「はい、ちょっと失礼するよ。って、なんて無用心なんだここは」

 誰もいない事務所に声が響いた。声の主はしばらく返答を待ってみるが、応答はない。

「誰もいないというのは失敬な話だな。この僕がこうして出向いてやっているというのに。そうかい、それでは僕は失礼して……」

 言うや否や、事務所を後にした男は事務所の扉に備え付けられている懐中電灯をつかみ、夜、夜中の動物園の中へと姿を消した。

「さあて、この暗闇で果たしてどんな動物が拝めるんだろうか。楽しみだ」

 真っ暗な動物園の中には懐中電灯の光だけが細く細く楽しむように延びていた。やがてその光は右や左に折れてふとその気配を消した。

 直後、動物の鳴き声が辺りに響き渡った。

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