第2話☆ストロベリーミルク☆

…数日後…

「どう?」

倖歌の突然の言葉に秋穂は、飲んでいた物を吹き出しそうになる。

「どっどうって…何が?」

ケホケホと咳き込みながら返事を返す。

「あれ?連絡とってないの?」

「連絡って…誰と?」

「凌ちゃん先輩とだよぉ~。」

その言葉に秋穂は、また咽る。

「…とっ取ってないよ!いきなり何、言い出すのよ…。」

「えぇ~。何で?」

「何で?って…何が?」

倖歌が身を乗り出しながら聞いてくる。

「何で連絡取ってないのぉ~?」

「何でって、言われても…知らない人と連絡なんか取る理由もないし。」

「えぇ~。知らなくないじゃん…。」

「そっそれは、そうだけど…。」

でもと、続けようとした瞬間…

「連絡なかったから、寂しかったなぁ~俺。なんつって…。」

秋穂の隣に座りつつ、凌が笑いながら言い放つ。

「凌ちゃん先輩、今日は就活じゃないの?」

倖歌が失礼な質問を大声でするが、凌は気にもとめていない様子で答える。

「今日は、就活ないんだよ。土曜日だからねぇ~。」

「土曜日は、就活ないんだ?」

「休みの企業が多いからな。」

「そっかぁ~」

先輩相手に敬語も使わず、気楽に会話する倖歌を少し呆れながら、秋穂は眺めていた。

「ってか、何で連絡くれなかったの?秋穂ちゃん。俺、待ってたのに…。」

「…え…?」

まさか自分に会話が飛び火するとは思っていなかった秋穂は、戸惑いの声を上げた。

「れ・ん・ら・く!メールくらい来るかなとか期待してたのにな。」

シュンとした表情と態度を見せる凌。

「だって、冗談なのかなって思って…。私、先輩の事とか…よく知らないし…。」

顔を真っ赤にして、そう言う秋穂を見て、凌はクスッと笑う。

「…何で笑うんですか?」

「いや、可愛いなと思って…。」

「まっまた、そんな冗談ばっかり言って私、可愛くなんてありませんから!」

そう言って、立ち上がろうとする秋穂を倖歌が止める。

「秋穂!待った、待った!」

「…何…?」

数日前に起こった出来事を思い出して、秋穂は半泣き状態である。

「凌ちゃん先輩、冗談であんな事言わないよ!アタシは、そう思うよ?」

でも、付き合っていた男にも可愛いなんて、言われた事などない秋穂にとっては、冗談にしかとれない言葉なのだ。

「秋穂ちゃん、ノリで言ってるワケじゃないって言っても、わかってもらえないかもしれないけど…。俺、マジだから。」

振り返ると、凌の真剣な瞳…。どうしていいかわからず逃げるように立ち去る秋穂。

「秋穂っ!」

「いいよ。北原。」

「でもっ!」

「俺の気持ちは、言えたから。」

そう言いながら、寂しそうな表情を見せる凌を励ますつもりで倖歌は…

「あっ秋穂、恥ずかしがり屋だから…。」

「…励ましてるつもりか?」

「一応…。」

「似合わない事すんなよ。気持ち悪いから…。まぁ、ありがたいけどさ。」

と、倖歌の表情を伺うとプウッと頬を膨らませていた。

「何、怒ってんだよ。」

「気持ち悪いとかナシでしょ!」

「いや、お前に励まされると、なんつーか慣れてないからくすぐったいんだよ…。」

本音だったのに、倖歌は納得いかないような表情をしていた。全く素直じゃない所が可愛い後輩にそっくりで少し笑えた。

「…あっ!」

「何だよ?」

「今、笑ったでしょっ!」

本当に可愛い後輩。

「人間なんだから、笑いもするっつの。」

「そうだけど…。」

「ありがとな。北原。」

そう言うと、凌は倖歌の頭をグリグリと撫で回す。

「もうっ!せっかくセットしたのにぃ~。」

あははと笑いながら、凌は立ち去った。髪の毛をグチャグチャにされた倖歌を置いて…。

「隆弘に会うまでに、セットし直さなきゃ…。凌ちゃん先輩…恨みますよ。」


その頃、倖歌の怨念が届いたのか凌は悪寒がして身震いをする。

「…誰か、悪い噂してんな…。」

小さく呟くと、ガタンと音がした。何だ?と、思っていると喧嘩しているような声が聞こえる。男女の声だったので、ただの痴話喧嘩かと見過ごそうとしたが…

「離してっ!」

秋穂の声だった。


秋穂が食堂を出た瞬間、腕を掴まれた。人気のない所まで来て、男が振り返った。元カレの大典だった。

「…何、急にこんな所まで連れてきて…。」

「淫乱女っ!」

一瞬、何を言われたのかわからなかった。

「だっ誰が淫乱?わけわかんないっ!」

「オレと別れて、ずぐ違う男に乗り換えたんだ。十分、淫乱だろうがっ!」

「はぁっ?」

わけがわからなかった。

「自分だって、彼女いるじゃないっ!」

「あれは、彼女じゃ…ない。」

「意味わかんない。」

また、腕を掴まれた…。

「離してっ!」

言う事を聞かない秋穂に苛立った大典は、頬くを引っ叩く。

パシーンと、響く音。

来るはずの痛みがない秋穂は、目の前にいた凌に驚く。

「暴力は、ダメだよね…イテテ。」

「ごめんなさい。私のせいで…。」

「秋穂ちゃんが謝る事ないよ。俺が勝手に割り込んだんだから…。」

「…それより、大典…君?だったかな…。」

「何だよ、ナイト気取りかよ。」

わけのわからない言葉を吐き続ける大典。

「女の子に手を上げちゃ…ダメだよ。」

「そいつが淫乱だから悪いんだよっ!別れたら速攻で男作りやがって…。」

「大典君は、こういう人なの?」

凌が秋穂に聴く…

「もう少しマシだったんですけど。早とちりというか、バカなんです。」

「大典君、俺…女の子には優しいけど、男子には厳しくて有名なんだ。」

「何だよ、脅してんのかよっ!」

凌は。呆れたように一息つくと、大典の後頭部を狙い飛び蹴りした。

「はぁ、静かになったね。」

大典の身体は、人形のようにクタリと地面に横たわっている。

「すみません。お騒がせな元カレで…。」

「いや、いいよ。こういう奴は、何だかんだしつこいから。」

秋穂は、凌の赤い頬を見て、思い出したかのように走り出す。

「イテテ…。結構くるね、ビンタ。」

座り込みながらボソッと呟いた。

「先輩、コレ使って下さい。」

「え…。いいの?」

「はい。」

秋穂は、凌に水で濡らしてきたハンカチを差し出した。

「ありがとう。」

秋穂は、そのまま凌の隣に座った。

「また、逃げられちゃったのかと思った。」

「あれは、逃げた…とかじゃなくて…。」

秋穂の顔が真っ赤になる…

「…恥ずかしがり屋なんだって聞いたよ。北原から…。」

「私、告白とかそういうの…恥ずかしくって…。すみません。いつも逃げちゃって…。」

「俺の事、どう思ってるのか…聞いていい?」

秋穂の顔を覗き込みながら聞いてくる凌。

「先輩は、優しいし…頼りがいあります。好きか嫌いかで言えば好きなんだと…思います。」

「…恋愛対象には…なれない?」

「十分、恋愛対象です…。」

そう言って、秋穂は凌を見る。凌も秋穂を見て…

「…そっか、良かった…。」

そう言うと、不意打ち紛れに秋穂の頬にチュッとキスをした。

「えっと…え?」

「もう俺も限界。好きな女の子と何も出来ないなんて…。」

そう言うなり、秋穂の身体を強く抱き締めた。何故だか凌の腕の中は、安心できた。

「ねぇ…。」

「はっはい…。」

「キスしていい?」

顔を真っ赤にしながら頷く秋穂。

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