僕はこの異世界でPK(殺人)をしていくことに決めた、後悔はしていない
よっこ
第1話 異世界での目覚め
土の生々しい匂い。草の青くさい匂い。
こんなにも間近に自然を感じたのは久しぶりだ。
耳を地面にあて、地球の鼓動を聞こうとしていた子供時代を思い出す。
重いまぶたを開くと、視界に飛び込んできたのは巨木。
頰に感じるのは少しゴツゴツした地面。指先に感じるのは柔らかな草。
木漏れ日と鳥のさえずりが心地よく思考を研ぎ澄ましていく。
僕はどこかの森にいるようだ。
寝そべった状態から立ち上がろうとした。でもなぜか足元がおぼつかない。
デニムのズボン越しに脚をさする。
これは間違いなく自分の足。しっかりと二本ある。
フラフラと歩いてなんとか巨木の根元までたどり着くと、その巨木を背にズルズルとへたりこむ。
なんだか自分の体のようで自分の体ではない感覚に恐怖を覚えたのだ。
「僕は……
声は出る。自分を自分だと認識できる。
自分が日本人であること、27歳であること、独身で恋人がいないこと、そんなことは思い出せる。
住所も言える。会社の名前も言える。ケータイの番号だって……
ポケットを探ったがケータイはなかった。ケータイどころか、何も持っていない。
だんだんと恐ろしくなってくる。
僕は一体どこにいるのだろう。なぜ僕はこんなところにいるのだろう?
直前の記憶がはっきりしない。何か大切なことを忘れている。
ぽっかりと空いた記憶の穴。
「昨日の朝ごはんは?」と聞かれて思い出せない時のような釈然としない気持ち。
こめかみを抑えながら記憶を辿ってみようとした。
その時、頭の中にジジジとラジオのノイズのような音が走った。
『諸君!! お目覚めかな?』
男性の声だ。直接頭の中に問いかけてくるような奇妙な感覚。
『ここは天国でも地獄でもない。君たちは正真正銘生きているのだから』
僕は生きている。当たり前のことだけどそんな言葉にホッとする自分がいる。
『ははは、多くの者が胸を撫でおろしたようだ。では、これから私が話すことを聞いてどう思うだろうか?』
嫌な予感しかしない。
『諸君が今いるところはまぎれもない……異世界だ』
異世界って……ここは地球じゃないってこと?
なんとか自分で自分を落ち着かせようと、頰を叩いてみる。
『忠告しておく。一度しか言わない。この世界で生き抜くにはまず常識を捨てよ。ここに公平なんて言葉はない。ましてや平等などもってのほかだ』
何を今更──
どの社会だって平等や公平なんて上っ面だけで現実は不平等で不公平ではないか。そんなこと誰でも知っている。
『諸君の処遇も然り。すぐ目の前に死が迫っている者もいれば、安全な場所にいる者もいる』
唐突に出てきた「死」という言葉。急にナイフで思考をえぐられたようだ。
『そんな諸君には特殊な力を授けた。この異世界を生き抜くのに役立つかもしれない。ささやかなものだが受け取ってくれ』
突然、目の前に金色に縁取られた縦長の長方形がいくつか現れた。横一列に並んでいる。
宙に画像が浮いているなんて現実にはありえない。まるで拡張現実。
『ただし、その力も不公平で不平等だ。巨象を一撃で屠る力もあれば、蟻一匹でさえ殺せぬクズみたいな力もある』
この金色の七つの長方形がこの世界を生き抜く力?
『最後にこれだけは言っておこう。諸君のいた元の世界に帰る方法は存在する。約束しよう。まぁ……帰れるようになる頃にはこちらの世界の虜になっているだろうが』
待て待て、話についていけない。機嫌が悪いときの上司のように一方的に話すんじゃない。
「あ、あの、ちょっとすみません。なぜこんなことを? あなたは誰ですか?」
頭の中の声に対して、声を出して質問してみた。
『以上だ。もうこれで諸君と話すことは二度とないだろう──』
ブツンとテレビが切れるような音とともにその声はかき消えた。
勇気を持って話しかけたのにガン無視された。気恥ずかしい微妙な雰囲気が漂う。
目の前にある七つの長方形がそんな僕をあざ笑ってるかのようだった。
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