いやいやまだ探し始めて十分も経っていない。もうひとつ先の路地も確認してみようと歩き出した先で、足元に「にゃあ」と柔らかい何かにすり寄られた。

 目を落とすとそこには白と黒のぶち模様の子猫。尻尾の先が揺れている。 しゃがんで喉元を撫でてやると、ごろごろと鳴らしてころんと地面に寝っ転がった。

「かわいい。超絶癒されるわあ。モフモフだし」

 お腹をモフモフしていると、すぐそこに気配を感じ、視線をやれば手の届かない距離でこっちを凝視している母猫とおぼしき大人な猫と目があった。でも黒猫ではない。

「だいじょぶだよ、おいで。ママさんかな?」  手を差出し、「おいで」と呼ぶ。

 警戒心が強いのか、なかなか来てくれない。その間にも子猫は懐き始め、手を甘噛みしてくる。抱っこしろとせがんでくる。

 母猫はやはり子猫が心配なのか、警戒心は外さずに戦闘態勢で寄ってきたけれど、子猫が安心しきっているのを確認するとその警戒心を外してくれて近づいてきた。

 にわかに喉を触らせてくれて、目を細めてごろごろ音を立てている。 「うわ、やっぱ親子。そっくりでかわいー。笑えるー。萌の極みだね。お名前なんていうのかなあ」

「うん。笑えるのは君のほうですね、朝倉さん」

 突如呼ばれる自分の名前にドキリとし、声のした方を見ると、いつの間にかそこには人が立っていて、太陽を背中に背負いながら見下ろしていた。

 ダメージデニムに白いTシャツにスニーカーというラフな格好の男が一人。そこそこ筋肉質で某アイドルグループに所属してそうないでたちだった。

 でもテゴシユーヤには似つかない。

 私の知り合いにこんな人いない。と、湖は小首を傾げて考える。

「まさかノリコがそんなすぐに懐くなんて」 「ノリコ? この猫ですか? えっとすみません、私は、」

 急いで立ち上がる。

「ああ、知ってるよ。朝倉湖さん二十八歳独身。仕事は辞めたばかりで無職。てかクビになったんだっけ。でしょ」

「個人情報の漏洩!」

「ちょっと勘弁してくださいよ。君が俺を探してたんでしょう」

 男は整っている顔に綺麗な笑みを浮かべた。

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