順番

青山えむ

第1話 せんせい

 最近、いつも先生の隣にいるあの子。この春からこの会社の事務に配属された子。

 おとなしくて一途で(情報入手済み)で、先生の事が好きなのが一目瞭然だ。

 

 私の方が、先生の事を知っている。

 先生は最後には、私の所に来るから。


    〇


 先生と私の関係は、二年になる。

 私と先生の勤める会社は、某大手家電会社の東北支社。ここ東北支社では、主に小型家電を取り扱っている。

 広大な敷地に、会社が二棟ある。私は第一棟の、製品開発課に配属されている。

 先生と呼ばれている伊野尾氏は、会社の頭脳となる部門でシステムエンジニアをやっている。


 伊野尾氏はエンジニアの仕事の他に、社内の人材育成の為、自己啓発や専門知識の研修を開いている。故に先生と呼ばれている。

「先生というか、講師ですが」と、本人は云っている。


 先生は端正な顔立ちの上、自他ともに認めるフェミニストだ。故にもてる。

 先生は私の他にも、数人の女子社員と関係を持っている。

 誰と関係を持っているかは明かさないけれど、「もしかして〇〇さんと?」と聞いた時、正解ならば時々教えてくれる。


    〇


 今日は仕事が早く終わったので、先生の所に遊びに来た。

 研修の時に使う部屋が、ほぼ先生の持ち部屋になっている。

 先生は、色々な本を持っている。何か面白い本があるだろうかと、私はしゃがんで本棚を見ていた。


「伊野尾先生、お疲れ様です」女性の声がした。

 丁度私は、机の陰に隠れて見えない位置にいたので、このまま隠れていようと思った。


「やぁ、柿原さん、いらっしゃい」先生がいつものように、気さくに応答している。


 二人は少し世間話をしていた。この人、遊びに来たのかな? もしそうなら長くは隠れていられないな。

 そう思い、タイミングを見計らっていた。

 だんだん、女性の話し方がしどろもどろになってきた。どうしたんだろう。このまま此処にいるのか、立ち去るのか、早く決めてほしい。


 私は少し、疲れてきた。そう思った瞬間、女性は「相談したい事があるんですが……この後、時間ありますか」

 なんと先生を、誘っていた。先生は、そういった誘いは好まない。会社の人に見られると厄介だから。私とも、外で会う時は偶然を装って会う。


 けれども先生は、その人の誘いを受けていた。今日は無理なので、来週にしようと。どうしてだろう。多分、恐る恐る誘いの言葉を絞り出したのが、放っておけなかったのだろう。

 少し、もやもやした。けれど先生は、あの人の事を、好きにはならないはずだという妙な自信があった。


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