第62話 反撃

 既に午後三時くらいだろうか、辺りは厚い雲に覆われた空によって夕方と思えるほどの明るさしかない。ほとんど熱が加えられていない氷が解けたままの冷たい小雨が降り始め辺りの気温を下げ続けている。


 独房のある地下へ入ると兵士とバッタリ会った。兵士は驚いたように目を見開き槍を向けて来る。


「ど、どうやって独房の外に出たぁ!」


「煩い。」


 帰蝶が一睨みすると兵士は力を失くし崩れ落ちた。帰蝶は兵士から鍵を取り吉法師の牢の扉を勢い良く開けた。


「はーい、ダーリン、珠、元気だった?」


「珠が生きているのに驚かないんだな。」


「私が治したんだから驚く訳ないじゃない。その後で、昏睡状態にしたのよ。」


「やはり、お前の仕業か。それより、お前は大丈夫か。聞いたか、尾張は占領されたぞ。取り戻さないと。」吉法師は焦りと絶望で顔色が悪くなっている。


「どうどう。落ち着きなさい。」


「俺は馬か?」


「あれは義信と信行の嘘よ。」


「嘘?どうして嘘ってわかるんだよ。」


「尾張迄行って確かめて来たからよ。」


「尾張迄行ったのか?そう言えばどうやって独房出たんだ?」


「魔法で鍵壊した。」


「魔法が使えたのか!だったら、なぜ俺を出さないんだ。」


「敵を騙すにはまず味方からって孫武も言ってるでしょ。」


「もういいよ。帰蝶はずっと外に出てたのか?何してたんだ。」


「情報収集よ。武田兵は現在、長篠城の攻城戦をやってるわ。義信・信行の二人を倒せば攻城戦を中止させることが出来る。早く倒さないと今川兵も武田兵も犠牲が沢山出る。幸い、今は膠着状態に陥ってるから暫くは大丈夫だと思うけど。」


「政勝と俺と帰蝶で戦うのか。大丈夫か。」


「銃は那古野から持ってきたわよ。それと、もう一人味方が出来たわよ。」


「誰だ?」


「上杉謙信よ。」


「上杉謙信?じじいじゃないのか?」


「なんでよ!あなたと三つしか違わないわ、まだ15歳の少女よ。」


「少女?。女なのか珠より若いな。美人か?」


「美人かどうかは関係ないでしょ。美人だけど。愛人にでもするつもり?でも、織田に来てもいいかなとは言ってたけど。」


「ほ、ほんとか? (๑•̀ㅂ•́)و✧ 」


「なんで、そんなに喜んでるのよ。さ、他の人も助けだすわよ。」


 帰蝶は政勝を助け出し、その後、妻木、今川義元と妻の花を助け出し、全員で武田晴信の牢までやって来た。


「こんにちは晴信さん、義元さんも一緒にここにいて。ここにバリアを張って敵が入れないようにしておくから。昔話でもして待ってて。それと義元さん。今、太原雪斎たいげんせっさいさんが長篠城で籠城してるけど、義信と信行を制圧したら戦も終わるでしょ。」義元の顔に焦りの色が浮かんでいる。義信達から聞いていて不安に思っていたようだ。


「駿府城は無事でおじゃるか?駿河・遠江・三河も武田が占領したと信行が言っていたでおじゃるが。」


「あれは信行の法螺よ、法螺。」


「あれは法螺か。息子の義信もとんでもない法螺吹きに踊らされているようだな。帰蝶殿、吉法師殿、この国を取り戻してくれ。」晴信は慇懃に頭を下げ懇願した。息子の事が心配の様子だ。


「しばらくここで待っててね。倒して来るわ。」


「じゃぁ、帰蝶行くぞ。」


「あいよ。お前さん。」


「って、お前は江戸の人かよ。」


 吉法師、帰蝶、政勝の三人は地下の部屋から地上へ出た。

小雨が降っていてかなり冷え込んでいた。

帰蝶がふと横を見ると、景虎が既に牢のある建物の入り口で待っていた。


「あれ、エリカ、待ってたの?」


「門番は倒してきたわよ。後は中にいる義信と信行ね。」


「紹介するわ、彼が吉法師。」


「あら、綺麗な顔してる。じゃあ、私愛人一号でいいわよ。」


「えー、上杉謙信が織田信長の愛人になるの?」帰蝶が思わず本音が漏れた。


「なに?上杉謙信は織田信長の愛人になるのか?だったら俺の敵じゃないか。まぁ、上杉と織田は敵だけど。」


「この人何言ってるの?」エリカこと景虎が意味が解らず帰蝶に質問する。


 帰蝶は耳に口を近づけ小声でエリカに告げる。


「この人は自分が織田信長だって知らないのよ。面白いから教えないの。エリカも教えないで。このままでは織田信長に殺されると思ってて、殺されないように今まで頑張って来たんだから。」


「あー、あなたが上手く操って天下取りをさせようとしているのね。」


「そう。本人は天下取りには興味が無くて日本を出てヨーロッパでハーレム作る為に兵力増強を目指しているようだけど。」


「おい、何二人で小声で話してるんだ。俺にも教えろ。」吉法師の好奇心と嫉妬心と猜疑心が頭の中で渦を巻きそれが言葉となって現れる。


「あ、ごめんなさい。こっちは今川正勝。転生者ね。」


「ん~~、誰?やっぱりわからない。」


「俺もだよ!(-"-怒)」三好政勝が苦々にがにがしげに同意する。」


「それで、この娘はエリカよ。転生者。今の名前は長尾景虎。西暦2200年から転生したのよ。」


「え?ヤ・・・」


「飛んでないわよ!!」


 吉法師の質問を被り気味で景虎が否定した。


「まだ何も言ってないぞ。」


「もう行くわよ。躑躅ヶ崎館占領作戦(改)を開始するわ。」帰蝶はめんどくさくなって作戦決行を宣言した。


「作戦の詳細は?」


「行き当たりバッタリ、もとい、臨機応変よ。o(・`д・´。)ヨーシ!ねぇ、ダーリン、義信と信行は何処にいるの?地図で確認して。」


「西側の裏門から入って突き当りの建物の中にいるみたいだな。二人とも。ん?地図に変な丸があるぞ。丸が二人を囲ってるんだが、何か分からんな。」


「それって、バリアかなんかじゃないの?」エリカが自分の考えを言い表した。


「だったら、普通の攻撃は通じないわね。塀の外からその部分に上空から熱球で攻撃し、奴らだけを高温で消滅させることにするわ。目標は10,000℃にする。もう逃がさない。特に信行。晴信さんには悪いけど、義信も倒す。どうせ、晴信さんを殺そうとするんだろうし。」


「ねぇ、攻撃は転移させられないの?」


「つまり?」


「攻撃をバリアの中に転移させることが出来ればバリアで攻撃が弱くならないんじゃないかと思って。」


「やったことないわ。失敗したら元も子もないから、私の案で行くわ。」


「ここでやるの?」


「黙って。集中するから。初めての魔法だから集中しないと失敗するかもしれないから。光を球体のバリア中にに集めて逃がさない。そうすればその球体は高温になってその球体の内側だけを一瞬にして消し去る、ことが出来る、はず。もう日はだいぶ傾いてるけど、幸い雲の上は快晴だから、光を集めて高温に出来る。よし完成!」


 光の塊が上空からゆっくりと本主殿へ向かって漂う様に落ちて来る。外には光が全く漏れていないようで眩しくも無く只の塊のように見える。その球体が義信と信行のいる本主殿に落ちた。悲鳴も無ければ破壊音も無い。近くで小鳥の鳴く声が聞こえるくらいに平和そのものの状況が続いていた。それ以外の音もしない。


「何?失敗した?」エリカが訝しがる。


「( ̄へ ̄|||) ウーム、大丈夫だと思ったんだけどな。既に攻撃は二人に気付かれてるから用心しながら二人を捕まえに行かないと。絶対攻撃してくるわよ。」


「なら、行くぞ。攻撃準備しろよ。政勝は収納魔法を神に貰っただろ、武器を入れてないのか。」


「こっち来るとき貰ったばかりだからな。持って来た試作品だけだ。だが弾が無いな。」


「役立たずね。(;¬_¬)」エリカの政勝に対する評価が名前の知名度のように下がっていく。


 帰蝶は持ってきた銃を吉法師と政勝とエリカに渡した。吉法師、帰蝶、政勝、エリカの四名は警戒しながら本主殿へ向かって行った。


「ダーリン、二人はそこにいる?」


「分からないな、死んだのか、他へ転移したのか。」


「つまりは、その建物にはいないという事?」


「攻撃を受けたから他へ転移し、体制を整えて攻撃を仕掛けて来るかも知れないぞ。周りを警戒しろよ。」


 四人は警戒しながら本主殿の側へ来た。

 建物を見ると建物には全く被害が無い。どうやら逃げられたようだ。四人はそのまま建物の中へ入ると部屋の真ん中が直径2~3m位に丸く消滅していた。上を見ると天井も丸く穴が開き空が見えた。床の穴を覗くと床下の土も直径1.5m程の穴が開いていた。二人の姿は何処にもない、死体も無い。攻撃はきちんとこの部屋までは届いた様だが、二人に攻撃が効いたかどうかは不明だ。


「どうやら逃げられた様だな。」


「そうみたいね。ねぇ、地図でどこにいるか確認してみて。」


「俺がわかる範囲にはいないな。義信は俺より魔力が強いんだから俺の能力で分かる範囲外にいるのかも知れないな。」


「ダーリンが分かる範囲って何処迄よ?」


「俺が分かるのはここから半径10kmの範囲内だな。」


「半径10km?(´゚ω゚`)ショボッ 。」


「何言ってるんだ、半径10キロ圏内は誰がどこにいるか分かるんだぞ。」


「でも、実際義信たちがどこにいるか分からないでしょ。私でさえ尾張迄160キロ転移したのに?10キロ?少なくない?」


「(○ ̄ ~  ̄○;)ウーン・・・。まだ子供だからな。その内広くなるだろ。」


「 ┐(´~`)┌ ヤレヤレ 」


「 Σ( ̄Д ̄;)なんだよ・・・」

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