「路上ひとりナンパ」の宇宙

高橋アンテナ

第1話「路上ひとりナンパ」の宇宙【1】

その日は突然やってきて、私は新宿の路上で、

地味で真面目そうな女に声をかけた。

ナンパである。しかも、「路上ひとりナンパ」。

41歳のおっさんが。


つまんなかった。退屈だった。ただ、ひたすら。

仕事があるのはありがたいが、忙しすぎて、

何か文化的に豊かな活動に没頭するヒマがない。

本当はなにかクリエイティブなことがしたい……。

なんてのは、言い訳でしかないのだが、

とにかく、自由になる時間がない。


やっと見つけた1~2時間の空き時間で行く場所は限られる。

風俗というクリエイティビティの墓場。

ヘルスにも行った、ソープにも行った、

出会い喫茶やハプニングバーにも行った。

いるのは、同じような男と女。

クリエイティビティの欠片もない。


そもそもキャバクラやガールズバーは好きじゃない。

おカマバーで騒ぐのも慣れたら疲れるだけ。


その中で、「おっぱいパブ」だけは別だった。

「おっパブ」というヤツだ。

おっぱいをもみながら、嬢たちの夢を聞くのは楽しかった。

ネイリストになりたい、スタイリストになりたい、留学したい……。

甘い吐息とかわいらしい乳首の感触の向こうにマシュマロのような夢物語。

この悪い冗談のようなビジネスモデルを考えついた人を心の底から尊敬した。

しかし、散発的に2年ほど通ったが飽きた。

飽きてしまったものは仕方がない。


放り出された私は、自分になにができるか考えた。

「小説でも書けよ」と自分に言い聞かせたが、

何か出てくる気配はなかった。


男のアクティビティはセックスしかないのか?

そもそも本当にセックスなんてしたいのか?

手垢べっとりの女とセックスするなら、オナニーのほうがましだ。

そんなことはわかってる。

しかし……しかしだ、なんか、まだあるんじゃないか。


考えても考えてもセックスから飛躍できない

自分のクリエイティビティの貧困さが重くのしかかる。

ランニングだっていい、ヨガだっていい、

ボルダリングとかだってあるだろう。

野外フェスなんかにハマっている仲間も多い。

正直言うと、どれも続かなかった。

やはり時間が足りない。

そして、セックスという手軽なスポーツに戻ってくる。

しかし、金で手に入るセックスはもう飽き飽きだ。


そして、その日がやってきた。


路上ひとりナンパ。

その気になれば、2秒後に行動に移せるスポーツ。

なんでこんな単純なことに気づかなかったのか。


そして、私は手を伸ばせば、そぐそこに果てしない宇宙が

広がっていたことを知ることになる。



(つづく)

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