ずっしりとした雲から小雨がしとしとと地面へ突き刺さる午後の四時。

 仕事場の円卓を囲んで座るのは、出雲大社と湖、それと高宮。その辺に寝っ転がっている猫を除いたら三人だけであった。

 こんな新宿の地下、いくら小雨とはいえ、浸水する可能性がないかどうか心配している間に雨はいよいよ本降りとなってきた。


 三人とも無言でまるで通夜。

 出雲大社に至ってはいつもと変わらずコーヒーをすすっていて、高宮はそれを瞬きもせずに凝視している。


 湖は己の足元で空気を読まずに遊びまくるノリコとその母猫を交互に見て、この場にいるってことをひとまず忘れてみようと努力した。いまだに怖さを引きずっているのである。

 重たい空気を破ったのは、


「それで、何か分かったんでしょうか」

 高宮の我慢しきれず発した言葉にはあからさまにトゲがあった。


「その前にね、ひとつ確認しておきたいことがあるんだけどいいかな」

 コーヒーカップを音を立てずに優雅に置いて髪をかきあげた出雲大社は、


「君さあ、霊って存在すると思う?」

 刀で竹を切るようにスパッと、唐突なことを言ってこれみよがしに笑みを浮かべた。

「そんなものいないと思います。出雲さんはいると思うんですか」

一瞬面食らった顔をした高宮だったが、直後、きっぱりと言い切った。そして言い返した。


「僕? そうだね、いると思うよ。実際にあっちこっちにいるよ」

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