第69話 お願い

 そろそろ梅雨も明けそうな尾張はもう直ぐ水無月へと突入する。雨もあまり降らなくなり、本日も曇ってはいるが雨は降ってはいない。帰蝶と吉法師とエリカの三人は熱田神宮に来ていた。別に帰蝶とエリカの二人だけでも良かったのだが吉法師も神に聞きたい事があった。それはヒヒイロカネの材料が決定的に不足し見つからないという事であった。その在処を神に聞きたかったのだ。

 三人は転移で熱田神宮まで飛んだ。


 熱田神宮の歴史は古く生えている木は高くそびえ熱田神宮の中を厳かではあるが暗く鬱蒼とした空間に変えていた。


「ここが熱田神宮?暗いわね。」


 初めて熱田神宮を訪れたエリカは喜びのあまり周りをキョロキョロ見回している。


「すごく木が高い。信長塀は何処?」エリカははしゃぎながら嬉々として尋ねる。


「ある訳ないでしょ。それに今川義元とは戦わないんだからもう信長塀は奉納しないかもね。」帰蝶が突っ込みを入れる。


 吉法師一行はいつもの祈祷の場所へ来て神に祈る。


「神様、神様、応答せよ、応答せよ。」


「何だ、お前か。本当にひさしぶりだな。もっと祈っても良いんだぞ。その娘は誰だ?」


「忘れたんですか?それは後でお願いします。ヒヒイロカネの材料が見つかりません。希土類元素が見つかりません。場所知ってます?」


「レアアースは中国だろ?中国に行けば見つかるぞ。」


「そうですよね。思い出しました。レアアースの産出国と言えば中国ですよね。」


「そうじゃ、ところでそこ娘は誰だ。」


「私は、長尾景虎です。前世の名前は増田エリカです。もう忘れたんですか。」


「いや、一回も俺とコンタクトを取らなかったから忘れた振りをしたんだ。」


「だって、知らなかったですよ。熱田神宮でコンタクトとれるなんて。」


「そうか、言ってなかったかな。それは申し訳ない事をした。それに神社ならどこでも良いんだけどな。」


「申し訳ない事をしたと思うならお願いを聞いてください。力が欲しいです。亜里沙のような強大な力が欲しいです。大中華帝国を倒せるほどの力が欲しいです。」


 エリカは涙を流しながら感情を吐露していた。どうする事も出来ずに友を失ってしまった事、どうする事も出来ずに殺されてしまった事、それらのやるせない感情が涙をあふれさせていた。


「そうか、力が欲しいか。ならば受け取るが良い。」


「それと、私と一緒に殺されたエライザはどうなったんでしょうか。この世界に転生しているんでしょうか。」


「あー、そうだ。この世界に転生している。」


「どこですか?教えてください。」


「ヨーロッパのどこかだ。」


「アバウトですね。それと、もう一つお願いがあります。」


「まだあるのか?言ってみろ。言い忘れてた謝罪だからな。」


「元の世界へ返してもらえませんか。」


「それは出来んな。お前はこの世界で生まれたこの世界の人間だ。ただ、一定期間だというのなら可能だ。」


「それでも構いません。元の世界で復讐を果たして元の世界を良くして帰ってきます。」


「そうか。しかし、直ぐには無理だな。力を与えたとしてもそれを使えなかったら話にならない。それに、お前がいた元の世界はその世界の神が存在し俺の力の及ばない世界だ。だから、手助けすることは出来ないぞ。だからこの世界で力を付けたら元の世界へ送ってやる。勿論一人ではないだろ?」


「はい。エライザを見つけて一緒に世界を変えて戻って来たい。」


「だったら、ヨーロッパへ修行の旅に出ろ。そこでエライザを見つけろ。ヨーロッパは剣と魔法が蔓延はびこっている。俺が転生させたヤツらが魔法で国々を支配して魔法を蔓延らせた。そこで修業を積めば強くなるだろう。帰蝶も連れて行ってい良いぞ。どうせ帰蝶は歴史にはあまり顔を出さないからな。」


「えー、私もですか(¬_¬)?」帰蝶が顔をしかめながら文句を垂れる。


「亜里紗、嫌なの?」エリカが冷めた目で帰蝶を問い詰める。


「分かったわよ。じゃあ、ダーリンも。」


「いや、吉法師は一緒に連れて行くわけにはいかないぞ。当然だろう。未来は決まってないとはいえ、代わり過ぎるのもどうかと思うぞ。」


「じゃあ、私に地図の能力と、アイテムボックスと剣術スキルてテレパシーのスキルも頂戴よ。あと、ヨーロッパで戦うのなら今すぐ身長高くして。後胸大きくして。」


「ち、注文が多いな!では転移の魔法と引き換えにアイテムボックスでどうだ。」


「それでは日本にすぐに帰って来れなくなる(T_T)。」


「簡単に帰れないのが普通だろ。体型はその内変わるから暫し待て。それと、だいぶ前に、俺の知り合い、というか転生させた者がいるんだが、そこに幼女として預けるから、そこを拠点にエライザを探せばいい。」


「なんで詳しい場所を教えてくれないの?」


「教えたら訓練にならんだろ。エリカがいた世界で直ぐに死ぬぞ。」


「言葉はどうするの?もちろん使える様にしてくれるんでしょ。」


「自分で覚えろ。それとも、重力魔法と引き換えに言葉を使えるようにしても良いぞ。」


「それじゃ、飛行機も使えなくなる。」


「どうせ、セスナじゃヨーロッパには行けないだろ。まずは、中国でレアメタルを採取し、ヒヒイロカネを作る。その上で、重力魔法を使い高速で飛ばせる飛行体を造りヨーロッパまで行くと良い。それまでには転移を取るかアイテムボックスを取るか、そして、重力魔法を取るか言葉を取るかを決めれば良い。全部は無理だぞ。」


「そうね。上手くあなたを騙す方法を考えるわ。」


「おいおい。神は騙せないぞ。」





 一方、ここは明の時代の中国。首都の北京。皇帝厚熜こうそう、つまり嘉靖帝は紫禁城の御花園と呼ばれる日本の大奥の様な場所で側室を侍らせ暇を持て余していた。


 彼は傍系ではあったが兄を殺し、当時の皇帝である正徳帝の子供を殺害し、更に正徳帝も殺害。そして、皇帝の座に就いた。現在38歳であり、14歳で帝位に就き既に24年が経過していた。


「おい、厳嵩げんすう、日本の動向はどうだ?戦国時代で兵が疲弊し攻め時ではないのか。」


 厳嵩げんすうと呼ばれたこの男は、道教に熱中していた皇帝厚熜こうそうに青詞という道教の祭文に長じていた事を買われ内閣大学士に任じられた人物だ。「青詞宰相」と称された。


「いえ、今は不味いかと思われます。」


「なぜだ。」


「銃についてはご存知だと思いますが。現在日本では火縄銃は使われておりません。」


「何だ?まだ弓でも使ってるのか。だったら制圧も簡単だろう。」


「いえ、それが。火縄を使わない銃を使っております。なんでも、一発ごとに弾を込めるのではなく、纏めて弾を込め、一度に何発も撃てるとか言う話でございます。」


「何だ?マシンガンでも開発したか?どう言う事だ?開発の速度が速すぎるだろ。」


 マシンガンを知っているこの皇帝厚熜そうこうはもちろん転生者である。


「なんでも、吉法師と言う尾張の小国の人物が作り出し各地で同盟を結び足利幕府の結束を強めているようです。戦国時代を終わらせるつもりかと思われます。」


「吉法師?そうか。織田信長が頭角を現してきたか。しかも、マシンガンを使えるとなると俺と同じ転生者だろうな。面白い。日本を攻めるぞ。信長が日本を纏める前に日本を攻め、俺が日本を統一してやるぞ。」


「ましんがんですか?なんですかな、それは。」


「お前は知らなくても良い。」


 マシンガンを知らないこの厳嵩はもちろん普通の人である。


「はい。では戦の準備を整えます。もう道教はなさらないのですか?」


「あれはポーズだ。」


「は?ぽ、ぽーずですか?」


「10日だ。10日で準備を整えろ。」



 一方、ここはヨーロッパ、フランスの南東部サヴォイア公国、サヴォイア公爵の治める国。その北部寄りのプールジェ湖の南に位置する公都シャンベリ。

 その一角に公爵の寄子よりこであるアルフレッド・ド・サボナ男爵が娘カリーヌと住んでいた。彼の領地は地中海岸にあるが代官を置き通常はシャンベリに住んでいる。彼は去年妻を亡くしたばかりである。

 しかし、本日新たな妻をめとる事になっている。

 昼頃、新しく妻となるヘンリエッタが娘のマルガリータとパンナコッタを連れて男爵の公都の家にやって来た。


「いらっしゃい。カリーヌ、こちらが新しく妻となり、君の母となるヘンリエッタだ。」


「それと、娘のマルガリータとパンナコッタですわ。」ヘンリエッタがアルフレッドに続いて娘の紹介をする。

 娘二人は、家の中を見回すのに余念がなくカリーヌの事もアルフレッドの事さえ見ていなかった。ヘンリエッタが我儘放題に娘を育てて躾も施さなかったのだろうか。

 マルガリータもパンナコッタも母親の髪を受け継いだようで、ヘンリエッタと同じプラチナブロンドの髪をしていた。流石にアルフレッドが後妻に選ぶと納得できるほどヘンリエッタは美しく年の割にはスタイルも良かった。そして娘二人もその美しさとスタイルの良さを受け継いでいた。

 マルガリータは15歳、そして妹のパンナコッタは13歳でカリーヌと同じ年であった。


 次の日、アルフレッドは領地視察のために朝から出かけていた。昼頃、カリーヌも出かけようとしていた。その時、激しく呼び止められてしまった。


「ちょっと、待ちなさいよ!」


 上の娘のマルガリータだった。アルフレッドが出かけるのを待っていて文句を言い始めたかのようだった。


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