第47話 6月28日 拓の中の双子(1)

 学校から帰った真一は、拓の件で福島が園長と一緒に病院に行っていると聞き、自分も行くことにした。少しでも様子をこの目で見たかった。


 コンビニの前を通った時、そういえばあのグループはどうなったんだろうとふと気になった。

 今日もC組にいた者はだれ一人来ていなかったし(何人かが「ざまぁ」と言っているのを聞いた)ほかのクラスの者も見ない。石田はどうしているだろうとなんとなく気になった。まだ警察に拘留されているのか。



 病院へ着くと直哉の病室へ向かう。傷口の化膿が少々悪化したせいで予定より退院が伸びてしまい、退屈していた。1人でいることがつまらなく感じる日が来るなど、今までからしたら思ってもみないことだった。

 突然の来訪者に。少しうれしそうな顔になる。

「どう? の治り具合は」

 わざと言ってやった。

「あは、聞いたんだ。でもだいぶいいよ。やっぱり医療が進んでるよこの国は。怪しい術もないし薬や治療で治るなんて。明日退院していいって」

「拓には会った?」

 首を横に振る直哉。入り口に面会謝絶が掲げられているそうだ。

「聴取が一通り終わるまではダメっていうのと、精神的ショックが大きいから俺を見たらもっとパニックになるからだめ、って。杉村先生が言ってた」

 それもそうだと同意した。


 直哉が真面目な顔で続けた。

「俺だって会って話したいよ。できることならあいつの中の双子と話がしたい」

「双子?」

 真一が疑問符を頭に浮かばせながら聞く。

「え、お前知らない? 人間の中の双子の話」

「うっすらはあるけど、よく知らない。いい自分と悪い自分でしょ? よく天使と悪魔なんて言われるあれ。それと話すってどうやって……?」

「俺は相手の意識の中に直接入って、双子と話ができる。だけどもって5分だ。それ以上やったら俺が相手の意識に取り込まれちゃうかもしれないんだって」

 人の意識の中に入る能力を持つ天使がいるとは聞いていたが、人間の意識の中はそういう仕組みになっているのか。思わず感心した。


「ああいう子は絶対本音言わないもん。何があったかも言わない。意識に入ればその中の双子がヒントを教えてくれるし、記憶を見せてくれる。他人に聞かれることもないし、入られた本人は俺と何を話したかハッキリは覚えてないんだ。わざわざ記憶をたどって怖い経験を思い出すこともないし、俺が聴取やった方がいいと思う」

「それは無理でしょ」

「そうだけどさ。ほんとにあいつ、俺自身みたいでつらかったよ」

 真一はそれを聞き、なんとか面会ができないか聞いてみることにした。



「まず難しいね」

 福島の開口一番はそれだった。面会することで話の口裏を合わせられないようにしているのと、拓が他人をひどく拒絶し、話が進まないらしい。園長が真横に付き添ってやっと警察に話ができる状態で、自分含め他のスタッフだと緊張し何も話せなくなる。そのうえ一度過呼吸のようになり、中断したこともあるそうだ。

「あんだけ強がっててもやっぱり子供は子供なんだよ。少年院に行くことはないらしいけど、児童相談所と話して、別の施設に行かされるかもしれないし」

「そんな!」

 真一が思わず声をあげた。

「こればっかりは俺たちにはどうにもできない。もし面会するなら……」

 福島が声を潜め周りを気にする。

「病院の面会時間が終了する間際だ。だいたい警察も帰るし。ただし話ができる保証はないぞ」

 真一はうんうんと頷いた。福島も抜け道をおしえてくれるとは頼れる。病室はナースセンターからは少し離れている。うまくすれば見つからずに入り込めるかもしれない。



 直哉に聞いた話をしてみる。

「……俺一人じゃちょっと不安だな」

「僕がいるよ」

「でも帰れって言われない?」

「大丈夫だよ少しくらい。よくおばさんとか時間すぎていつまでも入り口でしゃべってるじゃん。体半分部屋から出てさ」

「うーん、まあやってみよう」

 面会時間は19時まで。18時30分に行動を開始する。動きを少しでもスムーズにできるようトイレにかくれ、ほぼ廊下の突き当りの、目指す病室に目を凝らす。



 壁から顔を出して様子をうかがっていると

「なにやってんだ?」

と突然背後から声がした。びくっと体を飛び跳ねさせて振り向くと福島だった。

「ああ、びっくりした、福島さんか。拓の部屋になんとか行きたいんです。直哉も」

「ホントに行くの??」

 福島は心配そうだったが、それなら園長にもう帰ると言ってみる、と部屋へ向かっていった。部屋に入ってから5~6分して、園長が出てきた。続いて警察と思われる男も2人出てきた。2人はトイレに隠れながら心の中で福島に感謝する。

 ぞろぞろとエレベーターに乗ったのを確認すると

「いくよ」

 とさささっと廊下を小走りし、病室の前へたどり着いた。



 2人とも緊張しながらノックする。そしてさっと中へ入った。そこは個室だった。

「拓」

 小声で呼んでみる。カーテンをそっと開けると、布団を頭までかぶって顔を隠していた。

「大丈夫か? ちょっと話したいんだ、顔出してくれよ」

 優しく直哉が声をかけた。ヤだという意思表示で首を横に振る。

「5分だけでいいんだ。怖いことはしないし聞かない。お前は何も喋らないでいいから」

 もう一度声をかけて頭をなでる。出てこない。


「やっぱ嫌か。じゃあおでこだけ出してよ。目を閉じて布団の中にいていいから」

 拓のイヤイヤがとまりちょっと額だけ出てきた。

 脇にある目覚まし時計を真一に渡す。

「1分ごとに教えて」

 無言で頷き時計を握りしめる。何が始まるのか。布団をそっとのけると、直哉は自分の額を拓にくっつけた。

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