・・・

「これもみんなあなた方のせいなんですよ。占い師さんでしたっけ。せっかく儀式の用意が完成して、全ての動物が揃ったところでなんとも厄介なあなたたちが首を突っ込んできたわけでしてね、あなた方が悪いんです。他人の家の事情に土足で入り込んできたんですから。でもよかった。女二人くらいなんてことはありません」

「っ……!!」

「おい、俺のこと忘れんじゃねえよ」


 小屋の壁がドンと音を立てて揺れた。なんとも薄い作り。裏手に陣取った櫻井が壁を叩いている。

「忘れてなどいません。彼女は犬を逃がしてしまったんですから。許されることじゃありませんよ。それに、朝倉さんならこの二人を縛り上げられるとふんだのに、あなたはまたミスをした。しっかりこの二人を縛ってくれていたら、あとで簡単に殺せたものを。まったく。計画が台無しです。櫻井さんはそこで彼女たちが殺される声でも聞いていてください。そのあと、向井君もあなたも殺しますから」

「向井さんも櫻井さんも殺す?」

「はい」

 黄色い歯を見せて笑い、ナイフを握りしめるとタンと地を蹴り砂ぼこりを舞いあげて距離をつめた。


 素早い動きに息を飲んだ。瞬時、ナイフは私の腹をかすめていた。間一髪、ジャッキー仕込みのくの字逃げが発揮された。つまり、腰を後ろに引き体を字のごとく『く』の字に曲げて避けるわけだが、そのおかげで刺されることはなかった。しかし、踏ん張った足は怖さに震えていた。


「あなた自分が何してるかわかってるの! てか、その足」

「ええ。邪魔者を消そうとしているだけです」

 器用にナイフを持ち変え、またしても私の腹を目掛けて懐に入り込んだ。その素早さに完璧には逃げ切れず、ナイフが脇腹をかすめた。甲乙は足を引きずっているのに、早い。

 痛みと苦痛と怒りに震え、血が流れる腹をおさえて地に膝をついた。


「けっこう深く入ったでしょう? 出血多量で死ぬまでゆっくり苦しんでください」と、赤く光るナイフを舐めるように眺めながら、目は最大限に見開かれていた。

 このままじゃ殺される。

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