第71話 まーさいびーん

 ここは琉球國。梅雨もとっくに明け強烈な光が降り注ぐ。その為、日中は何もせず皆昼寝をして過ごすのが琉球國の日常。海岸へ出る者もいない。

 しかし、偶には例外もいる。海岸の直ぐ傍の木陰で奴隷とされてしまった5人の女性が海を見ながら何時もの様に井戸端会議に花を咲かせていた。


「ご主人様は、我儘で困るわ。人を奴隷みたいに扱うし。」奴隷一号。


「え、奴隷みたいじゃなく、奴隷と思ってるみたい。」奴隷二号。


「奴隷じゃなく召使なら良かったのに…、あれ?何か船がたくさん来てるけど?何?」奴隷三号。


「何だろう。何十艘もいるよ。かなり大きいよ。でも召使じゃなくって性奴隷だよね。」奴隷四号


「ご主人様に知らせないと。早く行きましょう。」


 奴隷五号が言うと、五人は村に向かって走り始めた。最近、琉球語を覚え喋り始めた武田義信と織田信行だが最初に覚えた言葉は『まーさいびーん』だった。意味は美味しい。

 二人は、とうとう神には連絡が取れず、言葉は覚えるしかなかった。


「ご主人様、船が沢山来てます。まだかなり遠くですが。」奴隷一号が信行に報告した。


「本当か?義信、どうだ、船が来てるのか?」


「来てるな、数にして100艘といった所か。」


「お前気付かなかったのか?」


「このところ平和だっただろ?だから気を抜いていた。許せ。」


「仕方ないな。義信は。」


 信行は笑顔で義信を許す。信行と義信は仲が良いのでこれくらいの事は簡単に許してしまう。が、今回の件は仲が良い事に起因するのものではなく信行は義信に多大な信頼を置いており、義信が何とかしてくれるだろうと安心している事に起因している。


「まぁ、何とかなるだろ、100艘くらい。到着する前に全部燃やすぞ。その前に船まで転移して目的を聞いて来るか。」


 そう言うと、義信は船団の上空まで転移した。義信は一艘に100人は乗っていると考えていたが実は1000人乗っていた。かなりでかい船だ。しかし、現代の最大の客船の収容人数は乗員乗客合わせて8000人であることに比べれば小さいと言える。しかも個室も無く大部屋にぎゅうぎゅう詰めで娯楽など無い。目的地に到着する頃には疲弊してしまう。


 義信は上空に留まり一番豪華そうな船を探す。そこにこの船団の主将がいるだろうと予想して探すと一際豪華ででかい船が一番後方に見えた。

 その船に転移するとかなりの兵がいる。義信は臆することなく平然とあたかもここにいるのが当然といった顔をしながら歩き回り敵将を探す。

 高楼が中央部にみえているのでそこを目指し周りに敵将がいないかを確認しつつ歩く。高楼へ到着し登ると中に黒い梁冠をかぶり、袖が着物の様に広がった赤い羅衣を着たあたかも明の王様の様な男が偉そうに座っている。義信は彼に聞いてみることにした。


「お前らは誰だ。何しに琉球国へ来た?」


「(中国語)【お前は誰だ、なぜここにいる?お前らこいつを捕まえろ。】」


「何だ、中国語か。全く分からんな。」


 すると、兵が突然槍を向けて制圧しようとしてきた。当然中国語が分からないから義信には突然槍を向けてきたように思えてしまった。


「槍よ、燃え上がれ。バーンザスピアズ。」義信は当然呪文など知らない。ただ単に英語で言っているだけだ。


 すると、兵士の槍が燃え上がり、兵は槍を手放してしまった。


「(中国語)【何やってるんだ!お前ら!そのガキを早く捕まえろ!】」


「仕方がない。村に誰か中国語が分かるやつがいるだろ。お前も来い。」


 そう言って、義信はその偉そうな男を連れて漁村まで転移して戻った。


「戻ったぞ。こいつは中国人のようだぞ。誰か北京語か広東語が分かる奴居るか?」


「多分長老が分かります。今呼んできます。」奴隷五号はそう言うと家を出て長老を迎えに行った。


 五分もしない内に奴隷五号が長老を連れてきた。


「どうした婿殿。何かあったか。」


「ちょっと中国語というか明の言葉が分からないんだ、通訳してくれ。何しに来たか聞いてくれ。ついでに名前もな。」婿殿の信行がお願いする。


「(中国語)【お前たちは何しに来たんだ。それからお前の名前は何だ。】」


「(中国語)【もちろん、観光しに来たんだ。俺の名前は厳嵩げんすうという。】」捕らえられたのは皇帝に直接命令を受けた宰相であった。


「観光しに来たと言っているぞ。」長老は聞いた内容を訳して伝えた。


「中国人の団体旅行か。金がある中国は未来も今も変わらず凄いな・・・って、そんな訳ないだろ!どう考えても侵略だろ。船には強弩持った奴が沢山いたぞ。それに城を破壊するための投石器もあった。侵略だろ。言わないと指を一本一本切り落としていくぞ。ここにはジュネーブ条約も無いしな。それより、俺が操って答えさせた方が早いか。」信行は相手の発言に突っ込みつつ魔法を掛けた。


 長老は理解できるところだけ訳した。


「(中国語)【侵略だ。兵は10万人いる。お前たちがマシンガンを持っていたとしても大明国には勝てないぞ】」さすがに、意識を操って答えさせただけあって中国人は素直に答えた。


「おい、こいつマシンガンと言ったぞ。お前は転生者か?なぜマシンガンという言葉を知ってる。訳してくれ。」


「(中国語)【転生者?何か分からんがマシンガンという言葉は陛下がおっしゃっていた言葉だ。】」


 そのまま長老は訳した。


「義信、だとすれば明の皇帝が転生者という事になるな。」


「そうだな。皇帝か。良い所に転生したな。俺達とは大違いだ。くそー。」


「仲間にするか。」


「そうだな、それより、信行が10万の兵を操って織田を攻めないか。」


「それは良い考えだ。でも10万人も無理だと思うぞ。」


「将クラスだけを洗脳すれば大丈夫だろ。明のために戦っていると思っているが実は俺達のために戦っていたと言う訳だ。」


 そして、義信は信行と捕虜の厳嵩げんすうを連れて各船を回り、各船につきその船で一番偉い将を一人だけ奴隷化し計100人を奴隷化した。こうして10万人の大軍を手に入れた武田義信と織田信行はまずは琉球国を手に入れ九州を目指すのであった。



 一方、尾張国那古野城。


 吉法師はいつものように兵の訓練と滝川一益による剣の訓練を終えひとっ風呂浴びた後、縁側で寛いでいた。尾張は梅雨も終わり強烈な太陽が降り注いでいた。しかし、湿度が少ない上にか涼しい風が吹き縁側で涼しく寛げるのでクーラーまでは必要ではなかった。横には一緒に訓練を終えて寛ぐ三好政勝がいる。二人で西瓜を食べていた。


「吉法師、これから中国に行くのか?」


 中国行きの目的はレアメタルの採取だ。


「今から行くぞ。未だ1時ごろだろ。銃を人数分以上に持って行くぞ。お前のアイテムボックスに入れて置けよ。食料とおやつもな。後、採取した鉱物を入れる箱だな。あ、テントもな。」


「俺も一緒に行くなら、俺にもセスナ運転させてくれよ。」


「それは帰蝶にお願いしろ。成都までの距離は3000キロだから時速200キロで進んでも15時間かかるな。多分途中で飽きるだろうから代わってもらえるぞ。今日は半分進んで上海付近でキャンプだな。休憩なしだと7時間半か。今から台所いくぞ。食料を補給する。」


「コーラも持って行くんだろ?」


「勿論だ。」


 コーラは砂糖を焦がし色を付けするとともに砂糖で甘くした水に、科学的に合成して作り出したの炭酸を混ぜただけのなんちゃってコーラだが慣れれば美味しい。

 こうして二人は食堂まで行きデカい冷蔵庫からコーラと食料を取り出し、冷凍庫から凍った肉を取り出してセスナの冷蔵庫と冷凍庫に詰め込んだ。


 そこへ珠と妻木を連れた帰蝶が着替えなどの荷物を抱えてやって来た。因みに、エリカは、次の日に帰蝶が越後迄連れて行った。


「準備出来た?さ、行くわよ。」


「政勝がセスナ運転させてくれってよ。」


「良いわよ。落ちても大丈夫よ。私は逃げるから。」


「ちょっと、酷いですよ、帰蝶様。」政勝は吉法師にはため口だが帰蝶には相変わらず敬語だ。多分女王様プレイだと思っているのだろう。


「だったら、妻木が政勝の横に座りなさい。デートよデート。」


 政勝は緊張気味に操縦かんを握りプロペラを回転させるモーターを回す。セスナはそのまま前進しそうになるがタイヤが付いていないので風を起こすだけだ。


「政勝、あなた重力魔法が使えなかったわよね。なぜお願いしないの。」


「いや、出来るかなと思いまして。でも、出来ませんでした。上昇を宜しくお願いします。着陸の時も。」


「じゃあ、上昇させるわよ。合図したらモーターを回して。」


 こうして帰蝶が上昇させ政勝がプロペラを回して機は中国を目指して前進し始めた。ある程度のスピードが出たので政勝は操縦かんやペダルをいじって飛行機の挙動を確認する。


「なるほど、スティックを左へ倒せば左へ傾き、そのまま少し引けば左へ曲がるという事か。なるほど。引けば上昇。押せば降下する訳か。ペダルを踏むとラダーが左右に動くのか。楽しーい(^◇^)。」政勝はゲームをしているように笑顔でセスナを左へ右へ上へ下へと動かし未だに尾張さえ出ていなかった。


「政勝、真っ直ぐ進め。俺は吐くぞ。今日中に東シナ海を越えられないぞ。しかも、吐いたら帰蝶に殺されるんだぞ。」吉法師は政勝の操縦で気分が悪くなってしまった。


「政勝、もっと速度出して、未だ時速100キロ位よ。これじゃ、上海まで15時間掛かっちゃうわよ。せめて200キロ。それでも7時間も掛かるけど。」


「帰蝶様、もうこれ以上の速度は出せません。」


「だったら速度が上がるように馬のように鞭で叩くわよ。」


「え?本当ですか(*´∀`嬉)?」


「あ、あなた鞭で打たれるのすごく嬉しいみたいね?・・・・(¬_¬ )」帰蝶は冷めた目で冷たく睨む。


「そ、そんなことはありません(;゚Д゚)アセアセ。」図星のようだ。


 途中、運転を吉法師と帰蝶と三人で交代しながら機は本日の目的地である上海近辺を目指す。


 その頃上海には、日本侵攻の為の後続部隊が集結しつつあった。



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