第41話 匿名と小島のSOS

「おかえり」

 直哉と真一が玄関に入ると、美穂がちょうど階段から降りてきたところだった。

「拓、帰ってる?」

 気がせってただいまも言わず質問する。首を横に振る美穂。

「今福島さんも直子さんも探しに出てる。ほんとあいつは!! 全く反省してない!」

 園長も心配そうに出てきた。

「あまり帰ってこなければ警察にも連絡しようかって言ってたの」

「そうですね、その方が……」

 電話が鳴る。誰しもが一瞬止まった。美穂がすかさず飛びついて出た。

「なんだろう、拓かな」

「見つかったのかな」

 美穂のしゃべり口調だと知り合いのようだ。

「えっ? 真一じゃなくて?」

 驚いたような声を出しこちらをチラ見する美穂。

「うんわかった」と受話器を耳から外すと

「直哉、小島君から電話だよ」

「小島くん?」

 同じCの真一ではなく、自分なのが気になった。美穂から受話器を受け取る。



「もしもし?」

「あ、あの、えっとCの小島です」

「どうしたの?」

「あのね、いま変なメールが来てさ」

「何それ?」

「差出人は言うなって書いてあるから言えないけど、文章じゃないんだよ」

 小島は自分のスマートフォンを見ながら、家の電話からかけているらしい。そのまま読み上げる。


「おれのこというな ふじさわにでんわ たく はし はやく」

「は、え、もう一回」

 美穂にメモして、と常に置いてあるボールペンを渡す。電話の横のメモに、小島が言った言葉を1つ1つ書き留める。

「ごめんこれ以上は分からないや、日本語じゃない」

「いいから読んでみて」

 うーんうーんと何度かうなり声が聞こえゆっくりと読み上げた。

「はわにんなかされる」

「はわに・・・なんだって?」

 1文字ずつ復唱しながらなんとか書き留めることができた。


「こっちらかメールしても全然返事ないし、電話も出ないんだ」

「でもありがとう、ちょっと考えてみるから。助かるよ。そいつにお礼言っといて」

 ありがとうと電話を切ると中学生組は額を寄せ、この暗号じみた文章の解読を始めた。

「拓を知ってる奴からのメールだろうな、『はし』って、川の橋のことかな?」

「普通に考えたら『橋』って言ったら一番近いのはあそこだよね」

 先ほど直哉と真一が訪れた、川原の堰の少し上流にかかっている橋だ。橋下に降りるには整備された遊歩道があり、人通りもあることから外して考えていたが、中州に渡ったり橋脚の影になってしまえば死角だ。そして逃げ場もない。見落としていた。


「『はわにんなかされる』ってどういうこと?」

「誤操作じゃないかな、スマホの入力で急ぐと隣のボタン反応しちゃったりしてさ、あれ面倒なんだよね結構」

 孝太郎が人差し指をシュッシュと動かしながら意見を出した。

「なかされるって、なんか怖い目に合ってるのかもよ」

「はわにんがわかんないけど、なかされるってことはやっぱり巻き添えくらってんだよ」

「はわ……『川に流される』じゃないよね!!」

 みどりが不安そうに叫んだ。みんなざっと身を引いた。

「やばい、やばいだろそれは……」

「俺もう1回行く」

 直哉に続き真一も出ていく。

「福島さんに連絡しといて、川に行くって!」

 いつもは消極的な優二も、さすがに緊急と感じたのか美穂にそう頼むと追いかけた。

 六時半。まだ太陽光の方が優勢だが、確実に東からは夜が迫ってきている。

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