飛び込む決意
第77話 ほんとうの幸のため
僕の先祖。この世界を救った二人の賢者。あの本に記されていた夜の賢者はフミカのことで、光の賢者はヨセフのことだろう。その夜の賢者が残した言葉『雷と水を超えた先、砂漠と森のちょうど狭間に世界を救う
雷が飛び回る部屋と、本来は水の中に埋もれている場所。その先の開けた空間は、向いている方角で世界が違った。もしそれが正しいのだとすれば、僕が知っている理由は何だろう。まるでジグソーパズルを埋めていくように、全てが僕の手元に集まっているのは気のせいではないはずだ。
それを確かめるために、僕はその道を辿った。二年も前のことになるが、記憶ははっきりと残っている。それに従って正しい道を選んでいるはずなのに、どうしてかその場所まで辿り着くことができず、いつも秘密基地へと繋がってしまう。それも毎回違う廊下の違う扉からで、その原因など見当もつかない。
その日は随分と早くに秘密基地への扉が開いた。しかし今日もダメだったかと、気を落とすにはまだ早いらしい。秘密基地は毎度の如く室内に溢れる物の配置を変えていたが、今回はすっかり片付けられて、足の踏み場もなかった床は綺麗に拭き上げられていた。
「きゅっ!」
障害物が無くなった部屋をスミが走る。部屋の奥の普段は本で埋まっている棚の前に座ったスミは、その一点を見つめていた。空虚な中の一冊の本。
『The Night of the Milky Way Train』
この部屋に存在する唯一のもの。まだラヴィボンドさんと出会って間もない頃、彼がおすすめしてくれた本。あの時の感覚がよみがえるように、特別な繋がりをこの本から感じた。
お母さんは病気でお父さんは仕事で長い間家に帰っていない主人公と、いじめを受けていた主人公の唯一の友達。物語の主体はお祭りの日の不思議な出来事。二人が乗っていた銀河を走る列車での不思議な出来事だった。
銀河の列車で交わされる『ほんとうの
僕は本をゆっくりと閉じた。静かな室内に雨音だけが響いている。
ラヴィボンドさんに紹介されて、初めて読んだとき僕はこの主人公に似ていると思った。世界に嫌われ家の中でも孤独なまま。ただ笑顔で気丈に振舞って、ただ生きることだけを考えた。そんな主人公の友達が考えた『ほんとうの幸』は、人のために生きること。この場合、それはいったい誰だったのだろうか。なぜ銀河の列車で旅をしたのか。どうして主人公に生きる意義を話したのか。
この世界を救った二人の賢者。フミカは生き残って世界に恨まれるようになった。その一方でヨセフは世界の未来のために命を落とした。それはまさに、人のために生きるということ。
彼は『ほんとうの幸』を知っていたのだろうか。知っていたからあの行動ができたのだろうか。それを知っていれば、誰かを残しても人のために生きることを選ぶことができるのだろうか。残された人が、どんな思いをするか知っていたとしても。
僕の予想では、これから自分は二人の賢者と同じ立場に立つことになる。もし二人と同じことをすれば、僕は死んでしまうのではないだろうか。もし死んでしまったら、残されるのは――。
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