の『好き』だよ。間違いなく」


義妹いもうとよ、よく聞け」


俺は璃子の両肩を両手で抑え、その綺麗な瞳を真剣に見つめる。

しかし残念な妹はなにを勘違いしたのか目を閉じて顎を上げ、唇を突き出してきた。


「うぁいたっ!?お兄ちゃん可愛い妹の脳天にチョップするってどういう了見なのかなっ!?」


涙目で必死に訴える璃子のクレームを完全に無視して俺は話を続ける。


「恋愛とは依存と独占欲でできている。例えば恋愛ドラマのワンシーンで、『会いたい』『僕もだよ』てやってるあれ」


「無視はひどい…無視はひどいよ…」


「話を聞け」


未だに頭を摩っている璃子。

そこまで強く叩いたつもりはなかったのだけどな…。


「聞いてるよ。そんなの普通のことでしょ?」


「いや、明らかに異常だ。よく考えてみろ。ついさっきまで会っていたのにも関わらず、それでもすぐのように会いたくなる。まるで煙草をやめられない煙草依存者の禁断症状それそのものだろ?」


「……」


璃子は残念なものを見るような目で俺を見る。

俺は構わず続けることにした。


「そして、彼氏が浮気をすれば彼女は切れる。彼女が浮気していても彼氏が切れる。お互い自分の彼氏彼女が他人に奪われると、必ず怒るものだ。要するに、人が自分の宝物を取られそうになった時の反応そのもの。独占欲。ほら見ろ、恋愛なんて綺麗なものではないし、碌なものでもないだろ?」


「……璃子、お兄ちゃんのそういうところだけは好きになれないなぁ」


「一般家庭の妹レベルまでは嫌ってくれて構わんぞ?」


「璃子がお兄ちゃんを嫌いになるなんて、たとえ世界中を敵に回してもあり得ないよ」


仮に世界中を敵に回した場合、その俺は一体何をしでかしたんだろうな?


「もう、そんな屁理屈ばかり言ってないで朝ごはん出来てるから温かい内に食べちゃってね?」


「そのセリフは俺の上からどいた後に言ってくれないか?」


「お兄ちゃんが璃子と子作りしてくれたら退いてあげる!」


「いや、断るから」


俺は頬を膨らませる璃子を両手で持ち上げてどかすと、ベットを下りる。

それから、温くなった璃子の手料理を美味しくいただいたのだった。


身内贔屓かも知れないが、ウチの義妹は超絶美少女だ。

きっと渋谷を歩けばスカウトがうじゃうじゃ寄ってくるだろう。

サラサラな金糸のような髪は見る者の視線を釘付けにし、翡翠色の瞳は目を合わせた人すべてを魅了し、シミ一つない肌はシルクのようにすべすべで軟らかい。

そんな我が義妹、高宮璃子たかみやりこが俺の義妹になったのは俺がまだ小学六年生の時だった。

『日本文化の素晴らしさを世界に広めて来る!』と言って、スーツケースに美少女フィギアとBL本を詰め込んで日本を飛び出していった両親が、『奴隷商人に売られてて可哀そうだから買ってきた』とまだ幼い璃子を連れてきたのだった。

そして二日後、両親はまた海外へ飛んで行った。

俺たち子供二人を残してだ。

それからいろいろあって、璃子は璃子という名前になり、同時に高宮璃子となった。

その後もいろいろあって、璃子のブラコンが開花するのだが、それはまた別の話。


「お兄ちゃん、どう?似合ってる?」


「似合わねぇ~」


中学の制服を身に纏い、くるりと綺麗にターンをする璃子に心からの言葉を贈ってやるやる。


「やっぱ、セーラー服っていうのは黒髪の子が着るからいいのであって、金髪で着てもあんまりピンとこないんだよな」


「分かった。今すぐ染めるね」


「似合ってる!そのままでもすっごく似合ってるから中学に入ったらモテモテだろうな!だからその髪染め液をそこに置こうか!」


無表情のままに父さんの髪染めに手を伸ばす姿はなぜかゾッとした。

何の躊躇もなかったぞ?


「別に璃子モテなくてもいいもん」


「へぇ、なんで?モテないよりモテたほうがリアルが充実しているような気分に浸れるらしいぞ?」


「璃子はお兄ちゃんのお嫁さんになるから、それ以外の男の子には興味ない」


「教えてやろう。日本では兄妹の結婚は認められていない。つまりお前の、お兄ちゃんのお嫁さんになるからという仮定は成立しない」


「だったら国の法律を変えればいいんだよ。偉い人みんなが兄妹同士で恋愛すれば、法の方も変わるでしょ?」


「仮にそんな日が来たとしたら日本はとうとう終わるぞ?」


「大丈夫!日本は『日出る国』だから、一度沈んでもお日様のようにまた昇って来るんだよ!」


「考え方が古いんだよ!お前ホントにこの間まで小学生だった人間か!?」


「直接触って確かめてみたら?」


「はい」


「ひゃぅ!」


むにゅっと俺の手が璃子の胸にかすかに沈む。

まだ幼さを残すそこは、将来有望そうだった。


「え、えへへ。お兄ちゃんに触ってもらっちゃった……」


頬を染めるな!照れるな!嬉しそうにするな!

そこは『ホントに触らないでよ!バカ!』と引っ叩くところだぞ。


「ところで、明日は入学式だけど準備はできてるのか?」


「うん、完璧!あとはお兄ちゃんが来てくれればそれで準備万端だよ!」


「あぁ、もちろん行くさ」


実際のところ、同じ日に俺は高等部の入学式があるが、そこには参加しない。

普段璃子を邪険にしている俺だってたまには甘やかしたい時もある。

あんまり甘やかしすぎると頭に乗るからほどほどにしとかないといけないけど。


「ところでお兄ちゃん」


「なんだ?」


「制服エッ_____」


「しないからな?」


「まだ最後まで言ってないのに!」


「言わなくても予想はつく」


「愛故に!」


「や、傾向的に」


「ガーン」


わざわざ口に出して言うっていうことはさして落ち込んでもいないのだろう。

フォローは必要なし。


「バカなこと言ってないで早く寝ろ。明日は入学式なんだぞ?寝坊しても知らないからな」


「え~。まだ眠くないよ」


時計は既に子の時間を指示している。

当然夜のだ。

こう見えて、璃子は夜になると昼間以上に活発化する。

そのせいで、なかなか寝付けず翌朝の寝坊が多いのだ。


「そう言って修学旅行の日に寝坊したのはどこのどいつだったか?」


「あ、あれは目覚ましの不調が原因なのであって、わたしは全然悪くないよ!それに、結果的に間に合ったからいいでしょ?」


「過去を捏造するな。あれは自分で止めたんだろ。俺が起こさなかったらバスの時間に思いっきり遅刻してたぞ」


「じゃあ今回もお兄ちゃんがいるから安心だね!」


「そうやってすぐに人をあてにするな」


「ちぇ~。分かったよ、お休み~」


そう言うと璃子は大人しく階段を上って行った。

これでちゃんと寝てくれればいいんだけど。

璃子が部屋に入る音を確かめると、俺はある男に電話を掛けた。


「もしもし、父さん?」


『おー、我が息子よ。どうした?』


「どいうしたじゃない。明日は璃子の入学式だぞ?帰ってこないのか?」


『いやー、帰ってやりたい気持ちは山々なんだけど今ちょっとヤバい奴らに追われてて行くに行けないんだよ』


ちょっと父さんの言っている意味が分からない。


『実はいろいろあって今父さんある国のお姫様を誘拐しててな。そのおかげで指名手配中なんだよ』


いろいろってなんだよ!

なにがあったらそんな事になるんだ?


「いろいろ思うことはあるけど、要は帰れないって事でいいんだな?」


『まあそういう事だな。じゃあ悪いけどそっちは頼むぞ息子。それと、璃子におめでとうと伝えておいてくれ』


「頼むから家族に迷惑だけはかけないでくれよ?それと母さんにもよろしく伝えといてくれ」


『あー、その件なんだけど、母さんな、伝説のBL本を求めて北の方に行ったからここにはいないんだよ』


「伝説のBL本ってなに!?」


『まあ次に会う時が来たらちゃんと言っておくから安心しろ』


「ちなみに父さんは今どこに?」


『詳しくは言えないけど、南の方』


「次に母さんと会うのはいつになるやら……。わかった。じゃあこれで」


『おう、風邪ひくなよ』


電話を切ると、部屋の中は静まり返っていた。

そのせいで2階からの変な声がよく聞こえるが、気づいていない振りをしておこう。

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