第115話 10月24日 あの子の気持ち

 学校に行くときはいつも吉岡が志保を誘い、途中で塚田岡山と合流して4人で行く。直哉と真一など風の子園の一行も時間帯が一緒になると、近くを歩くようにしていた。

 D組の教室の中では常にくっついているようなことはなかったが、常にお互い視界の中に入るようになっていた。

 だが帰りはほとんど3人一緒だった。どちらかが部活がある日も待ってから帰るくらいだった。


 そんな状況を面白くないと思っているのが安藤だ。自分と話しても楽しそうに返してくれるし、避けられている様子もない。

 でも志保と居るときは無表情で話していたとしても、間にものすごい親密さがみてとれた。

 悔しかった。まるで2人でいることが普通であるかのように、構えないし気を使っていない。こっちは一生懸命話しかけているのに。

 それはなんとなく、原田にも感じ取れていた。彼女が直哉のことが好きなのに自分のほうを向いてくれない悔しさを。


 夏休みに一緒に出掛けたり、話しかけたのは彼女の方が先だ。アプローチをこんなにかけているのに、当の本人はまるで気づいていない。


 原田が部活の為に教室で着替えている時、直哉に話しかけた。

「なあぁ~、おまえ安藤さん可哀そうだよ、あの子お前のこと好きなの気づかないの?」

「えっ?」

 正直に驚く直哉。ええ、気づいてないのかよと深くため息をつく。

「可哀そうって……?」

 本当にわからなくて原田に聞く。

「あの子、お前に振り向いてほしくて一生懸命話しかけたり、一緒に出掛けたりしてんだぞ。それなのにお前吉田さんばっかり気にしてるじゃん」

「それは……その……」

 本当のことなんて言えない。

「おまえ安藤さんのことは好きなの? それとも吉田さんのほうが好きなの?」

 何と答えていいのか困ったが、「安藤さんは好きだ」と答えた。


「俺なにかしたの? 安藤さんが可哀そうになるような悪い事しちゃった?」

 今度は原田が困った。うーん……としばらく考えた。丁寧に説明するしかないかな。

「お前に好きな人がいたとする。付き合ってくださいって言ったとする。他に好きな人がいるからって断られたら悲しいだろ」

「付き合うって、どういうこと?」

「えっそこ? あー、恋人同士になるってことだよ」

「こいっ……!」

 直哉が恥ずかしさに顔を赤くして黙ってしまった。安藤が自分に対してそんな思いを持っていたなんて!

 原田の方も驚かされた。安藤がますます気の毒になる。

「うそ、いま知ったの……? まあいや、それで断られたらショックだろ」

 黙ったままになってしまった。自分はそんなに刺激の強い話をしているつもりはなかったのだが、本当にそんな世界とは無縁で生きてきたんだろう。


 しばらく考えていたようだが、直哉が口を開く。

「悲しいのは分かるよ。だけどダメだよ、俺なんかと恋人になったって安藤さんが不幸になるだけだ。俺が人間と……」

 言いかけてからしまった、と黙った。危なく人間と付き合うことはできない、などと口にするところだった。

「はぁ?」

 原田は眉をひそめた。

「おまえなー、不幸になるとかどんだけ自分の事『疫病神』みたいに思ってるわけ?」

 疫病神……人間はいい例えをするな、と感心してしまった。

「その通りだからだよ。疫病神か。ぴったりだな」

 原田はそれ以上話すのをやめた。理解してもらえないとあきらめたのではない。彼の秘密に何か触れてしまったのではないか、と恐ろしくなったからだ。


「用意できたー? 行こうよ時間だよ」

 真一がなかなか出てこないのでD組に迎えに来た。助け舟だ、と原田は飛び出していく。



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