六


 高宮の自宅の玄関先に着いたとき、湖は何かがおかしいと感じた。周りの空気なのか、この土地のせいなのかは分からないけれど、第六感が『おかしい』と感じさせていた。

 外から見ても分かる。家の中は暗い。カーテンもないし人が住んでいる気配も感じられなかった。

 家が生きていない。しんと静まりかえっていて、ずっと人の出入りのない気配が感じ取れる。庭は手入れもされていない状態のままだ。


「もしかしたら……留守なんでしょうか」

 外から家の中を覗き込みながら後ろに立っている高宮に湖が問うたが、彼女からは何の返事もない。

「高宮さん?」

 振り返り彼女を見たが、その顔に生気はなかった。

「…………なんです」

「はい? 今なんて?」

「いつも……こうなんです」

「いつもこう? ってどういうことなんでしょうか」

「……私も知らないうちに家はこうなっていて、入れないんです。何回も入ろうとしたけどそのたびにどこかに飛ばされる」

「入れない? 飛ばされる? だってここに住んでらっしゃるんですよね?」

「そうです。でも、いつもここで終わるんです。ここまで帰ってきて、この家に入ろうと門に触れた瞬間、そのあとの記憶が無くなるんです。それで、気付いたらまたここに立っていて、ここからまた一歩も動けない状態が続くんです」

「動けないって、いったいどういうことなんですか?」

「私一人じゃだめだ。ダレカがいないと。そう思いついたのはつい最近のことでした」

 何を言っているのか意味が分からないが、ここは彼女の自宅で、この家の中に置き忘れたという携帯電話があるはずで、それを取りに来たのに中に入れないのはどう考えてもおかしい。

 もう一度背のびをして家の中を覗きこんだ。やはり家の中に人の気配は感じられなかった。

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