第68話 ピクニック(後編)
公園まで戻ると、そこはアスレチックのように地面がうねっていた。
「これ……何だろうね」
そのあまりにも違う景色に呆然としていると、高台になっている場所でノーマンさんが手を振っているのが見えた。
「ここまでできると思わなくてな。つい調子に乗せてしまった」
楽しそうに坂を滑り下りてきたノーマンさん。彼の話によると、このアスレチックはマスターさんが作ったものらしい。他に遊びに来ている人がいないから、戻ってくる僕たちを驚かせようと作り始めたのだが、途中からは作ること自体が楽しくなっていたと。
「あいつはまだ戻ってないか」
「いや、今戻ったよ」
レジャーシートのところまで戻ると、いつの間にか後ろにアスさんが立っていた。
「脅かしたつもりはないんだけどね」
ノーマンさんが烏になるところを見たのはこれで二度目だ。その怖そうな見た目に反して、彼は随分と怖がりのようだ。アスレチックのあちこちに止まった烏に、アリーさんたちは声を出して笑った。
ちょうどみんなが集まったところで、お昼ご飯を食べることになった。
「あれから魔術はどれくらい上達したの?」
甘いクリームが詰まったパンを頬張っていた僕に、マスターさんが尋ねた。
「エトワールはある程度の形にはなりました。光の魔術も使えるようになったんですが、本当に小さなものしかできなくて」
「使える魔力が少ないとどうしようもないよね。他の魔術は試してみた?」
「あまりやってみてないです。授業でやったものだけ」
授業でも支障が出ないほどには上達していたが日常で使うには不便でしかなく、結局は使わずにいつも通りの日々だった。
「マスターに習ってみては? 楽しいですよ」
カラスの状態のノーマンさんに、アスさんはピーナッツバターを塗ったバゲットを与えていた。烏の状態では本能が勝つのか、素直に食べてくれる様子にアスさんも嬉しそうだ。
「大抵のことはできると思うよ。試しに何か挙げてみて」
「えっと……。それじゃあ、鏡を使って他の場所の景色を映す魔術とか……」
「いいよ。誰か鏡持ってない?」
ちょうどアスさんが持っていた鏡にマスターさんが式を書いて、彼女が映し出したのは僕たちを頭上から見た光景だった。
「魔術を発動させるのは簡単だよ。そのあと景色を動かすのは慣れが必要だけどね」
そのまま鏡を手渡されて、言われるがままに式を書いた。初めて発動させる魔術だったけど、それは簡単に僕たちの姿を映した。
「移動はね、魔力を傾けるとできるんだけど……」
「あっ……」
アリーさんの言葉が終わる前に、鏡の中の景色が空を向いて一回転し、草の中に埋もれてしまった。
「まあ、練習だね」
それからはアスレチックを巡るように鏡の中の景色を移動させたり、遊び回っているスミを探し出したりとめいっぱい体を動かして、日が傾くころにカフェへと戻った。
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