第55話 7月6日 家庭訪問(円滑)

 教員をはじめ教育委員会や児童相談所が驚いたのは無理もない。

 数年もの間ずっと所在不明になっていた対象が、今目の前にいて、学校に行くと言い出したうえ、自分から学力が遅れているから特殊クラスに入れてくれと言ってきた。


 両親とも今までの対応がウソのように、穏やかに話し面談を受け入れた。部屋の中も整理整頓されているし、身なりも少しはまともになっている。何があったんだろう。でもそんな事情はこちらが詮索することではない。とにかく問題が解決したことで一同安堵しかなかった。


 念のため菊本も同席し、軽くクラスの説明をする。女の子はいたって普通の子で、なぜこんなに長期間学校に来なかったのかが不思議なくらい、しっかりした印象だった。


「夏休みに補習があるので、よかったらまずそのクラスの子たちと顔合わせもかねて、来てみませんか。いきなり大勢のところに行くのも大変でしょう」

「その方が助かります。お願いします」

 彼女が軽く頭を下げる。両親もそれにつられて頭を下げた。ひとまず、制服がないのでPTAのほうから中古の制服を援助してくれることになった。




「いやー驚きましたよ。何があったんでしょうねぇ……」

「突然家の中も片付いていましたし、何か心境の変化があったのではないでしょうか」

 和やかに話している職員の後ろで、菊本は1人黙っていた。内心、あの親子全然顔似てないなぁ、など野暮なことを考えていたからだ。

 それにあの子供、あの親の下で生活していた割にしっかりしすぎだ。もしかして子供だけどこか実家や親せきに預けっぱなしで、ここで戻って来たとか複雑な事情があるのだろうか?


 まあ似てない親子なんて世の中には珍しくないし、似てませんねなどと言おうものなら失礼千万だ。親があまり頼れないからきっと子供がしっかりした、そういう親子なんだと1人無理やり納得した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る