第73話 後続部隊

 どこで聞きつけてきたのか隣の教室からマルガリータがやって来た。


「カリーヌ、どうしたの?何があったの?とにかくここでは話せないでしょうから、帰りましょう。」


「・・・うん・・・」


カリーヌは涙を拭きマルガリータと一緒に学校を出た。


「何があったの?」マルガリータの問い掛けはそっけないが優しさを感じさせるものだった。


「なにも。」


「そんな訳ないでしょ。」


「言いたくない。」


「まぁ、良いよ。言いたくなったら聞いてあげるから。その時は言いな。」


マルガリータは極上の笑顔を顔に浮かべてほほ笑んだ。カリーヌの顔にほんの少し笑顔が戻る。少しは効果があったようだ。その後、家までカリーヌが口を開く事はなかった。マルガリータは家までの道程を恰も独り言のように些末な事をカリーヌの為に喋り続けた。



 


一方、上海郊外に到着した吉法師一行は暗い中で火を焚きキャンプの準備をした後で夕食の料理に取り掛かっていた。


「おい、政勝。お前には二度と操縦させない。俺は二度も吐いて帰蝶に怒られたんだからな。」


「仕方ないだろ。初めてだったんだから。」


「あれは初めてというより面白がってセスナを一回転させたり、錐揉みしたりしたように感じたけど、気のせいだった?」帰蝶もかなり御立腹だ。


「申し訳ないです。楽しんでました。」


「罰として此処から目的地までずっとお前が運転しろ。勿論直進のみ右折禁止、左折も禁止、上昇降下なんてもってのほか。錐揉みしたら人生が終わると思え。」


吉法師は珍しく腹を立てていた。勿論、吐気の気持ち悪さもあるが、帰蝶に叱られたことが立腹の主要な原因だろう。


「なんか煩くないか?」吉法師が周囲の騒音が大きくなったことを訝しみ誰とはなしに問い掛けた。


「なんか騒がしくなってきたわね。ダーリン地図で確認してみて。」


「おっと、周りに兵隊さんがいっぱいいるぞ。既に囲まれているな。」


「何やってるの。知らない外国に来たんだから気を付けておくべきでしょ。」


「仕方ないだろ。最初は誰もいなかったんだから。」


とうとう兵隊が槍が届くくらいの距離まで近づいてきた。子供だからそれほどは警戒していない様だが、見た目は大人の女性である珠と妻木に対する目が血走っている。


「(中国語)【おい、ガキ。お前ら早く家に帰れ。勿論女は置いて行けよ。しかし、高そうな服を着ているな。】」


「帰蝶なんて言ってるんだ?」


「知らないわよ。神様から語学の才能貰ってないんだから。」


「でも、抵抗しないと珠と妻木は犯されるぞ。」


「銃で皆殺しにするか。そもそもこいつらはなんで集まってるんだ?」政勝がもっともな質問を吉法師に向けて言う。


「そりゃ、どこかで戦争するんだろ。日本じゃないと良いな。だけど皆殺しにすると言ってもこの近辺に数万人いるみたいだぞ。」


「本当か?じゃぁ、様子を見る為に帰蝶がシールドを張って中でご飯食べながらこいつらがどうするか様子を見よう。まぁ攻撃してくるだろうけど。良いか帰蝶?」


「シールド張ったわよ。もう入って来れないからゆっくりご飯食べてそれからどうするか考えましょう。」


兵士はシールドの外からシールドを槍で突いて割ろうとするがシールドはひびさえ入らない。すると、かなりの数の兵士が集まってきた。吉法師達は中でご飯を食べながらまるでテレビを見るかのようにシールドの外の光景を眺めていた。


「帰蝶、全員槍で突いてるけど大丈夫か?」


「大丈夫でしょ。それより兵士の目が血走って来ているし、顔がニヤついているわよ。明らかに強姦目的ね。怖いわ。体が目当てね。」


「帰蝶、君の胸は大丈夫だよ。」


「し、失礼ねヽ(`Д´)ノ。これから大きくなるのよ!神様とも約束したし。」


「吉法師と帰蝶様は、本当に仲がいいなぁ。」政勝は素直に感想を言ってみた。


「気のせいよ。(* ̄^ ̄*)ふんっ。」帰蝶は照れを怒りの振りして隠す。


「なぁ、帰蝶、中国人に日本語を話させる魔法ってないのか。」


「ないわ。でも、神様ならできるんじゃないの?」


「そうだよな。普通無理か。何処に進攻しようとしているのか聞きたかったんだけど。」


「若しかしたら、日本を侵攻しようとしているのかも知れないから全員纏めて倒すわ。」


そう言って帰蝶はバリアの外側を燃やしていった。火は燃え広がり。まるで竜の様に兵の間を走り兵を次々に燃やしていった。気が付けばほとんどの兵が火で絶命していた。


「はい。お仕舞。さ、朝までここで寝ましょう。バリアはそのままにしておくから外には出れないから。」


結局ほとんどの兵は死亡したが数十名の兵は生きのこった。その兵が北京へ向けて馬を走らせた。勿論報告に行く為だ。結局、日本侵攻の後続部隊を結果的に壊滅させたが、この数十名を逃したことが事態を悪化させていくとは吉法師は思いもしなかった。


次の日、上海付近は快晴で新たな兵の姿もなく夕べの喧騒が嘘のように静かではあったが辺り一面を埋め尽くす兵の死体が昨日の出来事が現実であったことを物語っていた。

吉法師一行は朝から出発し上空から地下に埋蔵されている物質の鑑定をしながら飛んで行くと上海付近の鉱山にもレアメタルが点在していた。なのでその鉱山近辺で採取することにした。

採取するとかレアメタルだけでなくその他諸々の金属や貴金属迄採取できた。


その日の夕方、鉱山近くの草原でキャンプすることにした。


次の日の朝、周りが騒がしい。吉法師が目を開け他の面々を起こすが起きない。仕方がないので一人でテントの外へ出ると兵に囲まれていた。その真ん中に偉そうに高級そうな椅子の背もたれに背を付けながら座っている男が話しかけてきた。四十前くらいだろうか。日本人と違い身長が高い。


「お前は誰だ?」


その男は日本語で話しかけてきた。


「俺はただの市民だ。」吉法師は警戒した。地図のレーダー機能を掻い潜り、あまつさえ帰蝶さえも眠らせてしまった魔力を持つこの男の能力を。


「ただのではないだろ。転生者だろ。そのセスナが証拠だ。お前らは俺の兵を殺しただろ。本来なら許さん。死刑にするところだがセスナはお前が作ったのか?その能力があれば兵の数十万より役に立つ。もしかしたら銃も作ってないか。銃は持ってないのか。」


「それより、他の奴が起きてこないが何かしたのか?」


「リーダー以外は眠ってもらったんだ。お前がリーダーだろ?それで、銃は持ってないのか?」


「銃は持ってないな。」吉法師は身元が特定されないように嘘を付いた。日本の情報を知ってる場合、銃を作ったと知られれば吉法師だと身元を知られる可能性がある。


「銃は作れないのか?」


「分からない。作ったことが無い。そもそも知識が無いからな。」


「そうか。俺はこの国、明の皇帝、厚熜こうそうだ。俺の下で働かないか。セスナを沢山作れば世界征服できる。」


こいつがこの国、明の皇帝か。こいつの情報を聞き出さないとこのまま捕まるかもしれない。もう捕虜はごめんだと考え吉法師は下手に出て情報を聞き出すことにした。


「なるほど。凄いですね。それでコーソーさんも転生者なんですよね。」


「急に下手に出始めたな。情報でも引き出そうと考えたか?俺は人の考えが分かるんだ。」


「え・・・?え、え、エスパーですか?」


「いや、ただの感だ。」


「あ、そうですか・・(;^ω^)」


「それじゃ、部下になれ。日本から銃も手に入れて来るから、それを真似して銃を作れば銃も作れるだろ。」


「日本に間諜でも放ってるんですか。」


「もちろんそうだが、いま10万の兵で日本へ侵攻しているからな。戦利品として銃を持って帰れるぞ。お前も今は中国人なら中国の領土が増えるのは嬉しいだろ。」」


「そうですね。早く日本を侵略したら日本へ行ってみたいですね。」


「そうだろ?セスナがあれば船で何日もかけて日本まで行く必要が無くなるからな。お前の功績次第では日本の統治を任せても良いぞ。」


「ほ、本当ですか?有難うございます。それはそうと、コーソーさんの能力は何ですか。」


「教えられるわけがないだろ。お前も教えるな。俺にはバレてるけどな。」


「はい、気を付けます。」


「ところで、このセスナをくれないか。」


「どうぞお持ち帰りください。私達の家は近所ですので歩いて帰ります。」


「家は何処だ?」


「上海近くの小さな村です。」


「そうか、ではもらって帰るぞ。」


吉法師は操縦を教えないといけないなと思っていたが、厚熜こうそうは何も聞かずにセスナに乗り込むとあたかも運転しなれた車を運転するかのように普通にセスナに乗り込みひとしきりプロペラを回すと降りてきた。


「どうかしましたか。」


「どうなってるんだ?前に進まないぞ?」


「え?前には進みませんよ。タイヤが付いてないので。夜は安全の為に足を固定してるんです。」吉法師は重力魔法が使える事を隠すため、咄嗟に嘘を付いた。


「お前は慎重だな。じゃあすぐに車輪を付けてくれ。」


ここはセスナ位なら離陸できるくらいの草原だったので言い訳を信用してくれたようだ。吉法師は直ぐに三点の着陸用のただの金属の棒を土魔法で車輪に変えた。


「ほう、器用なものだな。その方法でこのセスナも作ったのか。近日中に紫禁城に来い。お前も一緒にこのセスナで日本へ戦況の確認に行くぞ。」


「じゃあ、またセスナを作って伺います。」


「お前と再会するのを楽しみにしているぞ。」


「はい。よろしくお願いします。」


皇帝は数名の部下と共にセスナに乗り込み北の方へ飛んで行ってしまった。他の部下も徒歩と馬で去って行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る