・・・

「君! 痛いじゃないか! いきなり何をするんだ! 僕が軽いからペインって跳ね返さる程度で済んだけど、そこの朝倉君だったら肉厚な腕や背中にアザができたところたぞ! 気をつけたまえ! 暴力は犯罪だよ!」

 だんだんこの出雲大社という男が読めてきた湖は、自分の読みが確実になろうとしていることに気づき、軽くディスられはしたけれど、ここはぐっと堪えた。

「早く来いよおまえは!」

 矛先を変えずに花井にロックオンしている田中は、今度は花井の肩を鷲掴みにし、力任せに自分の方へと引いた。

 まだ生々しい傷の上を掴まれ、痛さにギャッと悲鳴をあげた花井は、田中に首を締められるかたちとなった。

「どうだ、逆らうとこうなんだよ、苦しいだろ、覚えとけよしっかり」

 人目をも気にせずに首を絞める田中の手をかきむしり、苦しさにもがく。


「はい、いいよ朝倉くん出番だ」

 お姉さん座りで床に崩れている出雲大社はにたにた笑いながら田中と花井のことを見ている。そんな体制のまま湖に命令を出す。


 湖は指の骨を鳴らすと、「はい」と腹から気合の入った返事をする。

首を締められている花井の後ろにすっと入り、直後、田中の顔面にパンチを入れた。

突然のパンチは完璧に田中を捉えた。田中の力が緩んだ瞬間に花井を田中の手から引き剥がし、ようやく立ち上がり両手を最大限に広げて待ち構える出雲大社に放る。


 脱力した花井をキャッチしきれず、またしても布団の役割のように下敷きになった。

 下敷きになってもがいている出雲大社のことを切なく思い顔、を横に背けるが、それどころではない。

 体勢を戻しつつある田中の股間に思いきり蹴りを食らわし、両手で股間を押さえている間に回し蹴りを見舞う。


 でかい木が倒れるように前倒しになった田中の手足を素早い動作で、ジャッキーのビデオで何回も確認して練習した縛り方で縛り、その辺に転がした。

ここまではもちろんビデオ学習の通りだ。

見様見真似で覚えたことが発揮できたなんて湖としては清々しいことこの上ない。

 両手をぱんぱんと打つ。

「ブラボー」

 出雲大社は下敷きになったまま力なく手を叩きながら掠れた声をあげた。

 何がブラボーだよこの野郎と思っていると、「すまんが彼女をどかしてくれ。重くて起き上がれん」とひどく辛そうな声で訴えてきた。

花井は気絶しているので全力で出雲大社にのしかかっていた。

 人が脱力するとそれはもう重すぎて話にならない。と、。ジャッキーも言っていたことを思い出し、仕方なく花井をどかしてやった。

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