三


「あの、これ、つまらないものですが」

 おずおずと差し出してきた紙袋の中には四角い箱。睨むように見ているだけで受け取らない白子に、どうしたらいいものかと視線を湖と白子に泳がせている。


「お気遣いいただきまして恐縮です。それでは遠慮なくいただきます」

 湖は紙袋を頂き、頭を下げて一度台所へ引き返す。台所に袋を置いて中身を確認したら、『にこにこ動物園クッキー』と書かれていた。となると、あの男の人は動物園からやってきたというわけだ。自分のところのクッキーを持ってくるなんて、本当に自分の職場が好きなんだろう。そう思って後ろの成分表のところを何気なしに見たらなんてことない、超有名フランス菓子屋の名前が書いてあった。名前こそ聞いたことあれど高いお店なのでド庶民な湖には到底手が出せない代物だった。


 ストックのコーヒーを確認した。

 ホットチョコレートがあるが、ここはラテだろう。

 白子にはミルク、客人と己はラテで決まりだ。


「あのう、あなたがお告げカッフェのオーナーさんの紹介の方なんでしょうか」

相変わらずおずおずする客人は目の前で腕組をしながら足を組み、太ももをにゅっと出している白子を見ないようにして呟いた。

「カッフェって何よ。カフェよ」

「すみません」

声を震わせながらポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭き始めた。

「そもそもオーナーって誰」

 ふふんと鼻を鳴らし得意げに顎を上げた白子は強気そのものだ。

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