やはりこの(異)世界は最高(仮)です!

ラガーさん

プロローグ

 とある大きな街。そこには、ある一つの伝説がある。

 〜2年前、頼めばどんな喧嘩でもしてくれる喧嘩屋と呼ばれるものがいた。

 

 その強さ比喩するならばさながら幾千練魔の修羅の如し。対峙すれば、プロのボクサーや、ムエタイ選手などが束になっても必ず勝利を収める実力を持っていた。

 

 そんな事もあってか、その喧嘩屋はいつしか、裏の人間にまで恐れられ、出番を無くしひっそりと姿を消したという。いつしか街で、最強の喧嘩屋の話をするものはいなくなり、消えた伝説となっている。







 〜伝説から約2年後〜








「例えば君が傷ついて〜くじけそうになった時は、必ず僕がそばにいて〜支えてあげるよその肩を」


 下手とも言えず上手いとも言えない歌声で、お世辞にもカッコいいと言えないボサボサ髪で野暮ったい黒髪黒目の成人男性が歌っていた。


「お、兄ちゃん何の歌だっけそれ」


 公園にいるホームレスの男が疑問を抱き男に聞いた。そして男は、とぼけたようにホームレスの男に答えた。



「さーてね、忘れたよ。なーんか頭から離れないから歌ってるだーけ」


「なるほどね。っと、それより商談の途中だったな」


「おっと、そーだったな」


 商談、つまりこの2人は今仕事をしている。いや、正確には仕事と呼べるかもわからない。まずこの、歌を歌ってた男は頼まれ屋という、なんでも頼まれたことをやる商売人である。

 

 そんな、頼まれ屋は子供が突然消えたという母親から、詮索の依頼が来ているため、このホームレスに情報提供をしてもらおうとしているところだ。


「で、この子なんだけどな見覚えあるか? 2日前から行方不明なんだ」


 男は行方不明の子の写真をホームレスの男に見せた。


「ああ……この子なら見たぜ」


「本当か? いつどこでだ?」


「おいおい、兄ちゃん無料ただってわけにはいかねぇだろうよ。警察だってチップくらいくれるぜ?」


「わかってるっつーの。どれくらい欲しいんだ?」


 ホームレスの男はニヤリと笑いながら男に報酬金額を要求した。


「報酬の4割でどうだ? 至って良心的だろ?」


「3割だ」


「え? いや、ちょっとちょっとそれはさす「3割だ……お前もこの前、馬券で大負けして金がねぇ! とか言って俺に泣きついてきたから貸してやったろ。そこから差し引いても3割だ」


 男はホームレスの意見を聞く気もなく言葉を妨害しながら諭すように答えた。すると、ホームレスも諦めたように男に答える。


「なんでぇ! けちくせぇな兄ちゃん。まぁ何言ったって聞かねでだろうし今回はそれでいいや」


「ものわかりが良くて助かるよ。で、どこでいつ見たんだ?」


「確か、その子を見たのは、丁度消えたっていう2日前のことだ。街の商店街歩いてると猫を助けようとしてバイクと事故った子がいたんだ」


これを聞き男は少し驚きながらホームレスの男に聞いた。


「まてまて、まさかその事故ったてのが……」


 考えてることが当たったのか、ホームレスは少ししんなりしながら答えた。


「そう、その写真の子だ。めちゃくちゃべっぴんでよ、そこらのアイドルや女優なんか目じゃないぜ? 本当に惜しいもんだよ」


「そうだな……もったいねぇよな。こんな可愛い顔してんのに」


「……だな。って、それは一旦置いといて。実はその後が結構妙でな、亡くなっちまった遺体が変な光に飲まれて消えちまったんだよ」


 わけのわからない返答に男は不思議そうな顔をしながら、ホームレスこと菅さんにその意味を聞いた。


「そりゃ、一体どういうことだよ菅さん」


 菅さんは少し青くなりつつ男に話した。


「今でも信じられねぇさ。長いことこの街見てるがあそこまでは初めてだったよ。まさか、引かれて血まみれだった子が急に瞬間移動でもしたかのように消えるんだぞ?」


 その言葉の内容に、男は困惑をあらわにした。無理はない、人が消えたなんて聞けば誰だって困惑するだろう。


「えっと……それは酔ってたとかじゃないよな?」


「失礼なやつだな、酔ってなんかねぇさ。俺はこの目でバッチリ見た。嘘じゃねぇ! 変な光に呑まれてよぉ! そっから姿を消したときた。俺だって信じられねぇさ!」


 菅さんは少しムキになり男に答えた。その言葉には嘘は感じられず、男はしぶしぶ信用した。


「なるほど、情報ありがとよおっさん。また報酬入ったら三割渡しにくるわ」


「おうよ、頼むぜ。あと俺はおっさんじゃねぇ。まだ52だ」


「悪い、クソジジィだったわ」






 そして男は公園をさり、少女が事故にあったという場所に向かっている。

 どうも事故があった場所は、このバカでかい街の端にある商店街らしい。そこまでは少し距離があり、ぶらりと歩きながら男は考え事をしていた。



(もし、菅さんの言う通り事故で亡くなってたとして、その遺体が本当に消えてたとしたら探す当てはどうするかな……しっかしまぁ、こんな前代未聞の事件、名探偵なんちゃらでもそうはお目にかかれねぇぞ。久しぶりに燃えてくるねぇ)


 などと、期待した考えをしているうちに事故があったという商店街へ着いていた。商店街自体はどこの場所にもある昔ながらの感じの商店街。店も充実しており、服屋やカフェ、魚屋などたくさんの店が並んでいた。



 そしてしばらく歩くと事故があったという場所についた。そこは人通りの多い商店街の中央だ。


(んー、結構人通りの多い商店街なんだな。こんだけ人も多けりゃ、遺体なんてすぐに見つかって通報されるよな……こりゃ、菅さんの言ってた遺体が消えたって話も信憑性が増すな)


 男が事故の現場を見ていると、突如目の前から青白い光が現れた。そしてその光は、菅さんの言っていた光の情報にとても酷似している。


(……多分、これが菅さんの言ってた呑み込む光ってやつだろうな。なるほど、今度は俺を呑み込もうってわけかい。上等じゃねェか)


 男は白い光から走って距離をとった。幸いな事に、青白い光の速度は遅く、男の足はめっぽう早いため、すぐに光を撒いた。しばらく走り、男は商店街の路地裏のようなところで身を潜めていた。



「ここまでくればいいだろう。それにしても、一体なんなんだありゃ? 多分、菅さんの言ってた光と同じなんだろうが……随分と不気味だな……とりあえず一旦ここで様子を見るか」



 なんとか撒いたと思い、男は疲れを癒すために少し休憩をしていた。

 ーーこの時、男は完全に油断をした。撒いたと思い気づかなかったのだ。自分の頭上に青白い光があることに。

 

 そして、男はその事に気付かぬまま白き光に呑まれていった。














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