眩い(まばゆい)
賢人と翡翠は病院の中の不自然なほどにお洒落なカフェで、賢人はアイスカフェを、翡翠はアイスココアを飲んでいた。
出させて、というのが翡翠のせめてもの常識的な部分なのか、非常識というか病気だから仕方ないのだろうと思っていた賢人にとってそれは意外だった。
賢人は改めて翡翠の顔の造詣を観察した。それは何度見ても特筆するほどに美を感じさせるものでもなく、肌艶が特別に良く滑らかな訳でもなく、ただ賢人は翡翠の左目の眼帯の下の正方形のガーゼの面積の肌の色と、右手首の包帯に隠された細い腕の色の白さとを是非とも見てみたいと思った。
もしその白さが透き通るほどでまばゆいほどのものだったならば、それだけで自分の恋人たりうるだろうとそう賢人は考え始めていた。
「ねえ、
「下の名前で呼んでくれないか。名字は嫌だ」
「そうだよね、ははっ。ギャクシンなんてね。先祖が何か神様の逆鱗に触れるようなことでもしたの?」
「知らない。それよりも、翡翠」
「ははっ。下の名前で呼び捨てだ」
「ダメかい?」
「いいよ。不思議な縁だから」
翡翠が大型車両の通行が多い幹線道路に飛び出す直前に自ら急停止した後、精神科部長の診察室に二人で行くと、いつものことだという感じであっさりとこう返された。「二度とするなよ」
「じゃあ、翡翠」
「賢人、彼女は?」
「いきなりかい。しかも俺の質問無視なのか」
「男と女の話なんてこんなぐらいしかないでしょ」
「そうかもしれない。だけど他にも話はある」
「ははは。賢人だって。私には彼氏いないのかって訊いてくれないの?」
「いるの?」
「いない。ははっ」
「天照皇大神宮ってさっき俺に言っただろ」
「あ、あの話? うんうん、言った言った。だって賢人が見てた写真ってそうじゃん」
「天照大神、って言うのならまだ分かる。でも、天照皇大神宮って呼ばわるのはプロじゃないのか?」
「ねえ、賢人は? うつ病?」
「・・・ああ、そうだよ」
「私はねえ、分類不能なんだ」
「分類不能?」
「そ。症状は複合的で、うつ病ともまた違う。それに症状とかステレオタイプで対処できるわけないからさ。指揮命令系統を単純化するならばうつ病の症状が現れてた方が統一感があっていいでしょ?」
「ゴメン。翡翠の言っている言葉は日本語としては分かるけど、意味がまったく理解できない」
「天照皇大神宮。の話だったね。私はねえ、見ちゃったんだ」
「? 何を?」
「神さまを」
賢人は翡翠の傍からできるだけ遠くに離れた方がよかったのではないかと思った。
けれどももう遅かった。
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