・・
湖は手を止めて入り口へ小走りに向かう。
確か、仕事の中にはここへ来たお客さんをもてなすことも入っていたはずだ。
「ええと、あの、どちらさまでしょうか」
薄く開いている入り口を手で引いて開けた湖はそこに立っている人物に声をかけた。
「すみません。ここって、お告げカフェで間違いないでしょうか」
か細い声。その客人は入り口の後ろに隠れ、入ってくるのを躊躇っている風であった。
湖は入り口を全開に内側へ引いて開ける。
そこには女性が一人。
白地に緑のチェック柄のワンピースに白いカーディガン。
体のサイズよりもかなり大きめのものを着ていた。
足元はクリーム色の靴。肩までの栗色の髪の毛。
なぜかおどおどしているのが気になったが、湖は営業スマイルを貼り付けた。
「はい、そうです。ここがお告げカフェです。さ、どうぞお入りください」
何のためにここに来たのか確認しなければならない。
「黒猫を追ってここへ来たんですけど、どうしていいのか分からなくて」
なるほど。この人は黒猫に会ったんだ。その猫の後を追って来たらここへたどり着いたわけだ。
一つ頷き、中へ招き入れるのにドアを大きく開けたが、「あなたは?」と不思議がられて中に入ろうとしない。逆に一歩後ずさられてしまった。
「私は朝倉といいます。ここでバイ……ええと、働いているものです。今……あー、その、なんだ、せ、先生? をお呼びしますので、どうぞお入りください」
占い師のことを『占い師』と言うべきか、『出雲さん』と言うべきか迷った湖は、結果、この場合一番しっくりくるのは『先生』だろうという答えに行き着き、『先生』と呼ぶことに決めた。
女性はようやくうっすら笑い、「三菱と申します。どうぞよろしくお願いします」と名乗った。
「お飲み物をお持ちしますのでちょっとお待ちくださいね」
湖は三菱と名乗った女をテーブルにつかせ、コーヒーを淹れるためにキッチンへ行くと、そこにはすでに出雲大社がいて、サンドイッチ片手にニコニコと笑っていた。
さっき見た時とはまるで別人だ。
昨日会った時のようにきれいに髪を整え、顔もきりっとしている。身に着けているものは高そうな黒いスーツ。
なぜスーツなんだろうと訝しみ、首をかしげる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます