ONE IDOL LIFE!
@hinata-ishinido
第1話 初めての受難
『私、いっとき芸能活動を休止したいんです』
元々結奈は芸能界に興味がなかったが、大人気アイドルといて活動する従姉、
大川学院中学校は一学年50人の5クラス制で、編入枠は一年の入学時に25名、そのほかの途中編入は三学年合わせて毎年五人ほどとなっている。芸能界入りを目指す子供が多く入学するが、デビュー後に必要な自主性やコミュニケーション能力向上のカリキュラムを組んでいるため、デビューを目的としない生徒もごくわずかに在籍している。
また、在籍している生徒全員がデビューできるわけではないため、厳しい環境に身を置きたがる、自己主張の強い生徒が多いのも特徴だ。
結奈は、編入してすぐ行われた全生徒対象の学内オーディションの目玉、パンフレットの制服紹介ページのモデルに合格し、それを機にタレントとしてデビューしていたクラスメイトに誘われ、
しかし、突然中学から入学してきた生徒がデビューしてしまっては、デビューを果たせていない付属小学校出身の生徒は面白くない。
『小虎』は華がないだとか、いる意味が無いだとか散々な噂を流され、学内では典型的なイジメが横行した。
厄介だったのは、それがクラスメイトに気が付かれないように仕組まれていた点だ。
元々大人しくあまり自己主張しない性格も相まって、気づかれないイジメはエスカレートした。
しかし、誰がやっているかわからない以上、名指しで教師に相談することも出来ない。
じわじわと心が蝕まれていた結奈は、イジメが発生して3ヶ月経った頃、担当の教師に告げたのだ。
芸能活動を休止したい、と
「…なるほどね。もっと早く相談して欲しかったけど、結奈なりに色々考えた結果なら、仕方ないのかな。学校からは、佐武小虎が心身の都合で活動休止と発表させてもらうね。イジメについても調査するから、協力はしてもらうことになると思うけど、大丈夫?」
「……はい、大丈夫、だと思います」
「そう。キツかったら直ぐに言ってね、結奈のペースで解決していけばいいから」
結奈の所属するクラスの担任、
大川学院は風紀を重んじている。
心乱れし者、良い芸人にはなれぬ
という建学の精神の元、日々の勉学やレッスンに取りくむだけあり、大川学院ではイジメや体罰などは重い処罰の対象になる。
下手をすれば退学もしくは解雇となり、芸能界への道は閉ざされる事となるため、世間一般的な校風とはかけはなれているものの、きちんと生活のできる生徒が殆どだ。
だが、土井によると、こういった手の輩は数年に1回は必ず現れるのだという。
中学からの途中入学生や編入生はいじめなどの被害に合いやすく、過去には自主退学にまで追い込まれた生徒もいたらしい。
「それだけの行為だからね、結奈はよく相談してくれたね。」
「いえ…今の気持ちのまま活動するのは、希や応援してくれる人達に失礼ですから」
俯いて話す結奈に、土井はそうか、とだけ返した。
◇
「ゆうちゃんが活動休止!?」
加藤希は、テレビ収録の楽屋に待機している時に、
『佐武小虎』は歌手としてデビューしている。
小学校時代から子役・タレントとして活動している希と違い、テレビやネットの番組に出演する機会は極端に少なく、それを彼女が気にしていることも知っていた。
だが、休止だなんて。
「それ、本当なの?」
「間違いなく。先程学校側から発表があったので」
「そんな…」
何故、相方の自分に相談もなく休止を決断したのだろう。
小虎は…結奈は、途中で物事を放り出すことなど滅多にしない、とても真面目な子だ。
他人に頼ることを最も苦手とし、常に頑張り続けていた。
それなのに、だ。
「…ゆうちゃんは、学院を辞めないよね?」
「それは無いかと。あくまで活動休止、芸能活動自体を辞める訳では無いですから学院には残るでしょう」
「ゆうちゃんが辞めるか辞めないかも、連絡が来てないってこと?」
「残念ながら」
淡々としたマネージャーに、希はガックリと力が抜けた。
このマネージャーは仕事が出来る。のだが、如何せん愛想がない。
大川学院に所属するグループ、Flowerと
「佐武さんの判断は妥当であると、私は思いますがね」
「…どういうこと?」
「以前から打ち合わせの際に様子がおかしかったので。精神的に追い詰められた人間の顔をしていましたから、何かしらはあったのだと思いますよ」
「何かしら…ゆうちゃんが、追い詰められるほど苦しかったこと…?」
「原因については、佐武さんに直接確かめた方がいいと思います。勝手な考察は、余計佐武さんの精神的ストレスになるでしょうから」
確信をついているような発言をするくせに、ひらりと交わされて、希は少々イラつきを覚えた。
しかし、マネージャーの言い分はもっともだ。
希が結奈以外から聞き取りをすれば、誰かに頼ったり甘えたりすることが苦手な結奈の重荷になりかねない。
それよりかは、本人から直接休止の理由を聞いた方が手っ取り早いし、本人の意思も確認できる。休止をせざる負えないほど追い詰められているのなら、確実に負担にならないほうを選んだ方が賢明だ。
「明日、学校あったよね」
「はい。レッスンと、主要五科目のみの日ですね。明日は仕事が入っていないので、通常通りの起床時間で大丈夫です」
「分かったわ。…それじゃ、スタジオに行きましょうか」
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