第94話 9月22日 異変
土曜日。放課後が思いっきり使える中間試験前最後のチャンスだ。来週からは居残り時間に制限がかけられてしまうのだ。テスト2週間前の、不評で面倒な計画書提出も待ち構えている。
「おっはよーん」
吉岡が教室に入ってきた。周りの数人が「おはよー」と返す。
「ふんふんふーん」
鼻歌交じりで机の上に鞄を置く。数分後、飯田が入ってきた。吉岡の席の近くを通るので「おはよー」と声をかける。何も返って来ない。まあいつものことだ……が??
挨拶が返ってこないことに驚いたのではない。吉永と大治が一言も飯田と交わさないのだ。脇を通った飯田は確かにおはよ、といった(ように聞こえた)のに??
思わず手を止めて見てしまったが、まぁたまたまだろうと気にも留めなかった。何人かが教室に入ってきては挨拶し、何人目かで安藤と梅田が入ってきた。
「おはよー。ねぇねぇ、ちょっと考えてきたことがあってさ」
吉岡が待ってましたとにこにこしながら安藤に話しかけた。するとちょっと曇った顔でこう返された。
「ごめん、ちょっと一旦準備中止したいなと思って……ほら、試験前でしょ。ごめんね、ほんと。またできるようになったら聞くね」
「え? あ、そ……」
深く突っ込むことはしなかったが、どこか変な空気は感じていた。
吉岡以外にも何かおかしいと感じ始めたのが体育の授業の時。
着替え終わって移動するのだが、大治と吉永があきらかに飯田を置いて行ったのだ。みんな見ないふりをしていたが、飯田のこわばった表情は見ていてつらいものがあった。あれだけクラスの中で威勢を張っていたのに。そんなみじめなところをみんなに見られたくはないだろう。誰も声をかけずに各々向かう。
放課後。
「安藤さーん。俺ら今日手伝えるよ! なんかある?」
木村と田中、そのほか数名が声をかけに来た。
「ごめん、今日は私早く帰るから……その……飯田さんたちに指示もらってくれる?」
「えー? そうなの? 残念。なら俺らも帰るか」
安藤さんがやらないならと帰る男子を尻目に、田子と梅田が無言で付き添うように安藤の傍らに立つ。
「おかしーよねー、ぜぇーーーったいおかしいよねぇー」
久々に吉岡、岡山、塚田と揃って帰れることが志保は少し嬉しかった。塚田が切りだす。
「なんかあったんかな、飯田さんハブられてたでしょ」
「ねー、吉永さんと大治さんが飯田さんをわざと無視してるように見えた」
吉岡の言葉は正直で分かりやすかった。志保は少し気になった。安藤の様子もどことなく暗かったし、周りにいる佐々木や梅田に加え、佐藤まで彼女の周りにいて気遣うようになっている。何かを見たのか。まさか自分のことを何か漏らしていないだろうか。
「志保ちゃん顔怖い」と吉岡がぽつりと指摘する。
「えっ? そう?」
はっと我に返り笑顔を作り直す。安藤でも飯田でも、もし自分が関わっていたら口止めしなければ。何か聞いた方がよさそうかもしれない。しかし焦ってこじれて首を絞めてしまってはまたこの前のように邪魔が入る。ここは慎重に行こうと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます