天使のひとかけら
第184話 12月13日、14日 誕生と別れ
12月13日。
真子は無事、帝王切開で男の子を出産した。すぐに新生児集中治療室へ運ばれた。でも真子は全く不安がらなかった。2人が私たちを守ってくれたから何の心配もいらない。様子を見に来た園長と直子に、そう答えた。
「きっと健康で元気で、優しい子になるよ。2人が自分自身の力をちょっとずつあの子に分けてくれた気がするの」
直子も園長もそんな気がしていた。2人がこの世界にずっといられなかった分、新しく生まれた命に「人生を楽しむ」役割を託したのではないか。
透明な箱に入った小さな人間を、直子と園長は見ていた。
「こんなこというのも変だけど、どうしてもあの子たちの生まれ変わりに見えちゃってしょうがないんです」
直子がぽつりと園長にこぼす。
「わかってるんです。全然別の人格だってことくらい。だけどどうしてだろう。重ねちゃうんですよね」
園長は頷いた。
「私も同じよ。あの子達がこの子の体を借りてまたここに来てくれたような気がしてね。真子ちゃんの話を聞く限りじゃ違うんだけど、やっぱり2人とまだ別れたくないから、勝手にそんな風に考えちゃうのね」
正直まだ直哉も真一ももう居ないという実感がわいてこない。新生児に彼らの姿を重ねることで、居なくなってしまった穴を埋め合わせようと脳が働いているんだろうか。
「帰りましょうか。葬儀の件もあるし」
「そうですね……」
ああ、そうだ。真一は死んだのだっけ。明日葬儀だった。こうして生まれる命を喜ぶ今日がある一方、去っていく命との別れを悲しむ明日が来る。不思議な感覚だった。
――――――
12月14日。
真一の葬儀が執り行われた。たくさんの先生や友達が来てくれた。美穂や優二は、事情を知る限られた友達に何があったのか、全てを話した。
こんな非現実的で、まるで小説のような作り話ととられてもおかしくない話。でもみんな信じてくれた。そして誰しも口々に話してくれてありがとうと礼を言った。泣きながら手を合わせ、お別れをしてくれた。
ずっと外に出られなかった小島も来てくれたし、こっそりではあるが石田の母親も来た。菊本も黒崎からの伝言を持ってきてくれた。
直哉のことも知っている者には別の事情も話した。死亡と認められない状況であるため、なんとか手続き上「親元へ帰った」ことにできないか模索しているとのことだ。なのでこんなお願いをして申し訳ないが、あまり公に彼が死んだことは言わずにいて欲しいと伝えた。
わんわん泣く安藤をなぐさめながら飯田や吉岡も一緒に聞いていた。吉岡は友達を失うのは2度目だが、不思議なことを口にした。
「藤沢君も杉村君も志保ちゃんも、いなくなっちゃって悲しいんだけどさ、なんだろうな、あの3人、神様からのさあ……メッセンジャーか何かなのかな。そう考えたらなんか、ああそういうもんなのかな、って腑に落ちたっていうか……。悲しいのにさ、居なくなっても納得しちゃってるんだよね。あたし薄情なのかなぁ」
美穂もその言葉に共感した。
「全然薄情なんかじゃないよ。すごい今私も納得した。あの子たちのお陰で私も周りも、いい意味ですごい変わった気がするもん」
いつも一緒にいた木村や田中、原田も、優二から直哉の話を聞いて涙をぼろぼろこぼした。自分らは直哉に助けてもらってばかりだと嘆いた。
「一緒にいてくれただけであいつは幸せだったんだよ。だからみんなも今まで通りにしててあげて。そうしないとまた要らん心配するから」
うん、うん、と頷く3人。優二はようやっと心を整理でき、直哉の言葉を代弁できるようになった。
C組の泊たちは話を聞いた後、いつものメンバーで寄り集まって、真一の写真の前で「石田のことは心配するなよ」と心の中で呼びかけていた。
――――――
真子が退院するまでの間はせわしない毎日が続いた。中学生組は期末試験。孝太郎も少し心が回復して、勉強のリズムを取り戻し始めた。
冬休みも目前。クリスマスや正月の準備で気忙しくしていることで気をまぎらわしていた。そうでもしないと園内が暗く沈んでしまいそうだったからだ。
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