第38話 幹部が出てきて、異世界へ

 ワーウルフの討伐に成功した蓮人達一向はガサラに向かって歩き出していた。事件はその途中、草原を歩いている時に起きた。

 目の前から4頭の馬が遠くからこちらに向かって駆けてくるのをポチが見つけた。蓮人達は道の端に寄って、通り過ぎるのを待っていたのだが、馬上にいる男4人が剣を持ち上げてこちらを見ているのが見えた。


「もしかして、私達を狙ってませんか……?」


 リーがそんなことをボソッと呟いた。蓮人もその考えに同意である。

その4人組はスピードを緩めることなくこちらに向かってくる。


「避けろ!」


 蓮人のその一言で蓮人達は皆横にジャンプしてかわした。

全員すぐに立ち上がり、それぞれ武器を抜いて戦闘準備に入る。

 リーは馬の機動性をなくし、あわよくば落馬させるために、バブルショットを馬の足元に放った。リーの試みは成功し、4頭全ての馬がコケた。だが、その4人は相当な手練らしく、落馬する前にしっかりと馬上から飛び降りて蓮人達の追撃に備えている。


「あなた達は一旦何者ですか!」


 レノが後ろからそいつらに問いかける。


「俺たちゃ、ガンズローゼズだよ」


「やっぱり、またお前らかよ……」


 蓮人の何気ないその一言にレノは突っこむ。


「蓮人さん、またってなんですかまたって。もしかして襲われるの初めてじゃないんですか? なんで黙ってたんですか?」


 すごい剣幕でまくし立てるレノ。


「まあまあ、後で説明するからさ」


 苦笑いをしながらレノを抑え後ろに下がらせる。

そして蓮人の表情が真剣なものに変わった。


「今はこいつらを片付ける」


 そう言って刀を抜く。

蓮人は守りたいものを守るために、もう迷いはない。全力で戦うだけだ。

リーとポチも杖とナイフを構えてやる気充分である。


「ほう、俺達を片付けるだって? 舐められたもんだな。俺はガンズローゼズの幹部、フェラーだ。昨日までのやつと一緒にしてもらっちゃあ困るぜ?」


 そう言って剣を構える。確かに隙がなく、かなりの使い手のようだ。敵の他の3人も剣を2人と杖が1人それぞれ構えた。


 そして、相手の魔法使いとリーがお互いに魔法を放ったことで戦いの幕が開けた。

 相手が流れるような連携のヒットアンドアウェイで何度も斬りかかってくる。1人が剣を振り下ろしてくるのを蓮人が刀で受け止めると、後ろから剣を横薙ぎにしてくる奴がいる。それをポチが横から飛び蹴りを食らわせて防ぐ。そして残る1人が飛び蹴りをして無防備なポチに斬り掛かろうとしてくるのを、リーがウインドアローやバブルショットを用いてなんとか防ぐ。そのリーの魔法も敵の魔法使いの放つ魔法によって妨害されたりするので、リーの魔力がガンガン減っていく。


 (このままじゃ消耗戦でやられちまう、どうする)


 蓮人は考えながら敵の攻撃をなんとか受け流し、かわして防ぐ。

 そのとき、


「アウォォォォォォォ」


 ポチの方からそんなオオカミの遠吠えのような声が聞こえた。

全員の視線がポチに集中する。

 そこには獣化したポチがいた。ポチは新たな力で敵を速さで圧倒し、重い前足の一撃でダメージを与えていく。敵の魔法使いも素早いポチの動きについて行くことが出来ず、ポチにダメージを与えられないようだ。


 (いまだ!)


「リー!」


 その一言で意図を察したリーはホーリーアローを敵の魔法使いに発射する。敵も何が来るのか勘づいたのか、当たる直前で後ろに避けたが、避けきれずに杖が弾き飛ばされた。

 リーはそれを見逃すわけもなく魔法の撃ち合いの勝負になる。杖が無くても魔法は発動できるとはいえ、威力も魔力の消費量も格段に多くなるので、そんな状態では勝負にならない。すぐにリーのウインドアローやバブルショットに対抗することが出来なくなり、ホーリーアローで胸を射抜かれて絶命する。


 その間に蓮人は無属性魔法を発動させて剣を持つ敵3人に斬りかかっていく。今度は状況が変わり、蓮人が刀を敵に振り下ろす。それを敵が受け止め、その隙をポチが後ろから前足の重い一撃を食らわせてダメージを与えていく。


 そんな攻防が続いていく。


 しかし、このままいけると思ったのか、蓮人は一瞬気が抜けてしまい動きが止まってしまった。


「隙あり!」


 敵がそんな隙を見逃すわけもなく、蓮人の首を狙って剣を横薙ぎにする。


 (や、やばい!)


 なんとか回避しようとするが、間に合わない。

 そんなとき、その敵に火球が命中し、その男が燃え上がり、一瞬で灰になる。


「え?」


 その向かい側には左手を前に突き出したレノの姿があった。


「何してるんですか、気を抜かずに頑張ってください。そんなんだとBランク試験落とします!」


「は、はい!」


 残る2人に向かって蓮人は駆け出す。

 リーも魔法使いを倒して蓮人とポチの援護に戻って来たことでもう1人倒すことができ、残るはフェラー1人となる。


「お、おい。俺はあのガンズローゼズの幹部フェラー様だぜ? なんでこんなクソガキ共に負けてんだ?」


 現状を受け入れられず、剣をだらんと下ろしている。そんなフェラーに蓮人は教えてやる。


「俺はこいつらを守るって決めたんだ。絶対に負けられないんだよ。」


 そう言って蓮人は刀を横に一閃する。そしてフェラーの首が落ち、元々首があった位置から血を吹き出しながら倒れていく。

 そんなフェラーの亡骸に背を向け、蓮人は仲間達の元へ戻る。


 すると、目の前には鬼のような形相でこちらを睨み、指をポキポキと鳴らしているレノがいた。


「さ、説明してもらえますか?」


 この瞬間が蓮人とって異世界へ来て1番怖い瞬間となったのだった。

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