第88話 皇帝の花嫁探求 2
数分後、動けるようになった
「盧将軍。年齢を聞いてこい。」
「陛下、どうされたのですか。はぁ、でも美人ですね。気に入られたのですか。自分で聞けばいいじゃないですか。」
「聞けないから頼んでるんだろ。」
「だったら、僕にもセスナくださいよぉ。」
「それは吉法師に言え。」
「え~~、頼んでくださいよぉ。」
「わ、分かったから、早く行って来い。」
「あの~、すみません。おいくつですか。」
「え、それはこちらがお伺いするのですが、お水はお幾つ必要ですか。」
「いえ、そうではなくて・・」
「え、水は必要ないのですか?」
「いえ、水は必要ですが、そうではなくて・・」
「ではお幾つですか。」
「いえ、そうではなくて、あなたはお幾つですか。」
「いえ、私は水は足りてますので必要ありません。」
「いえ、そうではなくて。あなたの年齢はお幾つですか。」
「年齢ですか?え、どうしてでしょう。お父さん、なんか変な人が・・・」
ディルラバは奥の部屋に向かって叫んだ。
「どうしたディルラバ、何か問題か。」
「この人、変なの。」
「そうです。私が・・・って、いえ、そうではなくって、こちらの方があなたのことを気に入られたので年齢がおいくつかと。」
「気に入ったら年齢を聞いてどうするんだ?攫うのか?ことと次第によっちゃお前ら只じゃ置かねぇ。」出てきた途端、怒りをぶつけているのは娘の父でありここの店主であるモハメドだ。
「おい、盧将軍、お前話しが下手なのか?コミュ障なのか?なぜただじゃ置かれない立場になってる?」厚熜は盧将軍を少々残念な人だと思っているようだ。
「少々お待ち下さい。解決してみせます。ご主人、この御方は明国の皇帝、厚熜様だ。その妻として迎える為に聞いておるのだ。」
「なに?明国の皇帝だぁ?嘘じゃねぇーな?」
「本当だ。」
「ちょっと待ってろ。」
そう言うと、モハメドは奥の部屋へと消えていった。
数分後出てきたモハメドの後ろには十名ほどの兵士と高そうな服を着た兵の将と思しき者が立っていた。そして、店の反対側を回ったのか、入り口には別の十名ほど兵士が出口を塞いでいた。
「お前らは明の皇帝らしいな。俺はこの国、ヤルカンド・ハン国の王子ムハンマドだ。お前らを捕らえて明との交渉に使ってやる。」高そうな服を着た将は王子のようだ。
「おい、ムハンマドとやら、お前は馬鹿なのか?皇帝が捕らえられて金を出すと思うのか?国には反皇帝派が沢山いるんだぞ。そいつらが俺を見捨てて新しい皇帝を擁立するに決まってるだろ。捕まえるだけ無駄だぞ。まぁ、捕まる気もないがな。」
王子の脅しに対し皇帝厚熜が反論する。
「そ、そうなのか?モハメド。」ムハンマドは不安げに聞いた。王子は店主モハメドを信頼しているようだ。というより頼っている。
「いいえ、騙されてはいけません。捕まえてしまえばこっちのもの。少なくとも大金は手に入りますぞ。」
「そ、そうだな。お、お前ら、大人しく捕虜になれ。兵士共捕らえろ!」気弱げに僧兵に命令をすると奥へと引っ込むムハンマド王子であった。
「盧将軍。お前に任せる。やっつけろ。ただし俺の義父もいるんだからな。丁寧にな。」
「え?もう結婚したつもりですか?相手の返事もまだなのに・・」
「皇帝に返事はいらない。『エンペラーノーアンサー』だ。」
何じゃそりゃとは思うが口が裂けても言えない盧将軍であった。
盧将軍はおもむろに剣を抜き構えた。兵士たちに緊張が走る。日頃あまり訓練されてない兵士のようだ。
「一の剣『稲妻』!」
盧将軍が入り口の兵に向かって剣を横薙ぎに薙ぐと、剣に稲妻が走りすべての兵が倒れ意識をなくした。ただ痙攣し続け死んではいないようだ。
「一の剣『稲妻』だ。お前らはしびれて動けなくなるぞ。」
盧将軍は店の奥の店主と王子がいる方を向き直り、残った兵士に脅しをかける。
「なぁ、義父さん。諦めたほうが良いぞ。」
「誰が義父さんだ、誰が!王子、兵士を!」
「おう。お前ら早く行け!」
すでに鍛錬不足の兵士は腰が引けていた。
「そうか、二の剣を使うが良いか?火が出るぞ。火傷が残るが良いか?ずっと痛いぞぉ。」
「火だそうだぞ。モハメド、止めたほうが良くないか?」
「二のけ・・」
「ヒィッ‼こ、降参だ、降参。」
すでにムハンマド王子は泣き出していた。
「盧将軍、よくやった、もう良いぞ。それで義父さん、娘さんとの結婚を許していただけますか?」
「え、私がまだ承諾してませんけど!?」ディルラバは泣くしかなかった。
「そうだったな。俺と結婚してくれるか?」
「お断りします。私あなたのこと全く知りません。」
「皇帝だぞ。金持ちだぞ。こんな砂漠じゃなくて、宮殿で良い暮らしができるぞ。」
「お断りします。」
「どうしてだよ。俺は優しいぞ。」
「優しい人は自分で優しいとは言いません。」
「じゃぁ、モハメドさん、いえ義父さん。紫禁城に来て働くか?良い暮らしができるぞ。」
「そ、そうだな、ディルラバ、ちょっと考えてみないか?」
「あのね、『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』皇帝は馬を射ようとしてるのよ。」
「俺は馬か!」
「何を行っているの諺よぉ。急がば回れってことよ。」
「お前が言うことはよくわからんな。」
「ディルラバ、ちょっと聞いていいか?」
「ちょっとぉ、呼び捨てないでよ!」
「おい、俺は皇帝だぞ。もう少し敬語でも良いんじゃないのか。」
「隣の国の皇帝でしょ?これで十分ょ。」
「なぁ、その諺、日本の諺じゃないのか?」
「はい?」
「お前転生者だろ?しかも、元日本人。そうだろ!顔から汗が出てきたぞ。ほら、目が右上を見ているぞ、それは記憶を辿るのではなく嘘をつこうとしている時の目の動きだな。どうだ?」
してやったという顔の厚熜とは対象的にディルラバは顔から汗を滴らせ焦りの表情をしている。
「そうよ。悪かったわね。だからなに?」ディルラバは開き直った。
「だから、嫁になれ。」
「いやいや、なにがだから?」
「転生者だから嫁になれ。」
「意味がわからない、どうして転生者だから嫁にならなくちゃいけないのよ。」
「こんな砂漠で暮らすより元日本人なら都会で暮らしたいだろ。」
「都会は懲り懲りよ。」
「懲り懲りとか言っていても所詮16世紀の中国だから田舎と変わらないぞ。」
「私はね。中国がこの世で一番嫌いなの。」
「どうしてだ。」
「私はね中国人に殺されたの。」
「まぁ、そんなこともあるだろ。」
「私の居た世界の日本は中国が占領していたのよ。それで、日本の官僚や大臣もすべて中国人が独占していたの。中国人は気に入った女がいれば持ち帰りが法的に許されていた世界よ。その世界で私は中国人に拉致されて強姦されて殺されたの。だから中国をぶっ潰したい!」
「おい、それはお前がいた世界の中国だろ?何年ごろだ。」
「西暦2200年よ。」
「え?ヤマ・・」
「イスカンダルには行ってないわよ。」
「ガ・・」
「攻めて来てないわよ。」
「流・・」
「落ちてきてないわよ。」
「残念だな。」
「どうして残念なのよ‼どうして西暦2200年から来たって言うとすべての転生者はその質問するのかしら。でもそのかわりに中国が攻めてきて占領されたのよ。だから中国は許せない。」
「俺がそんな国にはしないぞ。たとえ占領したとしてもそんな酷い事はしない。」
「どこにそんな保証があるの?」
「俺は元日本人だからな。それに俺は世界を征服するつもりだ。そうすれば、世界から争いを無くすことができる。一惑星一国家の原則だ。」
「なにそれ?いつの世界の原則よ?もっと未来から転生してきた人がいたの?」
「いや、俺が考えただけだ。」
「ふーん。じゃぁ、考えてみる。あなたがその目標を掲げている限りあなたの側にいても良いかも。私があなたを利用して中国を、世界を変えることもできるわね。それでも良い?」
「それで良い。そんな目標を持った気の強さがたまらない魅力を放ってるな。皇帝の妻にふさわしい。」
「ところで私は何番目の妻。」
「ん?え~~~っとぉ、15番目?」
「はぁー?ふざけるな。この話はなかったことにします。お帰りはそちらから、
「じゃぁ、正妻の座を与えるから。」
「まさか、正妻が沢山いるんじゃないでしょうね。私は第十六番正妻とか。」
「そんなことはない。正妻は一人だ。お前の子供が次の皇帝だ。」
「ほんと?それは美味しいわね。考えても良いかも。でも、美味しい話には落とし穴があるのよ。あなた詐欺師でしょ?」
「だったら、紫禁城へ一緒に来い。セスナで来たから直ぐに行けるぞ。」
「え、セスナがあるの?それってライト兄弟が乗ってたやつでしょ?」
「おい、まぁそれほどの違いはないが、西暦2200年の時代からすればそういうふうに感じるのか。」
「そうね。翼のある飛行機が不思議って感じ。鳥じゃないんだから、どうして翼があるのよぉって大笑いするレベルね。それじゃ、一応付いて行く。それで詐欺師じゃなかったら考える。考えるだけよ。」
「女性が男に付いて行く時点で了承しているってことじゃないのか、この時代では。」
「あのね、私は転生者よ、特別な力があるに決まってるじゃない。教えないけど。それに、ムハンマド王子がなぜここにいると思うの。」
「さぁ、水でも買いに来たのか?」
「私に求婚しに来たのよ。」
「何だ、自慢でもしてるのか?」
「好条件を選ぶってことでしょ。どちらもほとんど話したことないんだから。」
「じゃぁ、来るか、ライト兄弟じゃないが織田信長が造った飛行機に乗せてやるぞ。」
「え?織田信長ってあの?あの本能寺の織田信長?明智に殺される織田信長?人生五十年の織田信長?鉄砲三千丁の織田信長?」
「そうだ、その信長だ。」
「奥さん募集してないかな?」
「止めたほうが良いぞ。帰蝶は鬼嫁らしいぞ。」
「そうか帰蝶がいるんだよね、鬼嫁なんだ。でも会ってみたいな。それも含めて合わせてくれるなら付いて行くよ。」
「わかった。じゃあ、お義父さん。娘さんをお借りします。」
「お。急に丁寧になったな。大きな家を頼むぞ。」
「そこは『娘を頼むぞ』だろ!ヾ( ̄o ̄;)オイオイ」
モハメドは突然丁寧な言葉づかいで対応した皇帝厚熜に驚いていた。
「それじゃ、その次に俺の宮殿にも来てくれないか。」
ムハンマド王子が食い下がるが、ディルラバはあんまり気乗りしてないようだ。理由は言わずもがなのブサイクであった為だ。王子というのは王が妻に美人を娶るため生まれてくる王子はハンサムであるのが普通だが、なぜかムハンマドはブサイクであった。
「はい。その時はお伺いします。」
もうすっかりここに帰ってくるつもりのないディルラバであった。
皇帝
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