6/12の召喚者

@kenkou5466

第1話 人生の幕引きと新たな世界

 家に引きこもったのはいつからだっただろう。


 いや、覚えてる・・・体を壊してからだ。

 ある日、仕事中に自分の体から力が抜けていくのを感じたらそのまま糸が切れたように倒れたんだ。


 その後、病院に運ばれて精密検査の結果、ストレスが原因の脳神経の病気かもしれないと診断された。


 かもしれないが付いたのは、人の脳の事については現代医学でも完全には理解できてはいないらしいからだ。


 この病気は、いろいろな病名で呼ばれた。

 さまざまな検査をいろんな病院で受けたが病名が一致したことはなかった。

 まぁ、簡単に言えば原因不明だったんだろう。


 それならそうと言ってくれれば良いのに、医者は誰もその言葉は言わなかった。

 それが何故かは今になってもわからない。医者のプライドか何かが邪魔をしたのか…。

 俺は毎日のように病名にあわせた薬を飲んだ。

 しかしどんな薬を飲んでも体が回復する事はなかった。


 病気の事を会社に伝えてから一年で働いていた会社からは解雇された。

 仕方がないと思った。一応少しは動くこともできるのだが病気が判明する前よりは仕事ができないのだ。

 お荷物をいつまでも抱えてはおけないのだろう、病気の事は触れられずに自主退職を促され辞めた。

 ああ、解雇じゃないのか…、自主退職だったわ。


 もしかしたら会社の仕事でのストレスが原因かもしれないのにな…。


 まぁ、そんなこともあって仕事を辞めた俺は新しい仕事に就かなければいけなくなったわけだけども。

 病名がわからない、原因不明の病持ちが働ける所は普通の会社にはなく、働けそうな所が見つかったとしても、今度は働ける時間というところで躓いて落ちてしまっていた。


 働ける時間に関しては嘘をいえば働けたかも知れないのだが、後になって困るのは結局自分だと思いすることはなかった。


「はは…、運が悪かったなぁ…」


 動くことが困難になり、働けなくなって、自分にはもう出来ることは何にもないとわかった。

 外に出るのもつらくって、いっても意味もない病院に行く事も止めて、俺は引き籠もった。


 そんなある日、引きこもりを初めて二年くらいだったかな?

 ずっと家から出ることのなかった俺が何の気なしに、本当になんとなく、久しぶりに外に出てみようと思い立ち目的もないのに外をぶらついていたのだが…。



 今、目の前に子供と…多分その母親だろう人がいる。


 俺を中心に人が集まってきている…、そりゃこんな事が起こったら見に来るわな…。


 まさか、久しぶりに出歩いていた時に、襲われかけている親子を発見するなんてなぁ…。

 んで庇って刺される確率ってどのくらいよ…。


 俺が庇って刺された時に助けた母親が叫んだので刺した相手は逃げていったが…、叫んでくれなかったら危なかったかもな…。

 

 周りからも、最初は俺を心配している声とか聞こえてきてたんだが段々と聞こえてこなくなってきたな…。

 視界も掠れてきてるし…、それにさっきまでは感じられていた痛みも感じなくなってきてる…。


「…まぁ…、いいか…」


 どうせ生きていて意味がなかった。

 何にもできないし、本当に意味もなく…ただ無意味に生きていただけだったんだ…。


 そろそろ貯金もなくなりそうだったし…。


 そんな塵みたいな俺が、こうして最後に人の役に立てて死ねるなんて…なんて幸せなんだろうか。


「…ありがとぅ……」


 何かが聞こえた気がした……、まぁいいか…。

 …段々と思考も鈍くなってきて…できなくなってきてる……。


 あぁ…死ぬ前に……病気になってから、ずっと何にもできなかった俺が…。

 人のために何かをできたなんて…。


 よかった、こんな幸せな思いで逝けるなんて……。


 悔いはない……。

 ……俺は………。




----------------



 ……………。


 ………何か聞こえる?

 …あれ?振動も感じるぞ……。

 俺は床で寝ているのか?…ひんやりした感触を感じとれた。


 なんか周りが騒がしいな。

 そんなに刺された俺が珍しいのか…?…まぁそりゃそうだろうな、そんな頻繁に見られる光景ではないはずだ。


 ただこんな光景を見てても大丈夫なのか?

 普通の人は刺されて血に染まった人間なんて見たら軽くトラウマを覚えてしまうぞ?


 あれ?…てかなんかおかしくないか…?

 騒がしさも聞き取れてるし感触も感じ取れてる。


 さっきまで俺は多分血を流しすぎてたんだろうけど、感覚がなくなっていたはずだ。


 アレ?そういえば意識もハッキリしているし、刺された所も痛くなくなってるぞ!?


 体も……あ、うん問題なく動かせそうだわ。

 取り敢えず刺されたと思う箇所を恐る恐る触ってみたけどなんともないわ。


 …そうだな……、倒れてるのもなんだしとりあえず座ろうか。


 ん?体を少し動かした時になんか周りが少しざわめいたぞ?なんで?座ったから?


 ……試しに目を開けてみるか?

 なんか目を開けるのが少し怖くて開けてなかったんだけど…。


 うん、開けてみよう!開けなきゃ何にもわかんねぇわ。

 …ただなんかやっぱり怖いからゆっくりと……。


「あ、目が覚めましたか!よかった!なんともないですか?」

「うぉ!?、え?、あ、はい、…ん?、えぇ、大丈夫です、何ともないと思います、…え?」


 ビックリした!

 目を開けてみたら座ってる俺を覗き込むように見ている可愛らしい女の子がいた!

 高校生?…いや…大学生くらいかな?

 見慣れない服を着ている、なんかアニキとか漫画とかで見る感じの修道服みたいだな……コスプレ?


 周りも見てみるとなんか騎士みたいなのから貴族っぽいのまでいろんなのがいる!

 金髪だ!銀髪だ!いろんな髪色の人たちがいる!カツラかな?けど似合ってるな……?外人さんかな?

 え?何これ、何この状況…此処は……コスプレ会場?


 てか俺がいるところを中心に周りを円のように人で囲んでいるみたいだ。なんで?


 キョロキョロと周りを見てる俺を、なんか周りの人たちジロジロと見ながら喋っているのが見える。

 ガヤガヤと騒がしかったのはこれか…。

 てかマジで何なの、どうなってんの?俺はどうしてこんな所にいるの?此処は何処?傷は何処?刺されたよね俺?


 ハッ……!夢?これ夢はなのか!?


「あの…、本当に大丈夫ですか?」


 あ、目の前にいたさっきの可愛い子が心配そうに俺を見ながら話かけてきてる…。

 う~ん…まぁ直接聞いてみるか! なんか知ってるだろ。


「えっと……、あのさ…ちょっと聞いてみるんだけど…此所は…どこ?なんで俺はここで寝てたの?…なんで俺囲まれてるの?俺ケガしてなかった?」

「は、はい!…えっと、一つ一つ質問に答えさせていただきますね…。

まず此所はオーフィア王国の首都になります。貴方様がこの場所で倒れられていたのは私どもが行った召喚の儀式に成功したからです。囲まれてるのは……すいません。見学者と関係者が貴方様を見ようと集まった結果ですね…。えっと、あとは……あっ!お怪我ですか?これはよくわかりません…、見た限りではお怪我をなさっているようには見えないですね…」


 ちょっと聞いてみようと思っただけなのに一つ喋ったら一気に聞いてしまった。

 そしてこの子も俺の質問を一気にだけど丁寧に返してくれたな、できる子だわ、すげぇ。


 …ん?普段聞かないような単語がいっぱいあったぞ。



「えっと…召喚って何?、それにオーフィアって聞いたこともないんだけど…」

「はい、ええっと…まずはどこから…」

「おい!次の召喚者がそろそろ来る、そこで話をしてないで場所を移して説明して差し上げろ!」

「っひ…!は、はい、すいません!あ、あのっ!少し移動してもらってもよろしいでしょうか?」

「あ、はい、それは別にいいけど…っと、よっといしょっ…」


 怒ってたのはこの子の上司の人かな?いきなり怒鳴るから俺も、ちょっとビックリしたわ。

 取り敢えずこの子についていけば良さげかな…。

 あ、ここ段差になってる。おお、さっきいたときは気がつかなかったけど俺がいた場所って台座になってたんだな。

 それに降りた時に気がついたけど、薄く魔方陣みたいなのも見えるわ。


 んで人垣の円の外側に連れられてでたけど何?

 まだ召喚されるのかな?召喚されるんなら、ちょっと見てみたいんだけどなぁ。

 今戻ったらこの子が怒られちゃうかもな…。まぁいいか、後で見れたら見させてもらおう。


「ここなら大丈夫そうですね…。えっと何だっけ?…あぁ!召喚とこの国についてでしたね、すいません。

召喚については…えぇと、今回のは別の世界から此方の世界に呼び出すためのモノですね。

先ほどの陣から貴方様を召喚させていただきました。

っとと、申し訳ありません。そちらの都合も無視して呼び出してしまって、謝らせてください。

それとオーフィア王国について聞いたことがないのは、仕方がないと思います。先ほども少し話にでましたが、貴方はこの世界の人間ではないので」

「え…この世界?」

「はい…驚かれるのも無理はありませんね。急にこんな話聞かされてもすぐに理解するのも難しいかと思います。ですがまずは説明させてくださいませ!」


 …おぉう、すげぇ覚悟決めた顔して話してる…。


 てか覚悟決めた顔してるとこ悪いけど、大体わかってきたわ。

 これはなんかよく小説とかであるアレだろ?見慣れれない服装に俺に言った貴方様はこの世界の住人ではないってので予想はついたわ。


「貴方にはこの世界を救っていただきたいと思っております」


 はい、きた!異世界転生的なテンプレ台詞だ。


 俺、死んだと思ったら、異世界にきちゃったわ。


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