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まさかのこいつが件の占い師? これが?
湖は目の前にいる占い師とは到底思えないほど遠くに位置する男に向かい、
「まさかの占い師さんてもしかしてあなたのことですか?」
「俺」
「見つかるの早っ!」
「時間て貴重だからね、さっさと出てきてあげたんだから盛大に喜びたまえ」
開いた口が塞がらなかった。なんたる上から占い師。思っていた占い師とは真逆に位置していた。占い師と聞くと、神秘的でベールとか被ってて厳かな感じがするものだ。しかし、湖の目の前にいる占い師(と名乗る)この男は、肩に子猫を乗せて腕に母猫を抱っこしている。
「こっちだから。着いてきて」
一言そう言ってさっさと先を歩いていく。
見た目はふつうのイケてるお兄さんだ。ホストか? ホストの営業か? 私なんぞにそんな金が払えるわけがない。騙すなら他を当たってほしい。
もしかしたら本当に騙されているのかもしれない。だとしたら最初から私の名前を知っているはずはない。まだ名乗ってもいないのだ。
たしか、黒猫に着いていけとバーで話している女子たちは言っていた。
前を歩く男は背から母猫が湖の方を睨んでいた。このままどこへ行くのかもわからない。
唾をのむ。
「すみません、ひとつ聞きたいんですけど、黒猫はどこにいるんでしょうか?」
「黒猫?」
男は湖のほうは見もせずに、
「ああ、黒猫ね、まだ見えてない? じゃそのままで大丈夫」
と、よくわからないことを言った。
湖はその辺に黒猫がいるのかと見回してみたが、猫らしき物体はどこにもいない。
そうこうしているうちに目的地に着いた。
不思議なことに、ここへ辿り着くまでには誰にも会わなかった。
さきほどもこの道を通ったが、その時にはこんなところは無かったように思う。
地下にあるその店は、今湖の目の前に見えている。階段は薄暗く狭く、そして長い。
猫しか通れないだろうといった雰囲気ではあったけれど、お構いなしに男は降りていく。置いていかれないように湖も体を肩を小さく丸めて続く。
階段を降りていくにつれ、徐々に辺りがオレンジ色のライトで照らし出されてきた。目も慣れてきたころには目の前に巨大な鉄の扉が現れた。
まさかのこの中で拷問でもされるんじゃなかろうか。
もしかしたら監禁されたり……挙げ句売り飛ばされたりしたらどうしよう。
こんな新宿の路地裏の地下、しかもこんなに重そうな鉄の扉だったら音漏れも気にならないハイクオリティーな音吸システム構造で、もちろん臭いだってブラックホール的吸収力・吸引力により一瞬で異次元に飛ばされるんだろう。
確率ほぼほぼ九十八パーで見つからない。
ごくりと唾を飲んだ。
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