ショートショートケーキ
しゅりぐるま
ネロ ~平和を願って~
ある日ネロは黒くて重い塊を受け取った。ボスにとってそれはとても大切なもので、彼に幸せをもたらしてくれるものだと説明された。一週間分の食料と引き換えに、ある場所に指定された時刻に持っていくよう命令を受けた。詳細は後日伝える、それまで大切に保管しておくようにと。
ネロは歓喜した。約束された一週間分の食料には、妹達の分も入っている。妹達にお腹いっぱい食べさせることができる。たった一週間であっても、これ以上の幸せが、これ以上の平和が、この世にあるだろうか。彼にとっての一週間は、一生にも等しいほど長かった。彼と四人の妹達が飢えに耐えるには一週間は長すぎたのだ。
妹たちはあまりに幼く、ネロは毎日、食料を手に入れるためだけに一日中歩き回っていた。彼の両親は流行りの病でとっくに亡くなっており、それ以来、小さな妹達の命はネロに託されていた。
彼に平和をもたらすであろう組織に入ることになったのは、全くもって偶然だった。彼が毎日のゴミ漁りの中で見つけた金属がその組織にとっては重宝するものだったのだ。譲る代わりに新鮮な果物をもらった。ネロは戦車に乗って走っていく彼らを必死に追いかけ、組織のアジトを知った。
その日からネロは、その組織に通い続けた。金属やそれに似たものを見つける度に組織へ出向いた。何ももらえない日もあった。だが、もらえる日もあった。食べ物をもらえた日は、飢えをしのぐことができ、翌日お腹を壊す心配もなかった。
一度などは、きれいな水をもらえた。よくゴミの中にあるボトルに入ったその水は、これまでに見たことがないくらい透き通っていて、泥の味も匂いもしなかった。透き通った水を初めて見た妹達は、しばらく水を太陽にあて、キラキラ光るさまを楽しみ、宝石のように扱った。
ネロは妹達にもっともっと見たことのないものを見せてあげたいと思った。例えば、食べきれないほどの食べ物だ。小麦を溶かして香ばしく焼いたもの、ジューシーな果物、とうもろこしをすり潰して焼くのも美味だ。それに山羊の肉を使ったスープ。両親がいた頃に彼が食べていたものを、妹達にも食べさせてやりたい。それが彼の大きな願いだった。
彼は毎日のように教会で神に祈った。組織と出会えたのは神の思し召しだと思っていたからだ。組織と出会えなければ、彼と四人の妹達はとっくに動かなくなっていただろう。今日まで生き延びられているのも、組織のおかげ。組織と引き合わせてくれた神のおかげだった。
ネロは要領を覚え定期的に組織から食料をもらえるようになっていた。少し時間のできた彼はよく教会へ行くようになった。神に祈るためだ。毎日、真剣に祈りをささげた。そしてその結果、一週間分の食料が得られる仕事を得たのだ。彼は黒く冷たいその塊を大事に持って帰り、妹達には触らせなかった。
毎日その黒い塊を見ては笑顔が溢れた。黒い塊がもたらす幸運を思うと笑いが止まらなかった。早くその日が来ないかと、ゴミを漁っては組織へ通った。
そしてとうとうその日はやってきた。
『明日の午後0時、教会に持っていけ』と命令された。その時間はいつもネロが教会に行っている時間だった。指定された教会も、いつも通っている教会だった。『その場所で、黒い塊についている突起を引き抜け。そうすれば一週間分の食料をやる』
ネロは喜びに打ち震えた。
神よ――ネロはその場で祈らずにはいられなかった。どこでもいい。祈り、感謝の意を捧げるのだ。自分の身に起きた幸運に、彼は精一杯の感謝をした。
翌日、彼は教会へと出かけた。黒く大きな犬がじっと彼を見ていた。
「やあ、ネロ」いつもと同じ時間に現れたネロにみんなが挨拶する。「その手に持っているものは何だい?」初老の男が声をかけてきた。「これは僕の大切なものさ」ネロは目を輝かせて答えた。
彼はすぐに突起を引き抜いた。どっしりと重い塊についていた突起は、引き抜いてくれとばかりに指が引っ掛けられる輪っかがついており、拍子抜けするくらいするりと抜けた。カチャという音が聞こえた以外は何も起こらず、不思議に思ったネロは引き抜いた部分を覗き込んだ。
瞬間、彼は教会もろとも吹き飛んだ。
――その日同時に爆破されたのは、ネロの教会を含めて合計八ヶ所だった。
ネロはたった一週間のために命を落とした。
彼の願いもむなしく、その後、彼の妹たちが満足に食事をする日は来なかった。
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